【美術展2025#85】上田義彦 いつも世界は遠く、@神奈川県立近代美術館 葉山館
会期:2025年7月19日(土)〜11月3日(月・祝)
上田義彦(うえだ・よしひこ/1957–)は 、活動初期から自然や都市の風景、著名人のポートレイト、広告写真など幅広い分野で活躍を続けてきた写真家です。瞬間を捉える感性と卓越した技術で、時代とともに変化する作風でありながら一貫して普遍的な美を作品に込め、国内外で高い評価を得てきました。公立美術館で約20年ぶりの展覧会となる本展では、代表作や未発表の初期作品から最新作まで、自ら現像とプリントを手がけた約500点を通じ、その40年の軌跡を辿ります。
三浦半島を横須賀美術館からハシゴする。
特徴的なガラス壁だが、ここ展示室ではなく事務室なのよね。


今展のタイトルは「いつも世界は遠く、」
なんだか詩的なタイトル。
最後の読点のまだ続く感じがいい。
そして副題として「From the Hip」と付けられている。
日本語訳、…ではない。
扉を入ってすぐのモニター前には古い椅子が並べられている。
フィン・ユール?…と、ジャンヌレ?
と思いきや、スタッフ曰く、旧鎌倉館で実際に使われていた坂倉準三デザインの椅子とのこと。
こんなデザインあったの?初めて知った。
っていうか何回もこの美術館に来ているけれどもこんな椅子が出されているのは初めて見た。
そしてその貴重な椅子に実際に座れる。
古い椅子なので座り心地は良くないが、そこはご愛嬌。
その椅子に座って見る映像がこちら↓
こちらの映像で「From the Hip」について本人から語られていた。
なるほど、そういうことなのね。
だが、だとすると「いつも世界は遠く、」が副題?
それともどちらも主題????…しばし混乱する。
ちなみに奥様の桐島カレンさんのYouTubeチャンネル内でも解説されている。
(アメリカ)西部の開拓時代のガンマンが拳銃で決闘する時、相手より先に撃つために、ベルトに下げた銃をそのまま腰の位置、腰だめで撃つ。ほんの少しでも相手より早く撃つために、狙いを定めるのではなく、撃つ。勘で撃つ。写真も同じように、狙ったり、考えたりする前に、あっ、と思ったらそのまま撮る。考える前に撮れ。それが、夫が写真を撮るときに大事にしているモットー。
なお、前述の椅子はカレンさんのYouTube映像内でも確認できる。

展示は最新作であるチベットから始まる。

上田氏はチベットをライカとGRで撮ったそうだ。
旅にはコンパクトカメラがよく合う。
私のnoteで度々ねじ込んでいる2004年の長旅では、CONTAXのコンパクトカメラ(T2)と一眼レフ(RTS)を持って行ったが、結局ほとんどの写真をT2で撮った。
旅の中ではチベットにも行ったが、どこを撮っても誰を撮っても絵になる美しい場所だった。

なお車は朝から昼まで一台も通らず
2004

2004
今展の展示構成は概ね現在から過去へ遡っていくのだが、その流れは必ずしも厳密ではなく、時系列や場所やテーマが緩やかに交錯しながら進んでいく。
旅の写真、CMや広告で用いた商業写真、風景、ブツ撮り、ポートレート、家族のプライベートな写真、さまざまなスタイルが混在している。
こんなにも変幻自在に色々なスタイルの写真を撮ることができるんだと驚く。
ちなみに展示室1は間接的自然光と昼白色照明という照明だが、展示室2では電気の照明は無く、天井のブラインドが開けられ、擦りガラスを通した間接的自然光のみになる。
この日の天候は薄曇りだったので室内は暗めだったが、少しピントをぼかしたインドの写真の空気感ととてもよく合っていた。

https://www.youtube.com/watch?v=xiaGZpgkR8A
上田氏は12,3年ぶりにインドへ行き、初めて行ったときにはできなかったガンジス河での沐浴をしたそうだ。
私は逆に初めて行ったときには恐れもせずに飛び込んで「ガンジス河でバタフライ」をキメてきたが、二度目に行ったときにはよくこんな汚い河で泳いだな…と自分に引いた記憶がある。
今はだいぶ水質が良くなったという話も聞いたことがあるが、どうなんだろ。

2004
同じく展示室2に展示されているミャンマーの写真。

私の旅でのマンダレー。

2004

2004
旅好きなもんでついつい旅の写真ばかり目についてしまう。

私の旅でのイスタンブール。

2004
展示室3aに入ると、光源が電球色の照明になった。
直前まで自然光だったので別の世界に迷い込んでしまったようで目が慣れない。
やはりさまざまなスタイルの写真が混在している。
この部屋では急速に近代化していく途上の上海や、ミース・ファン・デル・ローエの室内が印象的だった。
展示室3bでは海側の窓が開けられて横から直接自然光を取り入れていた。
薄曇りではあったものの午後の西日はなかなか強烈で写真が反射しまくって見づらかったがこれも計算なのだろうか?
この部屋では著名人のポートレートと、学生時代に撮ったという大阪の街角の写真が印象的だった。
特に1977年の大阪の写真は大判カメラで撮っているのであろう、細部まで繊細に描写され、まるで昨日撮った写真のようなリアルさの中に時代の空気感が生々しく刻まれていた。
展示室4では暗い部屋の中で作品にスポット照明が当たっていた。
そして、マイルス・デイヴィスで終わる。
結果、全ての展示室で照明を変えていた。
・展示室1 間接的自然光と昼白色照明
・展示室2 間接的自然光のみ
・展示室3a 電球色照明
・展示室3b 窓からの直接的自然光
・展示室4 暗い部屋でスポット照明
そして、並べられた写真も、多分会場で本人が色々と移動したり、その場で考えて入れ替えたりと臨機応変に設置したような気がする。
そのような生々しさが会場に充満していた。
例えば東京都写真美術館などではこうはいかなかっただろう。
葉山のロケーションは今回の展覧会の重要な要素だったに違いない。
上田氏はこの世界の事象の全てを自分の目でフラットに見たいのだと思う。
今までCMや広告で見てきた写真や著名人のポートレートも、家族のプライベートな写真や私的な旅の写真と等価に並んでいた。
一枚一枚の写真がどうのこうのということではなく(もちろん一枚一枚素晴らしいのだが)、仕事だとかプライベートだとかの壁や、ジャンルの優劣や序列は無く、全体で一つの「上田義彦が見てきた世界」を作り出していた。
だが、まだまだ世界を見たいのだろう。
きっと死の直前までシャッターを切り続けるに違いない。
世界は遠く、まだ広い。
良かった。
ので図録を買おうとしたが、今展では図録という形ではなく、作品集という形で関連書籍が販売されていた。7,700円。
高い…のだが、この直前に見てきた「山本理顕展」の作品集が22,000円もして断念したもんでなんだか妙なお値打ち感を感じてしまいこちらはしっかり買った。

ところで葉山館はショップでカードが使えず現金のみというシステムを早急に改善したほうがいいと思う。
作品集を見ていたらGRが欲しくなった。
折しも先月最新のGR Ⅳが発売されたのでポチっちゃおうかなあなんて軽い気持ちで調べてみたら20万円くらいする上に抽選販売で全く買える気配がなかった…。
上田氏は約30年前、長女が生まれてすぐに東京から葉山の古民家へ引っ越し、約20年前から葉山と都内の2拠点生活を行い、3年前に本格的に葉山に移住したそうだ。
葉山との関わりは深く、長い。




夏が、終わる。
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