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改定版『百と八つの流れ星』1

 いかに凡庸な
 いかに愚劣な
 いかに残酷な人生であろうとも
 時として流れ星のごとき輝きを放つ一瞬があります

 そして
 その切なくも美しい束の間の光芒は
 百と八つの煩悩のどれかの色に染まって
 この世における命のなんたるかを
 天を仰いで嘆息する衆生に暗示して止まないのです

百と八つの流れ星

くつろぎの馬

 広々とした丘陵地をいくら勝手気ままに駆け回れるとはいえ
 結局は周囲をぐるりと頑丈な柵で仕切られた
 逃れる術もない囚われの立場
 しかし
 またしても子種を宿したその馬だけは
 浮き寝の旅を送る野生馬のごとき
 名状しがたい無碍のなかに生きていました。

 そして今し方
 半島の向こうから潮気を含んだ風がそよそよと吹いてきて
 波打つ草のきらめきがゆるやかなうねりと化し
 美々しい毛並のアパルーサが独り群れから離れ
 朝露でしっとり濡れている黄色い小花の前で立ち止まり
 まったくだしぬけに草食動物としてあるまじき行動に出たのです。

 過剰な自己愛と警戒心をさらりと捨て去り
 群生の花に囲まれるようにして身持ちの巨体をべったりと横たえ
 それはさながらだしぬけに体調が狂ったかのようなくずおれ方であったのですが
 実際のところ健康になんら別条はありませんでした。

 とはいえ
 いくら安全が確保されている環境に置かれていても
 仔馬でもない限りそこまでくつろいだ姿を晒すのは実に希有なことでした。

 食が細くなるばかりの老い果てた馬ならまだしも
 この先まだいくらでも孕むことが可能な
 元気盛りの
 気性の勝った牝馬が
 裸の大地に大小ふたつの命をそっくり預け
 すっかり委ねてしまうとはまさに驚きです。

 確かに彼女の理性はいくらかまどろんでいて
 だからといって高鼾で眠ってしまうまでには至らず
 また
 ふて寝によって為すこともない退屈な日々を忘却の底に沈めようという
 そんな魂胆でもなさそうでした。

 それが証拠に
 瞼が閉ざされることはなく
 瞬きも正常そのもので
 つぶらな瞳のなかに自我を逃れんとする徒労の色はまったく見いだせず
 寄る辺を失くした者よろしく
 その感官が張り詰めた弓のように震えることもいっさいなく
 心に侵入してくる何もかもを拒絶しようという魂胆など微塵も認められませんでした。

 つまりは
 疑いもなく至福の高みにどっぷりと浸かって
 無制限の自由放任の環境に在るかのように
 ともすると閉鎖的になりがちな
 このしがらみだらけの世に心身の深い安息をもって馴化しており
 ために
 孤立無援に陥ることを毛ほども恐れておらず
 迷える視線は一瞬たりとも認められなかったのです。

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3,066字

丸山健二の一話読み切り掌編小説『百と八つの流れ星』の連載がスタート。また新たに三人の書き手さんが参戦です。茶人、画家、丸山健二文学賞受賞者…

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