こどくのち#8 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
まるで闇から生まれ出でた様に
ぬるりと現れた老人。
悠真に視線を合わせていたが、
健太の言葉にゆっくりと首を回す。
笑顔のままだが、眼だけは異様に鋭く、
鈍い光を放っているように見えた。
「はて、他人の家に勝手に上がり込んで
あんた誰だ、は中々の暴論じゃな」
そのしごく当たり前な返しに
先ほどまでの現実とは思えない状況から
一気に現実に引き戻してもらえた悠真は、
ハッとして慌てて謝った。
「あ、す、すみません!
あの、その、
この村に来てあまりにも意味が分からない事が
続いてて、すみません!」
混乱してしどろもどろになる悠真。
「はっはっは、冗談冗談。
そうじゃろうな。
この村に入り込んで
悠々と観光しとる方がおかしいわ」
老人の気の抜けた対応に、次第に落ち着きを
取り戻していくと健太が眉間に皺を寄せて吠える。
「なぁ、ジィさん。
こっちは仲間が発狂しちまうし、
橋も落ちて帰れなくなって
冗談じゃすまない状況なんだよ。
あんたここに住んでんのか?
もし色々知ってんなら教えてくれよ」
老人は仰向けで寝転んだ翔を一瞥すると、
立派に蓄えた顎鬚を撫でながら答える。
「うむ、山の怪を見てしもうたか。
気の毒じゃが、こうなってしまえば
元に戻る見込みは薄いかもしれんのぉ、
恐山のイタコあたりなら何とか
出来るやも知らんが、、
じゃがまぁどちらにせよ、
一先ずこの村を出んことには、
治療も行えん」
その眼は先ほどとは打って変わり、
本当に憐れんでいるような優しい眼だった。
「それと、入り口の橋も落ちてしもうたか。
どれ、まずは少し話そうか、
そこは土間じゃ、ひとまずこちらへ座りなさい」
老人は床を指差して手招きする。
翔を床に敷いたゴザの上に寝かせる。
相変わらずぶつぶつと呟いて、
口端からは涎を垂れ流している。
瞼はほとんど開けっぱなしになっている為、
目は真っ赤に充血していた。
手で瞼を閉じてやってもすぐに開いてしまう。
全員が座ると、老人は家の奥に引っ込んで行った。
「なぁ、あのじぃさん信用して大丈夫かよ?」
健太が訝しげな顔で囁く。
「うん、取り敢えずすぐに襲ってくる感じはないし
何か知ってるかも知れないから、
話をしてみよう。
万が一何かあっても、あんな爺さん1人なら、
3人いたら制圧出来るだろうし」
「まぁ、人間だったらな」
健太は納得したのか諦めたのかフンと鼻を鳴らす。
「それに、、」悠真は不思議そうに呟く。
「なんか不思議と信用が置ける気がする、、」
「何じゃそりゃ、まぁ、分からんでもないが」
言っている内に老人が、家の奥から
お椀にいれたお茶を運んで戻ってきた。
「いやぁ、この村に人が来るなんて
久方ぶりじゃのぉ、
まぁまぁ茶でも飲んで落ち着け」
そう言って老人はそれぞれに配っていく。
お椀に収まったお茶は波打っていて、
その中心でクルクルと回る茶柱は、
まるでこの村に閉じ込められて
彷徨っている自分達のようだと思い、
フッと笑う悠真。
「ところで、じいさんあんた一体何者だ?
こんなとこに一人で住んでんのか?」
健太がお茶を飲み干し早々に切り出した。
「わしか?わしの名は"土御門"と申す。
長い名前じゃからな、"ミカド"と呼んでくれ。
偉くなったみたいで気持ちよくなれるからの」
そう言ってひゃっひゃっと笑う土御門。
「あー、すまんな、そうゆう雰囲気ではないか」
一同の気配を察して、ゴホンと咳払いして続ける。
「そうじゃな、わしの役目はいくつかあるが、
まず一つ目は、お主らのような迷い人を逃す者、
といったところかのぉ」
"逃す者"その言葉に、
暗雲立ち込める一同の心の中に
希望の光が一筋照らした雰囲気がした。
「て、事はあんたがここから逃してくれるのか?」
「まぁ、そういう事じゃな」
優奈と美咲が目を見合わせて喜ぶ。
「しかしじゃ」
土御門は遮るように続ける。
「逃げるには一つ頼みを聞いてもらわんといかん。
頼みといっても其方らの為じゃがのぉ」
悠真達は顔を見合わせると聞く。
「ここを出れるなら何だってやります。
実は橋が崩れた時に、
俺達の友人も一緒に落下したんです。
彼女を助けに行きたい。
谷底への行き方も知ってるなら教えて下さい!」
土御門は悠真の目から、
その意思を感じとったように頷く。
「うむ、分かった。
しかしの、谷に降りるにもこの村から出るにも、
まずはある刀が必要なんじゃ、
しかしその刀は村の反対側の祠に祀って有り、
か弱いわし一人では取りに行く事ができん。
それを取りに行ってくれ」
「刀?刀を何に使うんだよ?
ゲームみたいにあのクネクネを倒せば
道が開くってのかよ?」
「まぁまぁ、最後まで聞きなさい。
せっかちじゃのぉ」
土御門は焦る健太を優しく嗜める。
「まずは、この村について教えんとならんのぉ。
先程申したわしのいくつかの役目、
それのもう一つ、それは "看守" なんじゃな」
土御門の言葉に全員が息を呑む。
「この村は、さっきお主達が出会った、山の怪。
あー、今どきの者らは、
クネクネとか言うかの?」
直人がブンブンと首を縦に振った。
「うむ、そのような怪異達を閉じ込めておく、
いわば牢獄みたいなものなんじゃ」
その言葉に全員が、自らが置かれた身を察した。
「この地はかつて戦で多くの血が流れ、
数多の怨念により忌地となった。
そこで我々土御門家の人間が、
祓いに来たが、
あまりの穢れで封印するしかなくなって
この場所に閉じ込めたのじゃ。
そしてその後は立地を生かして
我々が各地で人間に害をなした怪異達を捕獲して
ここに閉じ込めておるんじゃよ」
そこまで聴いた一同の顔には
ぴたりと絶望が張り付いていた。
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