🎭ZAI劇場🎭短編『俺が辞めるわけないと思ってた』
『俺が辞めるわけないと思ってた』
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カズヒコは中小企業の営業チームにいる。
正直、営業成績は悪くない。
人間関係も、まぁまぁうまくやっている。
社長に口答えすることはあっても、心の奥ではこう思っていた。
「俺がこの会社を回してんだろ?」
だから、その日──
社長とちょっとした言い合いになって、ついカッとなって言ってしまった。
「……じゃあ俺、辞めますよ。」
ほんの出来心だった。
ほんの圧力だった。
ほんの……試しだった。
社長は黙った。
その沈黙を、カズヒコは“ひきとめの溜め”だと思った。
(ほら、言ってみただけですって。謝るなら今だぞ、社長──)
だが、帰ってきたのは一言だけ。
「なら、いま、退職届書いて。」
……え?
一瞬で、空気が変わった。
冬の空気のように冷えた会議室。
冗談も、余裕も、すべて吸い取られた。
🏙️🏙️
全てが鉛色に見えた。
街が、いつもよりずっと遠くに感じる。
まるで異世界に迷い込んでしまったようで、
現実感がなかった。
帰宅するまでに、いつもの倍の時間がかかった。
カズヒコは、何度も足を止めた。
でも、結局たどり着いた。
ここは、異世界ではなかった。
玄関を開けると、いつもの我が家の空気。
リビングでは、妻のサチコがソファに座り、大きくなったお腹を抱えながらNetflixを観ていた。
笑い声が、部屋に満ちていた。
「おかえりー、早かったね?」
顔を上げたサチコが、明るく言った。
「このドラマさ、めっちゃ面白いんだよ!」
画面に映るのは、スーツ姿の男が怒鳴っているシーンだった。
「エリートサラリーマンがお偉いさんと喧嘩してさ、今ちょうど、田舎に左遷されるとこ!ドキドキする~🤣」
🍛🍛
夕飯を前に夫婦の距離は果てしなく離れていた。
「ねえ! なんでご飯食べないの!」
「……不味い?」
サチコの声が、少しだけ跳ねた。
カズヒコは顔を上げられなかった。
母親に叱られた小学生みたいに、肩をすぼめる。
「じゃあ何?」
「感じ悪いんですけど!」
テーブルの上には、出来立ての夕飯。
湯気はもう消えかけていて、
まるで空気を読むように、ひっそりと息を潜めていた。
聞こえるのは、サチコの荒い鼻息だけ。
「……し、しご──」
「は?」
「聞こえない!」
サチコの声が、はっきりと怒りに変わる。
カズヒコは、ようやく口を開いた。
「……仕事、辞めてきた」
声の大きさは、たぶん同じくらいだったと思う。
それなのに、その一言は、
部屋の空気を一気に冷やした。
🌙🌙
そのあと、叱責は遅くまで続いた。
怒鳴り声というより、低く、途切れない言葉だった。
カズヒコは、ただ座って聞いていた。
最後にサチコが言った。
「……明日、社長に謝ってきなさい」
「続けさせてもらえるなら、それが一番いい」
逃げ道のようでいて、
それしか道がない提案だった。
翌朝、カズヒコは一人で会社に向かった。
朝イチなら、まだ間に合う。
そう信じたかった。
社長室で、頭を下げた。
言葉も選んだ。
昨日の自分を、必死に取り消そうとした。
社長は、静かに首を横に振った。
「もう、退職届は受理している」
「受理したものは、どうにもならない」
社長室の外では
元同僚たちが忙しそうに働いている
それだけだった。
会社を出たあと、
どこにも行くあてがなかった。
喫茶店に入るのも、なぜか後ろめたくて、
カズヒコは公園のベンチに座った。
見上げると、空はやけに広かった。
昨日までと、何も変わっていない。
変わったのは、
その下にいる自分だけだった。
⛲️⛲️
下校途中の小学生たちの笑い声で、ふと我に返る。
このあと、この公園に子どもたちが遊びに来るかもしれない。
このままベンチに座っていたら、
通報されるかもしれない。
──そんなことが、頭をよぎった。
カズヒコは、慌てるようにスマホを開いた。
転職サイト。
履歴書。
職歴欄に、カーソルが点滅している。
カズヒコの指先は冷たく痺れを増す。
「……俺、何者だったんだろうな」
⸻
おしまい
✨✨
(以下、作者メモ)
この物語は、
あきたいぬ空港長さんの
「【連載小説|大犬空港物語】第1話 出向って、つまり島流しだよね?」
という記事から発想を得て創作しました。
劇中サチコが笑って見ていたNetflixのドラマは
こちらがモデルになっています。
興味のある方は、ぜひ。
ご覧下さい😆
今season3が連載中です🎥
内緒話
今回話には続編があると言う噂があります。
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今後の創作の糧にしたいと思います☺️
応援して頂けるととっても嬉しいです😆