こどくのち#11 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
「こ、ここってさっきじいさんが
言ってた広場だよな?
てことはこの木が例の、、」
健太がゴクリと生唾を飲む音がした。
「そうだな、森を通れって言ってたから、
何か分からないけど急いで、
なるべく静かに離れて森に入ろう」
不思議なもので、先程まで
ただただ気味が悪かった森が、
身を隠せるとなった途端に頼れる仲間に
なった様に感じる。
4人が森に向かい歩き始めたその時、
健太が異変に気づいた。
「おい、悠真、直人。
これ、最初からこうじゃなかったよな?」
健太が自分の足元を指差す。
そこには濃ゆい霧がかかっており、
足首から下が見えなくなっていた。
「いや、さっきまでは普通に地面が見えてたよ、、」
言って視線を上げた悠真だったが、
健太の肩越しに、その先にいる何かを認知した時、
新たなる絶望に心臓が跳ね上がった。
「うわっ!」
それは霧の上に転がった優奈の首。
いや、転がるというより、綺麗に置かれたという
表現が合っている様子だ。
ボサボサになった髪。
光を無くした虚な目。
ダラシなく口からはみ出た舌。
ところどころに飛び散った血飛沫。
晒し首とはこうだったんだろうなと連想させた。
足首が隠れる程しか霧が無いという事から
考えられる事は一つしか無かった。
胴体と泣き別れた首だけが転がっている。
そう気づいた瞬間だった。
優奈の首がすうっと宙に浮いた。
そして首の先から出て来たのは、、胴体、、
では無かった。
それは、実際目の当たりにしているというのに、
理解が追いつかない状況だった。
優奈の首の先には、、、
人間の頭部が繋がっていた。
その頭部の口から優奈の首が生えていたのだ。
まるで優奈の首が喰われているかのように。
さらにその首の先が露わになり、
また新たな頭部を見とめた時、
それは悍ましい異形のものとして姿を現した。
「な、なんだよこいつ。
勘弁してくれよ」
流石の健太も泣き出しそうな声で溢す。
美咲は健太の背後に引っ付いて震えている。
何個もの人の頭部が連なりやがて蛇のように
くねりながら上昇していく異形のもの。
それを見た直人が呟く。
「龍、、、」
そう言われて土御門の言葉を思い出す。
「"この木の根元には龍が住んでおるんじゃ"」
異形の龍は、地面から伸びて来て、
やがて数十個の頭部が連なって出た所で、
2本の手が現れると、地面を掴んで
人間の上半身が現れた。
首から腰まで、、しかし腰から下には
また首が連なっていた。
龍が、頭を下げる。
無数の顔が、一斉に4人に
視線を合わせたようにみえた。
しかし思い違いだった、
何故なら全ての頭、眼がある場所には
真っ暗な窪みがあるだけだったからだ。
しかしその表情は、怒り、悲しみ、喜び、狂気。
それぞれ違ったものを浮かべているようだった。
1番先頭である優奈の顔が4人を見下ろす。
優奈の顔。
いや、“あれ”はもう優奈じゃない。
口が、ゆっくりと開く。
唇の端から先は皮膚が裂けて血が滴ると
背筋が凍った。
「キャーッーッ!」
優奈の顔が金切り声で叫んだ。
その瞬間視界がぐにゃりと曲がった。
「走れ!!」健太が肩を掴んで、引っ張ったのだ。
4人は森の方へと一目散に走り出した。
龍が追って来ているかは分からない。
あと少しで森に逃げ込める。
そう思った矢先、前方の森の中に、
赤い人影を見つけ4人は急停止した。
最後を走っていた直人が、
健太の背中に突っ込んだ。
「イッテー!何してんだよ!早くい、、、」
直人もすぐに急停止の理由に気づく。
慌てて振り返る直人。
「ひっ!!」
目の前には優奈だった顔がふわりと浮かんでいた。
その裂けた口からは「ア"ア"ア"、、」と、
苦痛に苦しむ様な声が垂れ流されている。
時が止まった様に感じていたその時。
今度は悠真達の方から
「カラカラカラカラ」と悍ましい声が聞こえた。
奴がいる。
直人が理解したのと同時に、
龍は直人の横を素通りして、
赤い女の方へ猛スピードで踊り掛かった。
赤い女と龍がぶつかる程の距離。
「カラカラカラカラ」
赤い女の首がバキッと音を立て時計回りに回る。
同時に優奈の顔がベシャッと音を立てて潰れた。
龍は苦しそうに身を捩った。
しかし優奈の首は千切れて落下すると、
直ぐに次の顔に変わり、
再び赤い女に襲い掛かった。
どうなってしまうのか、皆目検討も付かない状況。
4人は突如始まった化け物達の闘争を、
呆然と眺めていた。
カラカラカラカラ、笑う赤い女。
またもや龍の頭がベシャッと潰れたその時。
赤い女の頭を何かが覆った。
ブツリッ、肉が引きちぎれる音がして、
赤い女は煙の様にフッと消えた。
すると赤い女の頭を覆ったものが首をもたげた。
それは若い男性の顔だった。
しかしその顔は何かを吐き出す様な
表情に変わると、
次の瞬間、口が裂けて新たな頭部が生えてきた。
そしてその顔が赤い女だと気付き、
理解した時、直人が独りごつ。
「く、喰われたんだ」
先頭に立った赤い女の顔の口角が上がった。
「カラカラカラカラ」
直人は恐る恐る首の先を辿った。
やがて人間の下半身が現れる。
下半身から連なった頭は上半身と繋がり、
それが一つの存在だった事に気付いた。
龍が、4人の方向を向いた。
新しく頭部側に出てきた女性の顔と、
尻尾側の赤い女の顔がふわふわと宙に浮いている。
2人の頭が目の前まで来た。
どちらも眼のある位置には深淵が覗いていた。
死んだ。
そう思ったその時、直人が叫んだ。
「あつっ!」
見ると直人のポケットのお札が燃えていた。
同時に目の前の二つの顔は、
顰めっ面になりそっぽを向いた。
そして、地面の奥へゆっくりと沈んでいった。
すーっと音も無く消えるようだった。
途端に静寂が4人を包み込み込んだ。
「……今の、なんなんだよ」
健太が呟く
「……喰った」
悠真は、かすれた声で言った。
「尻尾で喰ったんだ。
赤い女を……尻尾で」
直人が、ゆっくりと首を振る。
「違う。
喰ったんじゃない、、、
あれは、、取り込んで混ざったんだ」
それ以上誰も何も言わなかった。
放心状態で森の中へと歩いていく。
広場には、巨大な“木”だけが、
動じずに立っていた。
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