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つれあい(上)

割引あり

 唐突ですみません
「そんな義理はない」という声を承知の上で紹介させていただきます
 唯一にして無二の妻です
 いい歳をして突然こんな気持ちになったのもそれなりの理由があります
 というのも
 夫たる私が長年撮りつづけてきた彼女の写真を久方ぶりに眺めているうちに
 文学へのそれとはまた異なった執筆意欲がどっと噴出したからです
 執筆も午睡も庭仕事も予定通りに終えた昼下がり
 時間を持て余して埃にまみれた分厚いアルバムを久方ぶりに手にしました
 するとどうでしょう
 摩訶不思議な追想と共に抑えがたい衝動に駆られたのです
 つまり
 これまでのおよそ六十年間付き纏ってきた謎がだしぬけに解けました

 その謎とは
 文学青年とはまさに正反対のタイプの典型である私が 
なぜこの世界へ足を踏み入れたかという自身への根源的な疑念です
 その自問に対する自答はずっとこんな調子でした
 「おそらくはとち狂ったのだろう」
 「勤め先の会社が倒産しかけたので苦肉の選択としての転職だったのだろう」
 「社会の決まり事などくそ食らえだ」
 「これは自分の命と人生なんだから好き勝手やらせてもらうぜ」

 そうした反逆的にして異端的な生き方に的を絞ったのは
 物心がついたかつかないうちで
 さらに驚くべきはその尋常ではない性格を当時からはっきり自覚していたことです
 呆れ返ったことに小学一年生からそれでした
 「こんな調子では真っ当な人生を歩むのは難しいだろう」
 そう両親や教師が心配したのも無理からぬ話です
 だからといって暗い子どもではなく
 むしろ周りを暗くさせてしまうほど底抜けに明るい自由児でした
 大人の会話に口を差し挟むほどの喋り好きでした
 勉強は嫌いでしたが学校は好きでした
 自室に引き籠もってしまうような内向的なタイプではなく
 外向的な性向が強過ぎるために登校を欠かしませんでした
 要するに学校を遊び場的な社交の場と捉えて
 文部省がめざすところの学びの場としてはまったく受け止めていなかったのです
 そんな私を特殊学級へ転入させた理由もよくわかります
 関係者は私の頭のどこかに社会性への歪みが生じていると判断したのでしょう
 父親の転勤のせいで転校するまでのあいだそのクラスで過ごした三年間
 屈辱も感じなければ悲哀ともまるで縁がありませんでした

 但し
 病弱な子や知能や心に脆さがある級友に囲まれての異様な暮らしのなかで
 培われたという表現では納まり切らないものをふたつ会得したのです
 弱い立場の者に対する過剰な理解と
 その反動としての理不尽な強者に対する直接的に過ぎる反撃手段です
 いじめた者はそれ以上に懲らしめる
 それもやり過ぎるきらいがありました
 そしてそのふたつを心の軸に据えて成長するうちに
 単なる不良少年ではない
 一風変わった手に負えないクソガキへと突き進み
 その途中でさらに考え方があらぬ方向へと曲がってゆきました

 はみ出し者の典型
 手余し者の代表

 そう解釈することでひとまず納得した関係者が圧倒的多数でも
 しかしなかには
 「こいつはそれだけではないぞ ほかに何かあるぞ」と思って優しい言葉を掛けてくれる教師もいたことは事実です
 当時の私はそんな〈ほかの自分〉を探ってみようともせず
 ひたすら非常識な行為に没頭することで今を充実させ
 明日のことなど真剣に考えもしませんでした

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