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ようこそ!フォーチュンカフェへ 2nd☕第2話 分け合う幸せ

潮風が珈琲の香りを運び、焼きたての甘い匂いが通りを満たす。
港町の朝、フォーチュンカフェ号はひとりの旅するパティシエと出会った。
迷いとぬくもりが交わる場所で、“分け合う幸せ”が生まれていく――。

フォーチュンカフェ号は港町の朝市にやってきた。
こと葉が「ミゼちゃん」と呼ぶ、この小さな車は、商店街の端に静かに停まっている。

ミゼちゃんは、小さくて、どこにでも入り込める。

「今日もよろしくね、ミゼちゃん。」

こと葉は相棒に挨拶するかのように、トンとつついた。

潮風が、珈琲の匂いと混じる。

ふと、修一が顔を上げる。
なにやら、別の匂いが風に乗ってやってきた。
こと葉も目を細める。

「……あっちのワゴンも、いい匂いですね。」

黄色いワゴンの後ろのドアから、香ばしい匂い。
その匂いの向こうに、浅く日に焼けた女性が声を掛けてきた。

「おはようございます!」

こと葉は思わず笑顔で返す。

「おはようございます。いい匂いですね。」

「はい! クッキー・フィナンシェ・マドレーヌ、焼菓子ならなんでもござれの “An’s Baking Caravan”(杏の旅する焼き菓子屋)店主の立花 杏(たちばな・あん)です。朝市に参加される方やんねぇ?」

こと葉よりは、少し若いだろうか。
京都訛りの混じった元気の良い声が、朝の通りに抜けていく。

「はい。杏さん。はじめまして。私は、このミゼちゃんの相棒、和泉 こと葉です。」
名刺を渡しながら、こと葉も自己紹介した。

「ミゼちゃん?」

「あ、本当は“フォーチュンカフェ号”っていうんです。でも、お店の名前で呼ぶより、ちゃんとした名前があった方が、この子も頑張れると思って。」

「名前かぁ。うちのワゴンにもつけようかなぁ。」

二人は微笑み合う。

「そうや! せっかくやし、ミゼちゃんを隣につけてみはる? 焼き菓子と珈琲やったら、一緒に買ってくれそうやない?」

「え? いいんですか? じゃあ、お言葉に甘えて!」

(一瞬で打ち解けられるって、すごいよなあ。自分にはできないよ。)

盛り上がる二人を横目に、感心しきりの修一。

というわけで、いきなりのコラボが始まった。

昼前。

朝市の賑わいがひと息つき、潮風の音が戻ってくる。
焼きたての甘い香りと珈琲の匂いが、少し落ち着いた。

杏が、片づけの手を止め、こと葉の差し出した紙コップを受け取る。

「おおきに。……珈琲の香りって、落ち着くんやねぇ。」

「こちらこそ。焼き菓子の匂いで、お客さんがたくさん来てくれて。今日誘ってくださってありがとうございます。」

にこやかに答えること葉を見て、杏は意を決したかのように話し出す。

「なんか、こと葉さんて話しやすいし、初対面だとは思えへんぐらいやわ。ちょっと聞いてほしいんやけど。」

こと葉は、そっとうなずいた。

「うちの実家、京都で“立花庵”っていう和菓子屋をやってるん。親からは、そろそろ戻って継げって言われてて。」

潮の香りが、さあっと二人の間を通り抜けた。

「和菓子も大好きなんやけど、自分が作ったこの“おいしさ”を、もっとたくさんの人と分かち合いたいんよ。……でも、まだまだ道半ばのような気がしてるん。」

そんな杏を、そっと見ていたこと葉は、静かに木箱を取り出した。

「杏さん。これを引いてみませんか?」

「これは?」

「『ことばみくじ』です。」

「……ことばみくじ?」

「はい。今のあなたに、必要な言葉が出るかも。」

杏は、興味深そうに一枚を引く。そっと開いた。
白い紙に、黄色の文字でこう書かれていた。

『道に迷うことは、道を知ること。』

杏はその言葉を見つめたまま、しばらく黙っていた。
潮風が二人の髪をそっと揺らす。

「……いい言葉やねぇ。」

「迷っている今も、きっとあなたの道の一部なんですよ。」

「そっか……迷う自分を、責めなくてもええんやね。」

「ええ。迷うたびに、あなたの味が深くなっていくと思います。」

杏は胸に手を当てて、ふっと笑った。

「おおきに……もう少し、やってみる。」

午後。

店を片づけること葉のもとへ、杏が段ボールを抱えてやってきた。

「そろそろ行かせてもらいます。さっきのお礼。これ、豆菓子。塩味なんよ。珈琲に合うと思うて。」

こと葉は目を丸くした。
「わあ、こんなにたくさん! ありがとうございます。」

「ぎょうさんあって、ちょっと邪魔になるかもしれへんけど……みんなに分けてあげてな。なくなるころに、また出会えるとええねえ。」

杏はそう言って手を振り、黄色いワゴンに戻っていった。
そして、ワゴンは発進した。通りの角を曲がると、姿は見えなくなった。

こと葉はワゴンをじっと見送った。
そして、段ボールを見つめ、そっとつぶやいた。

「でも、段ボールのままだと湿気ちゃうかも。」

修一はそれを聞き、しばらく考えると静かにうなずいた。

港の灯りが、波の上にゆらめいている。
夕日が、修一の手元を照らしていた。

彼は無言で木を切る。
板を合わせる。
ねじを締める。
内側にアルミ板を貼り、ふたにゴムパッキンをはめる。



やがて、豆菓子ケースが完成した。
豆菓子を詰めると、ちょうど収まる。
ふたを閉めると、「カチリ」と小さな音がした。

修一は、ゆっくり微笑んだ。
木の香りと珈琲の香りが混じる中、道具箱をそっと片づけた。

こと葉が買い物から帰ってくると、荷台の奥に木目の美しい箱が置かれていた。

ふたを開けると、豆菓子がきれいに並んでいる。
内側にはアルミ板、ふたには小さなゴムのふち。
仕上がりは丁寧だった。

「……修一くんが?」

修一は、運転席でうなずいた。

「湿気ないようにと思って。」

「ありがとうございます! すごく助かります。」

修一は、その言葉にはっとした表情をしたが、すぐにそっと笑った。

「じゃあ、ミゼちゃん、発進!」

ウインカーが、まばたきするみたいに点滅する。
フォーチュンカフェ号は軽いエンジン音を響かせ、潮風に背中を押されるように走り出した。

夕方の柔らかい光が、車内に差し込んできた。


――道に迷うことは、道を知ること。


分け合う幸せは、今日もどこかへ向かっている。

(続く)

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一条 詩紋 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 物語があなたの癒しになれば幸いです。 チップはご無用です。一緒にドキドキしてくれた思いを伝えてくだされば・・・。それがうれしいです。