こどくのち#10 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
土御門の屋敷を出た5人は
祠へと向かい、集落の中心を突き抜ける
通りを慎重に進んでいた。
思ったよりも距離があり、
以前は多くの人が暮らしていた事が垣間見えた。
「またあんなオバケが出るのかな、、」
美咲が健太の後ろで震えていると
健太は隣に抱き寄せる。
「大丈夫だよ、俺が守るから」
それを見て優奈がムッとしたのを
見てしまった悠真。
「ねぇ、楽しそうなとこ悪いけど、
私トイレ行きたいんですけど」
行けば良いじゃんの表情を貼り付けた顔で
優奈を見つめる一同。
「1人で行けるわけないじゃん!
誰か着いてきてよ!」
なるほどと腑に落ちた表情になった悠真は頷く。
しかし周りを見回しても荒屋ばかりで
まともなトイレがありそうな家は無い。
「どっか家の裏でやるしかないよな。
角を曲がった所で待つから裏でしてきなよ」
「外でやるなんて、マジ最高だわ」
皮肉たっぷりに言い放つ優奈が
逞しくて苦笑いする悠真。
「ったく!何なのよここ!人生最悪の汚点だわ」
ズンズンと怒りに任せた足取りで
家の裏に回り込む。
「あー私も彼氏作って連れて来たら良かった。
守ってもらえたのにな、もう!」
ぶつぶつ言いながらも、
大では無かった事は不幸中の幸いかと
考えながらしゃがむ優奈。
早々に用を足してズボンを上げる。
すると、フワリと何かが頬に触れた。
自分の髪の毛と思い払ったが、
自身の髪に触れた感じが無い。
慌てて振り返るが何もいない。
気にしない様にしようとしたが、
またふわっと何かが触れてまた見る。
しかし、やはり何も無い。
じゃあ何?と視線を戻すと、
目の前に何かが垂れ下がっていた。
それが髪の毛だと気付いた時、
一気に肌が泡立った。
それを辿って恐る恐る見上げる優奈。
それは家の屋根の上に居た。
屋根から地面に着きそうな程の長い髪を、
軒先から垂らした人間の顔が、
優奈を見下ろしていた。
闇夜が明るく見えるほどの真っ黒な顔に、
充血した二つの目がギョロギョロと
落ち着きなく動いている。
「ぎゃーっ!!」
優奈は叫び、ベルトも締めず、
慌てて走り出した。
「どうした!?」
慌てた悠真が顔を出したが、
飛び出して来た優奈とぶつかって倒れた。
「ちょっと、優奈!?」
皆が声を掛けるが、振り解いて走る優奈。
「もうやだーっ!!」
泣きながら一心不乱に走って、
森に駆け込んでしまった。
健太が追いかけようと踏み出すと、
何かに引っ掛かって体制を崩す。
振り返ると美咲が不安そうな顔で
首を横に振っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、、」
どれほど走ったのだろう。
気付いたら優奈は古いトンネルに
辿り着いていた。
トンネルの壁にもたれ掛かり座り込む。
「何で!何で私がこんな目に遭うのよ!?」
体育座りでうずくまると、
自然と涙が溢れ出してきた。
肩が震えてきた頃、どこからともなく
カラカラカラと変な音が聞こえた気がした。
急に冷静になった優奈は
バッと顔を上げて辺りを見渡す。
何も居ない。
胸を撫で下ろし正面を向いた時、
視界の隅、トンネルの中に赤色がチラついた。
恐る恐る首を回す優奈。
そこには、真っ赤なワンピースに身を包んだ女が、
俯いてじっと佇んでいた。
服の間から見える肌は、
まるで血が流れていないかのように真っ青で、
真っ黒な髪は地面に付きそうな程に伸びている。
優奈は、それがこの世のものではない事を
一瞬で悟った。
カタカタと歯がなると、膝も合わせて笑い出す。
すると突然赤い女が言葉を放つ、
「優奈ちゃん、、」
驚く優奈、赤い女はゆっくりと顔を上げる。
目を瞑りたいが、瞑ると二度と開けれないような
恐怖に襲われ、耐えてじっと見つめた。
「ねぇ、優奈ちゃん、、」
そう言って赤い女が顔を上げた途端。
優奈の顔は絶望に歪み、
眼から大量の涙が溢れ出す。
「なんで?なんであんたがいるのよ、、ゆい」
その顔は、高校生の頃優奈のいじめで自殺した、
同級生の田中ゆいの顔だった。
「優奈ちゃん、あなたのせいだよ?
あなたのせいで、私死んじゃった」
そう言ってゆいはふらふらと近づいて来る。
「いや!来ないで!来ないで!
ごめんなさい!ごめんなさい!」
後退りながら半狂乱で頭を下げる優奈。
遂には背中が木に当たり、
ヒッと声を上げて頭を上げた。
ゆいは目の前に来ていた。
真っ青なその顔は、ニタリと微笑を浮かべると、
ギョロッと目が両方反対を向いた。
そしてその首はまるでゲームのバグのように
激しく痙攣しだした。
「ぎゃーっ!!
い、いや、嫌だ、ごめんなさい!
ごめんなさい!ごめんなさい!」
腰が抜けた優奈は、ズルズルと
尻で後退りながら距離を取ろうともがいた。
するとゆいの顔は段々形が歪になり、口が耳元まで裂けた。裂け目から地が吹き出すと、
ゴキ、バキと気持ちの悪い音が響く。
「……なによ、これ、もうやめて、、やめてーっ!」
優奈が震える声で叫ぶ。
その瞬間、ゆいでは無くなった赤い女が笑った。
カラカラカラカラカラカラカラカラ——
人のものとは思えない、
乾いた、軽く悍ましい笑い声。
「ごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさい
ごめんなさい」
謝罪を繰り返し、手を合わせ、
ろくに信じてもいない神に祈る優奈だったが、
その願いは虚しく異変が起き始めた。
バキッ!
気持ちの悪い音に目を開く優奈。
祈る為に合わせていた手が、
肘から逆に折れて、骨が飛び出していた。
認識した途端に両腕に激痛が走った。
「ぎゃーっ!痛い!痛い!」
バキッ!
「あ"ーっ!」
間髪入れずに音が鳴ると、
今度は肩が外れた。
優奈の顔は涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃだった。
バキッ!
「ぎゃーっ!ぎゃーっ!」
次に折れたのは膝だった。
もう立てなくなった優奈は、
顔から地面に突っ伏した。
グググ、、
優奈の身体は真っ直ぐになる。
グググ、、バキッ!
「ふぐっ、、」
腰が逆に曲がり折れた時には、
叫ぶ力も残ってなかった。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!
優奈っ!大丈夫か!?」
4人が叫び声を辿り駆けつけた時、
目の前の光景に絶句した。
真っ赤なワンピースを着た血塗れの、
顔が変形した女。
その前に、体や四肢があらぬ方向に
折れ曲がった人間が
ふわふわと浮かんでいた。
宙に浮かぶ人間の首だけが
メキメキと音を立てて4人の方を向いた。
認めたくなかったが、それは案の定優奈だった。
優奈がゴボゴボと自らの血で溺れながら
「ごめんなさい」と告げる。
バキッ!
首が真後ろに曲がりベシャッと地面に落ちた。
カラカラカラカラ。
優奈の身を案ずる暇も無く、
赤い女は4人の方に近づいて来た。
「逃げろ!!」
誰かが叫ぶと同時に、
全員が、一斉に走り出す。
振り返らない。
振り返ったら終わると、本能が理解していた。
が、振り向いしまった悠真。
背後に赤い女が立っていた。
やばい。
悟ったその時、手にしたお札が燃え上がり、
赤い女はスッと消えたのだった。
森の中を疾走する4人。
「はぁ、はぁ、どこ行くんだよ!?」
「そんなの、わかんねぇよ!!」
しばらく走り全員体力が尽き果て倒れ込む。
「ヤバかった!」悠真は叫んだ。
「ミカドさんからもらったお札が効いた!
良かった、やっぱり良い人なんだ」
しばらく寝転んで息を整えると
健太はむくりと起き上がり周囲を見渡した。
「クソっマジかよ、ここってまさか、、」
それを聞いて全員むくりと起きて健太の
視線の軌跡を追った。
そこは広場になっており、悠真達のすぐ目の前には
巨大な木が一本、堂々とそびえ立っていた。
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