「言ったのに伝わらない」が起きる本当の理由
「ちゃんと伝えたはずなんですけどね」
現場でこの言葉を聞くたびに、私は少しだけ立ち止まります。
伝えた。
確かに伝えた。
それなのに、相手は動いていない。
あるいは、まったく違う受け取り方をしている。
昨日の記事では、
社員に「集中してほしい」を伝えるという話を書きました。
今日はその続きとして、
そもそも「伝えたのに伝わらない」という現象が、
なぜ起きるのかを掘り下げてみたいと思います。
この記事を書いたのは、
「伝えた」と「伝わった」の間にある溝を、
はっきり言葉にしておきたかったからです。
読み終えたときには、
なぜ自分の言葉が届かなかったのか、
その構造が見えているはずです。
もし今、何度言っても現場が変わらないと感じているなら、
この記事はその原因を照らします。
「伝えた」は、発信した側の記憶にすぎません
まず、はっきりさせておきたいことがあります。
「伝えた」というのは、伝えた側の記憶です。
「伝わった」というのは、受け取った側に起きた変化です。
この二つは、まったく別のものです。
こちらが言葉にした瞬間に、
それが相手の中で同じ意味として受け取られる、
という保証はどこにもありません。
それでも私たちは、
口に出した時点で「伝えた」と認識し、そこで安心してしまいます。
この認識のズレが、「言ったのに伝わらない」の正体です。
伝わらない理由その1:前提が共有されていない
一番多い原因が、これです。
経営者は、日々経営全体を見ています。
売上の推移、利益の構造、来月の資金繰り。
こうした情報を頭に入れたうえで、「この業務を見直そう」と考えます。
しかし、社員はその情報を持っていません。
だからこそ、同じ言葉を聞いても、受け取る意味がまったく違ってきます。
経営者にとっては「必要な判断」でも、
社員にとっては「唐突な指示」に聞こえてしまうのです。
言葉が同じでも、立っている場所が違えば、見えている景色は変わります。
ここを埋めないまま指示だけを出しても、
伝わりようがないのではないでしょうか。
伝わらない理由その2:目的ではなく、作業を伝えている
もう一つよくあるのが、
「何をするか」だけを伝えて、
「なぜそうするか」を伝えていないケースです。
「この書類のフォーマットを変えてください」とだけ言われた場合、
社員はその作業をこなすことはできます。
しかし、なぜ変えるのかが分からなければ、
そこから先の応用は生まれません。
似た場面が来たとき、また同じように指示を待つことになります。
一方で、
「お客さんへの説明時間を増やしたいから、書類を簡単にしたい」
と目的まで伝えられていれば、
社員は自分で判断できるようになります。
目的を共有することは、単に丁寧なだけでなく、
その後の自走につながる投資でもあるのです。
伝わらない理由その3:一度で伝わると思っている
そして、意外と見落とされているのがこれです。
人は、一度聞いただけの話を、
そのまま覚えていることの方が少ないものです。
特に、自分にとって優先度が高くない話であればなおさらです。
これは、集客の世界とまったく同じ構造です。
チラシを一度配っただけでは記憶に残らないように、
社内の言葉も、一度伝えただけでは定着しません。
伝わっていないと感じたとき、必要なのは、
声を大きくすることでも、強く言うことでもありません。
同じことを、形を変えて、繰り返し伝えることです。
業種別に見る、伝わらなかった場面
整体院の例です。
ある整体院では、経営者が
「予約管理をもっと丁寧にしてほしい」
と繰り返し伝えていましたが、改善が見られませんでした。
話を聞いてみると、スタッフは「丁寧に」という言葉を、
「お客さんに感じよく対応すること」だと受け取っていたのです。
経営者が本当に求めていたのは、
キャンセル時の記録と、その後のフォローでした。
言葉の解釈が違っていただけで、両者とも真面目に取り組んでいたのです。
工務店の例も見てみましょう。
あるリフォーム会社では、
「現場をきれいに保つように」
と職人に伝えていましたが、なかなか徹底されませんでした。
そこで、なぜそれが必要なのか——
近隣からの印象が次の受注につながっているという背景を共有したところ、
指示しなくても現場が整うようになりました。
どちらの例も、伝える側に悪気はなく、受け取る側も真面目でした。
ただ、言葉の意味と背景が共有されていなかっただけなのです。
今日から試せること、一つだけ
難しいことはしなくていい。
今日のアクションは、これだけにしてください。
最近伝えたことを一つ思い出し、
相手に『どう受け取ったか』を聞いてみる
その答えが、自分の想定とどれくらい違うか。
そこに、「伝えた」と「伝わった」の距離が表れます。
【編集後記】
「何度言っても変わらない」と感じるとき、つい相手のせいにしたくなります。
でも、たいていの場合、相手も真面目にやっているのです。
ただ、受け取った意味が違っていただけ。
これは、社内に限った話ではありません。
お客さんに向けた発信でも、まったく同じことが起きています。
伝えたつもりが伝わっていない。
その前提に立つだけで、言葉の選び方は変わってくるのではないでしょうか。
明日は、業務改善が「続かなかった」会社に共通していたことをお届けします。せっかく始めた改善が、なぜ元に戻ってしまうのか。失敗事例から整理していきます。
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