こどくのち#9 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
「ちょっと待てよ、じゃああんなのが
まだ他にもいるってのかよ!?
それに怪異の牢獄ってなんだよ!?
そんなの信じられるかよ!」
片膝を立ててドンと床を叩く健太。
土御門は冷静に茶を啜った。
「残念じゃが現実じゃ。
ここは外の世界の秩序もルールも
一切当てはまらない、
弱肉強食の残酷な世界になっておる」
健太が生唾を飲んだ音が響いた。
「まぁ、信じるか信じまいかは現状どちらでも良い。
そなたらは猛獣の檻に入り込んで来た
"肉" みたいなもんじゃからな。
信じられないなら猛獣に会いに行けば良かろう」
「テメェっ!」
土御門のあっけらかんとした物言いに腹を立て、
胸ぐらを掴む健太。
悠真と直人が慌てて押さえる。
「ちょっとやめろよ健太!
すみません、ミカドさん、それで
どうすれば良いんでしょうか?」
土御門は乱れた胸元を直して居住まいを正す。
「まったく、話の通じる奴がおって良かったな。
その刀はな、この村に閉じ込められた
怪異達が恐れる神器じゃ。
それを持っておれば怪異達に襲われなくなる。
さらにこの村を出る為の鍵となるのじゃ」
「どうやったら鍵になるんですか?」
「それは、一先ず無事持って戻って来たら教えよう」
土御門はニカっと笑って見せた。
その時バッと直人が手を挙げた。
「ちょっと待ってください。
今、この村に閉じ込められた怪異達と
おっしゃいましたが、
他にはどんな怪異が居るかご存知ですか?
私は多少怪異に知識があるので、
物次第じゃ役に立つかと思って」
直人が鼻息荒く質問する。
「ほう、わしも完全に把握しとるわけでは無いが
他には、、そうじゃな、戦で死んだ武者の霊と、
後は髪の毛を操るような
ホラー要素強めな奴もおるのぉ。
あとは、、あまり言うて絶望されても
困るから辞めとくかのぉ。
割と凶暴な奴らばかりじゃ、
気をつけるんじゃぞ」
土御門は、その言葉に生唾を飲む直人を尻目に
あっ、と何かを思い出したように、
奥の間へと歩いていくと、
手に古びた巻物を持って戻って来た。
古いが、異様な存在感がある。
土御門が巻物を広げる。
それは水墨画の地図だった。
「これはな、この村を上空から見た地図じゃ」
蛇の胴体のように蛇行した川の中洲に位置する村
橋だけが外界との連絡通路だと分かる。
「まるでアメリカのホースシューベントだな」
得意げに話す健太に視線をやる。
「いや、この前テレビでやってたんだよ」
と鼻頭を掻きながら話す。
「今我々がおるのはこの集落じゃ」
四角が点在している部分を指差して説明する。
「で、問題のその刀なんじゃが。
まず今いる集落を抜けると、一本木の広場に出る」
土御門の指が木が一本描かれた広場を指す。
「しかしこの広場は危険じゃ、
絶対に中心の大木には近付かず、
広場の周囲を回りこの森へ入れ。
そして川を渡り森を抜けると崖に行き着く」
村の川沿いの円の外周をなぞる。
「すみません、その大木には何があるんですか?」
悠真は率直に尋ねた。
「うむ、そうじゃな。
イタズラに怖がらせるのもなんじゃからのぉ、
言わなんだと思ったが、
一応知っておいたほうが良いかもしれんの。
よいか、この木の根元には龍が住んでおるんじゃ」
「龍、、ですか!?」
突如口を突いて出てきた
ファンタジー性の強いキャラクターに
冗談かどうかを見極めて、
土御門をじっと見つめる悠真。
それに気づいた土御門は、ふっと頬を緩める。
「まぁ、そんなもんじゃ。
とにかく近付くなよ」
そう言うと、この話はもう終わりと言った風に、
説明を再開する。
「崖に沿って設けられた坂道を下って行き、
やがて、中伏にある祠に
その刀は祀ってあるのじゃ」
土御門の指はすーと地図をなぞり、
川の上で止まる。
地図を見ていた悠真は
ふと浮かんだ疑問をぶつける。
「すみません、特に深い意味は無いんですけど、
土御門さんは普段この村を出る時
どうしてるんですか?
食べ物とか?ここにはあまり無い様に
思いますけど、、」
そう言って土御門の方を見ると、
その表情は穏やかながら、
眼には底無しの闇を垣間見たような気がした。
「なに、わしはここにおるのが仕事じゃからのぉ、
神社の神主みたいなもんじゃな。
食い物はたまに我々の協会の人間が
運んできてくれるから、ここを出ん事を
ことさら困ってはおらん。
それにわしは陰陽師の末裔。
本当に出たい時は結界を作り出るわ」
ニコッと笑った目には
先ほどの闇は消え失せていた。
「そうじゃ、森には先程おまえさん達が
会ったクネクネの他にも何か
おるやもしらんからのぉ、
この青年はワシが見ておいてやる。
心置き無く行って参れ。
とは言っても、おまえさん達も
何も無いと流石に心許無いのぉ」
蓄えた顎鬚を撫でながら
斜め上を見つめる土御門。
「あっ、そうじゃ、そうじゃ。
この家の外壁の四方に貼ってある
お札を持って行け、
あれは魔除けになるからの」
「いや、それじゃミカドさんが、、」
「んにゃ、わしは何枚も持っとるから大丈夫じゃ。
ありがとうな、気をつけて行くんじゃぞ」
ニコニコと、まるで散歩に行く孫に手を振る
老人の様な土御門に対し
「他人事みたいに言いやがって」と悪態をつく健太。
「まじで、大丈夫かよ」
「分からない、でも今はすがるしかないだろ?」
悠真の言葉に眉を開いて両手を上げる健太だった。
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