こどくのち#12 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
放心状態で森を歩く一同。
「おれのせいだ。
もし沙紀が死んだら、、おれのせいだ」
次々に襲い掛かる非日常達を前に、
沙紀の安否を考える余裕が無かった事で、
悠真は自らを責めていた。
こんな所を歩いているうちに
沙紀はたった1人で怪異に
襲われているんじゃないか?
優奈のように残酷な目に遭ってるんじゃないか?
考えれば考えるほど、
悪い方へと考えが膨らんでしまっていた。
頭を激しく振って、邪念を振り払い、
沙紀の笑顔を思い出す事で奮い立つ悠真。
「沙紀、、必ず助けるからな」
決意するように悠真は呟いた。
――――――――――
悠真と沙紀の出会いは、大学の構内だった。
木陰で自己啓発本を読んで浸っていた悠真が、
背後から肩を叩かれて振り返ると、
頬に誰かの指がめり込んだ。
「いってっ」
こんな子供じみた真似をするのは一体、、
指の主を睨みつけようと
視線を上げた悠真の視界に
飛び込んできたのはショートボブの似合う
小顔の美少女だった。
目には綺麗な二重が輝き、
真っ直ぐと通った鼻筋の先には
小さな鼻がちょこんと付いていた。
「こんにちわ!隣いいですか?」
急に美人に話しかけられた悠真。
「あ、お、どうぞ。」
ときょどってしまう。
沙紀はフフッと笑い腰を下ろした。
「とても気持ち良さそうだったから」
ふいに沙紀が話して、悠真は振り向く。
「あなたがこの木陰でとても気持ち良さそうに
本を読んでたんで、つい私も入りたくなったの」
そう言って笑う沙紀の顔は木漏れ日の様に
キラキラと輝いていた。
それから2人はたわいない会話を交わした。
2人とも4回生で同い年だという事。
沙紀は部活からの趣味の延長で弓道をしている事。
悠真に至っては、
「おれさ、昔から霊感があってさ。
霊とか見えるんだよね」などと話す。
後から思い出し、我ながら舞い上がり過ぎて
何言ってんだと後悔したりしたのだった。
しかしそんな話でさえ沙紀は、
拾い上げて紡いでくれた。
「えっ、すごい!どんな風に見えるの?」
「うん、何かぼんやりなんだけど影みたいな感じ。
事故現場とか、心霊スポットとか
行ったら見えるからあまり行かない。
最悪なのは田舎のじぃちゃん家で見た時、
それからじぃちゃんち行くのが嫌になってさ」
「え、笑っちゃいけないけど、確かにそれは最悪」
沙紀は口に手を当て微笑んだ。
沙紀との会話は楽しかった。
特に冴えないモブキャラだった自分が、
沙紀というヒロインレベルの美女と
仲良くなれた事で
まるで主人公になった様な特別な感覚を感じた。
「もし良かったら今度うちのサークル覗いてよ!
面白い奴らばっかでバーベキューばっかの
しょーもない仲間だけど、
きっと楽しめると思う!」
そうやって悠真が誘うと、
沙紀は弾ける様な笑顔で
嬉しそうに頷いたのだった・・・
――――――――――――――――――――
まさに満身創痍。
全員心身共に限界だった。
転落した沙紀、狂った翔、死んだ優奈。
ここに来てからどれくらい経った?
まるでB級ホラー映画みたいなスピードで、
仲間達が減って行く。
「なんだか、夢見てるみたいだよね」
歩きながら直人が呟いた。
「あぁ、おれの経験上悪夢の方がまだマシだけどな」
健太は足に絡まりついた枝を
蹴飛ばしながら吐き捨てた。
美咲は健太の手を握り締め背中に引っ付いていた。
木々の葉の間から覗く月明かりでは、
小さな希望にすらならなかった。
「土御門のじいさんは、
刀を持って来たら崖の下への
道にも繋がるような事を言っていたな。
果たしてどうしたら刀と崖が繋がるのかね」
それは悠真も考えていた。
常識的に考えたら絶対に繋がらない。
しかし今は常識なんて通用しない異常事態だ。
一体何を信じて進めば良いのか分からないし、
藁でも縋るし、猫の手も大いに借りたかった。
「まじかよ?おい、川が出て来たぞ」
先頭を歩く健太が呟いた。
そこには4人のいく手を阻むように、
流れの早い真っ黒な川が横断していた。
「あの山から流れて来てるのか。
結構流れが強いな。
あと幅もある、4〜5メートルくらいか。
よし、流されないように
みんなで手を繋いで渡ろう」
健太の発案に全員が賛成した。
まず健太が一歩一歩深さを探りながら踏み出す。
足が全部入るとまるで何かに押されている様な
強い圧力を感じた。
「みんな、絶対手を離すなよ!」
健太の言葉に「ああ」と応答する。
先頭の健太が対岸に渡り、
美咲も上陸したその時、
直人が急に立ち止まった。
最後尾の悠真はその拍子に一瞬よろける。
「おい何やってんだよ直人!
早く行かないと、、」
言いかけた所で振り返った直人の表情が
今にも泣き出しそうな事に気づく。
「何だよ?どうしたんだよ」
直人はゆっくり下を向いた。
視線を追った悠真の目に飛び込んできた物。
それは直人の脚にしがみつく存在だった。
「うわっ!!」
直感で水死体だと感じたその存在は、
真っ白で、肌がブヨブヨした
小学校低学年程の大きさの人型だった。
しかし、その頭は頭頂部が禿げ上がり、
唇がそぎ落ちた様に無くなり
歯が剥き出しになっていた。
血走ったその眼は見開き、
直人をじっと見つめている。
悠真は思った、これではまるで、、
「か、河童、、」直人が呟いた。
その河童のような存在が、
ゆっくりと首を回して悠真の方を見つめる。
「おいっ!引っ張るぞ!!」
健太の叫びに我に帰った悠真と直人は、
力を振り絞って歩みを進めようとする。
しかし河童の力は強い。
グンッ!バシャッ!
4人とも川に引き摺り込まれてしまった。
「うわーっ!!」
川の流れに飲まれた4人。
バシャッ!ガボっ!
弾ける水飛沫。
浮かんでは沈む手足。
もう無理か。
悠真が諦めかけたその時、
急に誰が悠真の手を掴んで引き上げた。
ゲホゲホとむせ慌てて立ち上がると、
よろけながらも必死に歩き河原に跪いた。
「はぁっ、はぁっ、どうなった!?」
悠真が何故助かったのか聞く。
「お、お札を使ったらあいつが消えたんだ」
隣で寝転んだ健太が言った。
「なるほど、あと一枚か、、、」
悠真は空を見上げて寝転がった。
「ふっ、ふはははは」
突然悠真が笑いだすと、
健太も直人も美咲もつられて笑った。
そうだ、こうやって助け合って乗り越えようぜ。
俺たちいつだってそうだっただろ?
ちょうど雲が月を隠した所だった。
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