脚本44-2完「トットランドのお話-シンデレラは死んでない」
脚本44-1「トットランドのお話-シンデレラは死んでない」の続き
☆
シンデレラ「私もお城の舞踏会に行ってみたいわ……」
箒を杖のように、体をもたれかけ、つまらなそうに呟いた。
メアリー「シュルルンシュンシュルシュルルルルゥ~ン。かわいそうなシンデレラ~、シンデレラはかわいそう~」
シンデレラ「あなたは?」
メアリー「魔法使いのメアリーメリーよ。シンデレラ、舞踏会に行きたいのかい?」
メアリーメリーと名乗る、ふくよかな魔女。魔女は大きな体をドアに挟めながらシンデレラに顔を近づけてくる。
一歩退きながら、冷静に対処するシンデレラは肝が据わっているといえるだろう。
シンデレラ「でも私、こんな汚い格好じゃ行けないわ」
メアリー「なぁにそんなもの。バビディバビディピュルピュルリン」
メアリーメリーが呪文を唱えるとシンデレラの汚い服が奇麗になった。
シンデレラ「まぁ、すごいわメアリーメリー!」
メアリー「こんなもんじゃないわぁん。バビディバビディピュルピュルリン」
そして次は綺麗になった服が真っ白なドレスに変化する。
シンデレラ「こんな綺麗なドレス。すごいわメアリーメリー! これなら私もお城の舞踏会に行けるわ!」
メアリー「さぁ表へ出な、シンデレラ!」
シンデレラ「そこでメアリーメリーにお願いよ」
メアリー「どうしたのシンデレラ」
シンデレラ「ここから先はいつもと違う道を行くわよ」
メアリー「シーンデレラ! それはお話を改変するということ!?」
シンデレラ「そんな言い方はないわ、メアリーメリー。私の運命は私が決めたいの」
メアリー「……私はあなたの味方よシンデレラ。さぁどうしたいの!」
少しだけ。少しだけ考えてメアリーメリーは賛同した。両腕のローブを捲り上げ、輝きを増す小さな杖。
シンデレラ「かぼちゃの馬車に姉二人も乗せるの。そして私は死ぬわ」
メアリー「シンデレラ! 死んでしまうなんて!」
シンデレラ「いいセリフだわ。私の物語はこう終わらせて。“ああなんということでしょう、シンデレラは死んでしまいました”とね」
メアリー「バレたら大変だよ? 大丈夫かい?」
シンデレラ「ええ。メアリーメリーに迷惑はかからないわ」
そう言って作戦の内容を説明した。
メアリー「かぼちゃの馬車よ!」
シンデレラ「あ、メアリーメリー。かぼちゃの馬車だけど、いつも青臭いの。なんとかならないかしら」
メアリー「新鮮な証拠さね。腐敗臭のほうがいいかい?」
シンデレラ「……いえ、新鮮が一番よ」
メアリー「さて姉妹たちはまだかい?」
エマ・エミリー「準備はできているわメアリーメリー!」
既に軒先に待機している姉妹はかぼちゃの馬車を待っている。
メアリー「さぁてこちらにおいでまするは今朝収穫したばかりのかぼちゃでございます! バビディバビディピュルピュルリン!」
新鮮なかぼちゃはピンクの光を放ち空中で高速回転する。周りにこびりついていた土が遠心力で弾丸のごとく発射され、辺りに小規模な被害をもたらす。
ぐんぐんと巨大化していくかぼちゃは徐々に形を変えていく。
ティアラが現れ、車輪が飛び出した。先端からは馬の頭が突き出して、プチンと白馬が出現する。
エマ「あ、あぶ、なかった……」
エミリー「かすったわ……」
メアリー「処理が甘かったみたい。まぁ気にしないで」
シンデレラ「準備はできたわ、新デレラ作戦本番開始よー!」
「ヒヒヒヒィィンンン」
魔法使いのメアリーメリーは御者に扮し、手綱を引く。農村に白馬の蹄が優雅に響いた。
シンデレラ「エマお姉さま、お願いしますわね」
エマ「ええ、任せて」
メアリー「シンデレラッ、そろそろポイントに到着だよ!」
シンデレラ「わかったわ。やっちゃってメアリーメリー!」
「ヒヒヒィィィンンンン」
シンデレラの合図で白馬は嘶き、前足を高々とかち上げた。その急停車に後ろの箱はついていけず、前方に吹き飛ばされる。白馬はそれに振り回され、横倒しになった。
シンデレラ姉妹を乗せた馬車の箱はお城の階段に衝突し、止まる。
来客「きゃあああっ」
来客「シンデレラの馬車よ!」
来客「シンデレラは無事なの!?」
来客「王子様を呼んできて!」
来客「それよりお医者様よ! ハレンスエール医師を呼んで!」
☆
シンデレラ「いい感じの騒ぎね。エマお姉さま、エミリーお姉さま、ご無事ですか?」
エマ「ええ、無事よ」
エミリー「メアリーメリーはさすがね」
この事故はメアリーメリーに仕組ませたこと。中の姉妹が無事なのは当然のことだった。
しかし、シンデレラも無事だ。死ななくてはならかったはずなのに。
シンデレラ「それじゃあ。さようなら、お姉さま方」
エマ「ありがとう。しっかりシンデレラをやり遂げるわね」
エミリー「元気でねシンデレラ」
シンデレラ「ああパタリ」
二人の姉に別れを告げ、ああパタリ、と馬車の中で倒れるシンデレラ。無傷の三姉妹は別れを惜しむ。
☆
階段に転がる馬車から最初に顔を出したのは長女のエミリー、そして次女のエマが顔を出す。よろける二人は階段に横たわった。
その姿は助演女優賞を総なめするかという演技力だ。
来客「姉達よ!」
来客「シンデレラは!?」
来客「シンデレラは無事なの!?」
来客「ハレンスエール医師がすっ飛んできたぞ!」
来客「王子様も来たわよ!」
来客「クリケット王子! シンデレラの馬車が大変だ!」
王子「これはなんということだ……シンデレラ! 無事かシンデレラ!」
お城の舞踏会の来客はザザザとクリケット王子の通る道を開く。姉達には見向きもせず、馬車へと駆け寄った。
息を切らしたハレンスエール医師は言葉を飛ばす。
医師「ど、どきなさい王子! はぁ、はぁ」
王子「おおハレンスエール、中にシンデレラが!」
医師「そのために来たのじゃよ」
王子「おおおシンデレラぁ……シーンデレラー! シンデレラぁぁシーンデレラーーー!」
来客達「うるさい王子! 黙って!」
王子「んんんん、んんんんん」
来客「声を出さなきゃいいってもんじゃないよ王子。煩いから離れてようか」
来客の一人に引きずられるクリケット王子は涙を滝のように流している。けっこう鬱陶しい人みたいだ。
そんなことには注目していないほかの来客達がわあと動いた。ハレンスエール医師が馬車からお尻を出したのだ。お尻といってもお尻から出てきたのだ。
来客「ハレンスエールさん、シンデレラの様子は?」
医師「……とても悲しいことに……」
来客「えええ……」
来客「シンデレラ……」
来客達「うわあああんうわあああん」
メアリー「ああなんということでしょう」
医師「シンデレラは死んでしまいました」
シンデレラの予定していたセリフで、この物語は締めくくられる。泣きわめく来客達とそれ以上に喚き散らすクリケット王子。そして姉達や魔女もシンデレラの死を嘆いていた。白馬の馬車が車輪をカラカラと鳴らして。
なぜシンデレラは無傷のままハレンスエール医師に死亡と判断されたのだろうか。そこには魔法使いメアリーメリーが深く関わっていた。彼女は白雪姫を毒殺した魔女「スーミラー」と知り合いだったのだ。
出発前、毒林檎に使う毒を受け取ったメアリーメリーは、その毒をシンデレラに渡した。一口舐めれば即死という強力な毒、それを舐めてシンデレラは死亡したのだ。
エマ「なんてことシンデレラ……」
エミリー「あああシンデレラぁぁ」
メアリー「シンデレラ! 死んでしまうなんて!」
医師「このままではお話が成り立たない、我々は三匹の子豚小屋に放り込まれてしまう」
来客「い、いやだ」
来客「あそこだけはやめてくれぇ……」
来客「いやだぁぁぁ……」
エマ「シンデレラ。私がシンデレラよ」
エミリー「エマ!?」
エマ「エミリーお姉さま、私が新しいシンデレラになりますわ。そうすればシンデレラはいなくならないから」
メアリー「いい考えだわ。ここはひとまず、エマに新しいシンデレラになってもらいましょう!」
王子「エマ。いやシンデレラ。ようこそ僕の舞踏会へ」
来客達「シーンデレラ! シーンデレラ!」
医師「シンデレラは綺麗な顔で眠っているようだ」
メアリー「そうね、まだ生きているかのよう」
医師「それでは私が納棺いたしましょう」
メアリー「送るわ。かぼちゃの馬車でね」
かぼちゃの馬車にシンデレラとハレンスエール医師を乗せたまま出発する。トットランドの中心へと。
彼らの去ったお城では、いつもの通り、舞踏会が続けられていた。新しいシンデレラのエマはクリケット王子とダンスをし、十二時の鐘が鳴る前に急いで階段を駆け下りる。
忘れ去られたガラスの靴は翌日、王家で大捜索。これからエマ。いやシンデレラのシンデレラストーリーは始まるのだ。
☆
一方、自宅兼診療所に到着したハレンスエール医師。彼はシンデレラの死体を棺に入れていた。慎重に、丁寧に扱って。
ふと目を向けると、壁に立てかけられた棺の蓋には、いくつもの名前が刻まれている。「魔女」「ピノキオ」「ヘンゼル」「スノウホワイト」その並びの隣に「シンデレラ」と刻む医師。
医師「トットランドに死体はいらない」
シンデレラが目を覚ましたのは、それから数日が経ってのことだった。
シンデレラ「私とってもいい気持ち♪」
おわり
◆まとめ
脚本44-1「トットランドのお話-シンデレラは死んでない」
脚本44-2完「トットランドのお話-シンデレラは死んでない」
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