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こどくのち#14 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】

#創作大賞2026 #ホラー小説部門


 「橋が落ちた今、
 外に出る道がもう一本だけある」
沙右衛門は茶を一口啜ると話し始めた。

 「そしてそのもう一本の道の途中で、
 崖の下の川を渡る必要があるんじゃよ」
悠真は身を乗り出して聞き入る。

 「しかしその道に行くのはあまりお勧めはせん。
 非常に難しい道じゃからの」
いつまでも勿体ぶった話し方に、
流石にイライラを隠しきれなくなる悠真。

「それでも行くしか無いんです!
 いいから教えて下さいよ」

「そうか、そうじゃな。
 もう一本の出口、
 その入り口がある場所。
 それは広場の大木の根元じゃ」

「そんな!」
美咲が悲鳴にも似た声を上げる。

「そして、お前さんが持つその刀は
 怪異達を鎮め、祓う力を持ち、
 怪異には触れる事すらできない神聖な刀。

 ここまで言うたら、
 刀の力を使って戻って来たそなた達なら
 鍵となる意味がわかるじゃろ?」
沙右衛門の試す様な視線とぶつかる。

「刀の力で土龍を抑えながら入れってことですね」
沙右衛門は静かに頷いて、茶を啜る。

あの木の根元には土龍が潜んでいる。
またあの化け物と対峙しないといけないのか。
いくら神聖な刀と言ってもあの巨大な
化け物に通用するのか?
再び絶望感が4人を包み込む。

「しかしの、本当に大事なのはここからじゃ、
 まずはその刀が無いと始まらんと思って
 言わなんだが、、、
 皆落ち着いて、だが覚悟して聞いてくれ」

覚悟して聞いてくれ。
急に出て来た重い言葉がその場に緊張を走らせる。

「まず、ここには誰も助けにはこん。
 そして、、この地から抜け出せる者。
 それは一人だけじゃ」

「はぁっ!?な、何訳わかんない事言ってんだよ!
 何でだよ!?誰がそんな事決めんだよ!?」
意味不明な展開にブチ切れる健太。

あまりに突飛な発言に流石の悠真も
健太を宥める気が起きなかった。

「誰が決めた?か、
 くしくも的を得た質問じゃな。
 残念ながらそれは、
 この国じゃ、、」
思いがけぬ名前の登場に、もはや現実感が薄まる。

「国?はぁ?
 そんなの、この現代の法治国家の日本において
 ありえるわけがないだろ!?
 許されるわけがないだろぉが!?」

「我々は許されるんじゃ」

沙右衛門の目に底知れぬ闇を見て
健太は少し怯んだ。
「じ、じぃさん、あんた、一体何者なんだよ?」
健太の問いかけに、
何故か背後から声が飛んできた。

「八咫烏(ヤタガラス)」

健太が振り返ると、
直人が強い視線を浴びせていた。
「そうですよね?」

沙右衛門は無表情のまま直人を見つめている。
「はて、どうじゃかのぉ」

「おい、直人、どういう事だよ?
 何だよそのカラスって?」
理解出来ないでいる健太。
直人は眼鏡を少し押し上げると続けた。

「土御門って苗字、どこかで
 聞いた気がしていたけど、
 今の話を聞いて思い出しました。
 土御門家というのは、陰陽師最盛の平安時代、
 帝(ミカド)直属の陰陽師として名を馳せた、
 安倍晴明(アベノセイメイ)の末裔ですよね?」

その名前は聞いた事があった。
平安時代に活躍し、歴史に名を残す伝説の陰陽師。
「そして、国家を護る秘密組織
 "八咫烏(ヤタガラス)"  の一員でもある。
 違いますか?」

悠真達は息を飲んで土御門を見つめた。
「うむ、直人と言ったか?
 お主、なかなか博学じゃのぉ。
 そこまで知っておるなら隠しても無駄か」
沙右衛門は胡座をかいた膝をポンと叩く。

「いかにも、わしら土御門家は
 安倍晴明が末裔の
 安倍家が名を変えたもので、
 帝直属の陰陽師として栄えた一族じゃ。

 そしてその力は今もなお健在で、
 歴代新しい総理大臣は我が一族に挨拶に来る
 のが慣わしになっておる程じゃ。

 まぁ、一つ誤りがあるとしたら、、
 八咫烏の一員というより、
 我々が八咫烏、と言った方がしっくりくるの」

それを聞いた直人は、事の重大さを理解したのか、
秘密結社の中枢に立つ人物と出会えた感動か、
わなわなと震えていた。

「帝直属のという事は、
 今でいう天皇直属て事ですか?」
悠真が驚いたように聞く。

「あぁ、そうじゃな。
 元々平安時代には陰陽師達は陰陽寮という、
 現在でゆう所の省庁にあたり、
 占いで政治を行う政府の機関だったんじゃ。

 そしてもう一つの顔が、陰陽術にて都、
 しいては日の本を災いから守る事を
 義務とした組織」

突然の陰謀論のような展開に、
全員が聞き入っていた。

「それが戦国の世となり、幕府が立ち、
 帝の威光が薄れていく中でもひっそりと、
 帝の勅使だけで動く隠密結社となり活動し、
 今の形になった。。。」

沙右衛門は居住まいを正して4人と向き合った。
「そして現日本国は、
 この地に一般人が迷い込んだ場合は
 速やかに排除するようにと定めたんじゃ。
 万が一、ここからあやつらが
 逃げ出さぬようにな」

排除。
その強い言い回しに心臓が早鐘を打つ。
「しかしじゃ、お前さん達の様な若者を
 全員死なせてしまうというのは
 あまりに酷、わしの責任でせめて一人だけは、
 助けてやろうという事じゃ」

「じゃあその責任で全員助けて下さいよっ!
 お願いしますよ」
健太が怒りを抑えながらも、縋るように頼んだ。

「すまんが無理じゃ、一人でも難しい事だ。
 そんな事をしたらわしが国から殺される。
 わしも辛い事を分かってくれ」

部屋中に絶望が蔓延していくのを感じた。
「……じゃあ、生き残れるのは本当に、、」
その言葉に全員が、互いを見合う。

それじゃ仲間じゃない。
競争相手じゃないか。
「……ふざけんな」
健太が拳を握る。
「一人なんて、そんなの、選べるわけねぇだろ!!」

沙右衛門は、肩を落とし静かに首を振る。
「本当にすまない、
 わしも全員を助けてやりたいが、
 こればかりはどうにも出来ん」

何なんだここは。
決して逃れる事の出来ない絶望が渦巻き、
迷い込んだものを飲み込む蟻地獄。

無力で小さな自分達が蟻だとしたら、
文字通り地獄だ。
悠真は静かに天を仰いだ。


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