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PMIは「統合」ではなく「信頼の再構築」──成否を分ける3つの設計

マネーフォワード取締役執行役員、マネーフォワードビジネスセグメント COOの竹田です。

今日は、主に社外の方からよく聞かれるPMI(Post Merger Integration)についてです。

PMIというと、「買収した後に、組織や制度を統合するプロジェクト」と理解されがちですが、現場で何度かM&Aを経験すると、見えてくる実感があります。

一言で言うとそれは、PMIの正体は“統合”ではなく“信頼の再構築”だということです。

そしてPMIが苦しくなる原因は、だいたい制度やシステムではありません。もっと手前にあります。

買う側としても、買われる側としても、両方の立場を経験してきた中で、PMIを成功させるために「ここだけは外すと壊れる」と確信していることが3つあります。

今日はそれを、できるだけ実践の言葉でまとめてみようと思います。

1. 御旗(なぜやるのか)を“全員が同じ言葉”で語れる状態にする


PMIで最初に問われるのは、正しさではなく疑念です。これは、私が買う側を経験したときに痛感したことです。

当時、いわゆる競合を買う形のM&Aを経験しました。買う側である私たちは、「業界を疲弊させる値引き合戦を止めたい」「戦うのではなく一緒に新しい価値を作りたい」と本気で思っていました。

しかし、買われることになった側には、まったくと言っていいほどその考えは伝わらなかった。

・それは建前で、本当は市場を取りに来ているだけでは?
・競合を取り込んで、2番手を消したいだけでは?
・結局、我々のやり方を尊重する気はないのでは?

もちろん、こうした受け止め方があるだろうとは想像していました。ただ、正直、ここまで深い疑念を持たれるとは思っていませんでした。

「敗戦国みたいな感覚」と表現した人もいました。それくらい、感情の揺れは大きいものなのだと思わされました。

ここで重要なのは、説明することではなく、御旗を立てることです。

何のためにこのM&Aをやるのか。統合後に何を実現したいのか。

それを限られた人(例えば社長だけ)が語れても、まったく足りません。経営陣も、現場のキーパーソンも、誰に聞いても同じ目的が返ってくる状態が必要です。

人によって言うことが少しでもズレると、疑念は増幅します。「結局、本当の目的は別にあるんじゃないか」という不信が育っていく。

PMIは、スタートの時点では信頼残高はマイナスです。だからこそ、最初にやるべきは御旗の言語化と統一です。

2. 「言葉の定義」まで、腹を割ってすり合わせる


PMIで本当にズレるのは、表面的な方針ではなく、もっと深いところです。

例えば、買う側はこういうことを言います。

「リスペクトを大切にします」(価値観)
「フェアな意思決定をします」(判断のルール)
「信頼関係をベースに進めます」(関係性)

でも、買われる側が不安になるのは、まさにここです。なぜなら、同じ言葉でも定義が会社によって違うから。

これは、買う側・買われる側、どちらの立場でも何度も見ました。

例えば「信頼」。

私の感覚でいう信頼は、互いに腹の内も含めて開示し合い、まず相手を認め、聞き、すり合わせながら一緒に作っていく関係です。

一方で別の会社では、「上が言ったことに問答無用で従うことが信頼」だと定義されていることもある。

どちらが正しい・間違いという話ではありません。でも定義が違えば、必ず衝突が起きます。

実際、買収前は「リスペクトのカルチャーだ」「フェアを大切にしている」と言われていたのに、入ってみたら想像以上にトップダウンだった、モニタリングがギチギチだった、というズレは起きうるものです。

そして、こういうズレは悪意ではなく、言葉の定義が違うだけで起きることが多い。

だから最初に必要なのは、きれいなスローガンではありません。

「この局面で、フェアって具体的にどうすることなのか」
「信頼って、どういう状態を指しているのか」

ここまで踏み込んで言語化し、すり合わせることです。

3. 「いいとこ取り」をしない。トレードオフは責任者が決める


PMIでよくある落とし穴が、「いいとこ取り」です。

A社の強みとB社の強みを融合すれば最強だ。いかにも正しそうだし、夢もある。

でも現実には、融合の過程で必ずトレードオフが発生します。そして、そのトレードオフは、現場に丸投げすると壊れます。

これは私自身、買う側の立場で「失敗した」と思っている経験があります。

当時、買った側には「高効率で生産性高く回す仕組みの強み」がありました。

一方、買われた側には「人手がかかるが、高単価で専門性が問われる領域」の強みがあった。

私は、システムや基盤は統一するといった方針までは比較的明確に出せていましたが、ある領域については「いいとこ取りをしたい」と曖昧にしてしまった。

・システム化しながらも専門性も担保してほしい
・両方の強みを活かして融合してほしい

言うのは簡単です。でも、現場にとってはめちゃくちゃ難しい。

なぜなら「融合」は、部分的に違いを否定する営みを含むからです。責任者がトレードオフの決断を曖昧にしたまま渡すと、現場では議論が終わらない。

決着しない。やがて感情が摩耗し、喧嘩になる。

最悪の場合、「こんな議論ばかりで顧客に向き合えない」と人が辞めていく。

この経験から学んだのは、PMIで責任者が一番やるべきことは、理想を語ることではなく、“痛みを伴う決断”を引き受けることだということでした。

PMIは、非連続の打ち手です。

高く跳ぶために一度しゃがむ必要がある。しゃがむ瞬間には、痛みが出る。

だから、痛みを伴う決断から逃げない。それを責任者が引き受ける。

これができるかどうかで、PMIの難易度はまるで変わります。

成功例:クラビス × マネーフォワードのPMI


私自身が「買われる側」として経験した、マネーフォワードによるクラビスのPMIは、いま振り返っても非常に印象に残っています。

買収前の段階から、マネーフォワード側の経営陣や現場のキーパーソンが深く関与し、「なぜ一緒になるのか」「クラビスをどう伸ばすのか」を、時間をかけてすり合わせてくれていました。

一方的に「こうしてほしい」と求められるのではなく、「一緒にどう勝つか」を本当に真剣に、真摯に考えて向き合ってくれているという感覚が最初からあった。

その結果、統合後も、買った/買われたという空気はほとんど生まれず、まるで昔から同じ会社だったかのように自然に役割分担が進みました。

PMIは、始まってから頑張るものではない。
始まる前に、どれだけ本気で向き合えたかで決まる。

クラビスの経験は、それを腹落ちさせてくれました。

おまけ:PMIは「買う前」に始まっている


ここまでの3つを実現するために、当たり前ですが重要で外せないのは、PMIは買収後ではなく、ディールの時点(DD〜交渉)から始まっているということです。

買いたい気持ちが強いと、交渉の終盤でつい「その話は当面いじりません」と言いたくなる。

「この件は統合後に考えましょう」
「まずは現状を尊重します」
「人員・組織・役割には当面踏み込みません」

いずれもディールをまとめるためには合理的に聞こえる約束ですが、あとからPMIで使うべきレバーを、自分たちで先に縛ってしまうことになります。

成果は求められるのに、打ち手は使えない。現場は間違いなく詰みます。

だからこそ、ディール前から、PMIの主体になる現場責任者も巻き込み、「何のために」「そのために何が必要で」「どの痛みは避けられないか」を明確にする。

買収実務(CorpDev)と、統合実務(現場PMI)が分断すると事故は起きやすい。

最初から同じテーブルに乗せる。
当たり前すぎる話ですが、ここの成否が成功確率に最も影響します。

まとめ:PMIは会社のカルチャーそのものが試される


PMIは制度やプロセス以前に、会社の無形資産が試される場です。

・御旗を立てられるか
・言葉の定義まで踏み込めるか
・痛みを伴う決断を責任者が引き受けられるか

この3つが揃うと、買収した/されたという関係を越えて、「昔から同じ会社だったかのように」一緒に前に進める瞬間が生まれると思います。

PMIとは、統合ではなく、信頼の再構築。
私はそう思っています。

もし「自社もいま同じところで詰まってる」と感じた方がいたら、まずは御旗と言葉の定義から、会話を始めてみてください。


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