共生の黎明 #110 第22章 第3節:はじまりのやりとり 連続小説
都心の繁華街。
昼下がりの飲食店では、厨房から静かな嘆きが漏れていた。
「お客さん、また減ったな……。原材料費がどんどん上がってるから、こちらも仕方なく値上げせざるを得ないし」
店主のつぶやきに、厨房の奥で仕込みをしていたスタッフが答える。
「物価が上がって、みんな財布の紐が固くなってますよね。でも、アヤ/ユラの支払いは少しずつ増えてます。あれがもう少し広まれば、助かるのに」
店内は静かだったが、テーブルに置かれた小さな札には、こう書かれていた。
「アヤ/ユラでの支払い、歓迎します。お店でできること、小さくても、まわしていきたい。」
レイはその日、この地域の小規模店舗を回りながら声を聞いていた。
花屋の店主は、仕入れ値が上がり続ける中で、近隣のパン屋と組んで「お花とパンのセット便」を始めたという。
八百屋では、余った野菜を無償で近くの弁当店に提供し、その代わりに翌週分の弁当を“ありがとう”として受け取るというやりとりが続いていた。
「現金がないと回らない、という発想そのものが、変わってきてるのかもしれないな」
ある古書店の主人が、店先の本棚を並べながら言った。
「人と人とで、“できること”を差し出し合うっていうのは、思ったより温かいんだよ。最近、そんなことをよく感じる」
夕暮れが近づくなか、レイはその言葉を胸に刻みながら、通りを歩き続けた。
通貨の価値が揺らぐとき、代わりに浮かび上がるのは、人と人の間にある、小さな信頼の連なりだった。
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