【読書録160】学びの旅の終わりは、「終わりのない旅」へのスタートだった!!~シュネ・スワ―ト著「世界を再著述する」を読んで~
このnoteはMIMIGURI Advent Calendar 2025「#今年の一冊」のDay22です。
勢いあまって参加させていただきました。
学びの旅の終わりに
ある日、メールで「MIMIGURIアドベントカレンダー2025#今年の1冊」への参加募集が届いた。
その場の勢いで、申し込みをして、「何を書こうかな?」「何で応募したんだっけ?」と思い続けて本日を迎えてしまった。
私は現在、立教大学大学院経営学研究経営学専攻リーダーシップ開発コース(LDC)で修士2年として学んでいる。
二年間にわたる「学びの旅」も、いよいよ終着点が見えてきた。この旅は、単なる知識の習得ではなかった。この二年間の学びを一言で言うと以下の言葉がふさわしいと感じている。
「自分とは何者であり、何を探求していく存在なのか?」というアイデンティティの変容こそが学びのあり方
この言葉通り、この2年間の学びは、私にアイデンティティの変容をもたらし続けてきた 。
その集大成とも言える時期に出会ったのが、秋学期の社会構成主義を基盤にしたナラティヴ・アプローチについて学ぶ「ナラティヴの心理学」という授業である。
その中でも取り上げられた、シュネ・スワ―ト著「世界を再著述する」(国重浩一・飯島邦子・松本加奈子 訳)(北大路書房)が、私にとって今年の一冊にふさわしい衝撃だったため、今回取り上げたい。
本書では、南アフリカでナラティヴ・プラクティスによりコンサルタントを行う著者が、自身の<黙って従う召使い>のようなアイデンティティから、いかにして<変革を呼ぶ声>へと自分自身の物語を再著述していったから話が始まる。
「問題のストーリー」と見出された「きらりと光る出来事」
本書では、私たちを縛り、希望や可能性を制限する物語を「問題のストーリー」と呼ぶ。
著者のシュネは、南アフリカで暮らす白人女性である。長年のアパルトヘイトで民族差別をしてきた白人であり、キリスト教の伝統の中で育った女性であることが、彼女の人生に影響を与えた。その時のアイデンティティを<黙って従う召使い>と名付けている。
社会文化的に押さえつけられてきた、<黙って従う召使い>であった彼女が、ナラティヴ実践コースで「あなたは<黙って従う召使い>に何を教えているんですか?」という問いから、自分自身を問題から切り離して自分自身を見ること(「問題の外在化」)を契機に徐々に<この世界で変革を呼ぶ声>というオルタナティブ・ストーリーが自分の中にあることに気づき、徐々にオルタナティブ・ストーリーの世界に移行していく。
「問題のストーリー」も「オルタナティブ・ストーリー」も元々、自分の中にあったアイデンティであり、ストーリーである。
自分を支配していた「問題のストーリー」が、ナラティヴ・アプローチの問いによって、新たな可能性を見出していく。自分の中にあった、問題のストーリーとは異なる要素を本書では、「ユニーク・アウトカム」「きらりと光る出来事」と呼んでいる。
ナラティヴ・セラピーは、「希望を掘り当てる考古学」(国重浩一・横山克貴編著『ナラティヴ・セラピーのダイアログ』)と言われるが、自分の中に今まで気づいていない自分を掘り当てていく「問いの力」、その人と同じ景色を見ようとする人の心の温かさが大きな魅力である。
私にとっての「問題のストーリー」とは何だろうか?
いわゆるJTC(伝統的な日本企業)に身を置き、四半世紀。
ジョブローテーションの名の下に、様々な地域、様々な部署を転々としてきた。「会社に言われるがまま、専門性も持たず、ただ流れに身を任せて生きてきたのではないか」。そんな焦りとコンプレックスが、私を支配していた。
大学院の授業で「Why are you here?(なぜここにいるのか)」と何度も問われるたび、それらしい答えを絞り出しながらも、心のどこかで「自分には確固たる軸がない」という虚しさも感じていた。
しかし、2年間の旅路の中で、様々な問いや人との出会いや学びを通じて、「問題のストーリー」だけではない、自分の中のユニーク・アウトカム、きらりと光る出来事にも気づかされた。
「まさとさんって、好奇心強いですよね?」「まさとにとって、自分のキャリアの中できていると思えているものは?」という問いかけを通じて、戸惑いを感じつつも、徐々に違う側面の自分に気づかされた。
海外で20人程度の会社に出向して働く中で、会社運営全般に携わる中で経営に興味がわき、中小企業診断士の資格を取ったことで、経営管理系のキャリアへと繋がった。そして、経営管理やマネジメントとしての経験の中で、「決めたはずのことが思ったように進まない」など組織を動かすことの難しさをいやというほど経験したことから、組織開発や人材開発を学びに大学院に通い出した。
なんか、流されて来ているようで自分で選んでいることもあるんだと少し勇気がわいた。
そして、そのように置かれた環境に適応しながら何にでも好奇心を持って学べる自分と言うのも、まさに自分にとってのユニーク・アウトカムであるように思えた。
また大学院でのグループワークの中で、専門性のない自分にコンプレックスを感じながらも思わぬところで褒められたり感謝されたりする自分も発見した。あらためて考えてみると、ゼネラリストとして培ってきた力なのかもしれないなと思っている。
本書で、著者が、自分自身の問題のストーリーに対して感謝する場面がでてくるがまさにそんな感じで、今まで培ってきたものを自分ではじめて認められた経験かもしれない。
この見つけたユニーク・アウトカムから今後も、自分の好奇心に基づき探究を重ねていくという可能性の拡がったオルタナティヴ・ストーリーが描けるように感じている。
これは、「会社のジョブローテーションに流されてきた私」という問題のストーリーから「学ぶことで世界を切り拓いてきた私」というオルタナティブ・ストーリーへの転換であるように思っている。
オルタナティヴ・ストーリーを「厚く」していく未来へ
オルタナティヴ・ストーリーの世界に移ろうとしている自分がいる一方で、修了後に、大学院という「学びの器」から出ることで、今まで自分を支配してきた問題のストーリーの世界に戻っていくのではないかという恐れもある。
本書でも、自分自身のアイデンティティを再構築する過程で、対立や葛藤に悩まされると言うことを描いている。
そして、オルタナティヴ・ストーリーを厚くしていくことが重要であり、そのためには、「好みのコミュニティ(関心を分かち合うコミュニティ)」の存在が必須であると言っている。
私にとって、大学院の仲間たちはまさに今後も「好みのコミュニティ」であり続けるだろうし、意識的に、自分の新たなストーリーを厚くしていきたい。
そして、今回、この#今年の一冊という企画に参加してみたのも、もしかしたら自分のオルタナティヴ・ストーリーを厚くするためのものだったのかもしれないなと感じている。
「終わりのない旅」へのスタート
著者は、自分自身のストーリーを再著述することは、果てしなく続く「終わりのない旅」であるとしている。
私は今、学びの旅の終わりにいると思っていた。
しかし、本書を通じて、自分自身をどのようなレンズで見るかによって、自分はいくらでも変容し続けられると感じている。
ナラティヴ・アプローチを学び、自分自身の中の多様性に気づくことを通じて「自分自身の探究」という終わることのない旅に出る準備ができたように感じている。
2026年は、そんな終わりない旅のスタートとして、オルタナティヴ・ストーリーの世界を好奇心を持って、面白がりながら進んでいきたい。
