見出し画像

こどくのち#2【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】

#創作大賞2026 #ホラー小説部門

「はーい、というわけで、
 我々名京大学アウトドア愛好会の今年最後、
 というか大学生活最後のイベントは、
 来月1月31日土曜日から、
 一泊での琵琶湖グランピングで決定です!
 では皆さんそれぞれ段取りをお願いします!
 以上っ!」

真面目でリーダーシップがあるが、
少々空回りする会長、
悠真の発表に沸き立つ面々。

「よっしゃ、じゃあ俺は車借りとくわ。
 2人乗りの4トントラックでいい?
 優奈は荷台で良いっしょ?ははっ」
お調子者だが場の空気を軽くするのが上手く、
どんな時でも笑っていられるムードメーカー、翔。

「うざー、誰が荷物だってのー。
 逆にアンタだけ宅配便で発送しようか?
 え、ちょっと待って、うそ?
 この前のダンス動画微妙にバズってる。
 イェーイ」
バズりこそ正義、
どこにいてもスマホを離さない
SNS大好きギャル、優奈。

「琵琶湖周辺では、古くより多くの
 龍神伝説が伝えられてるんだ。
 今回の旅で何か龍神様の加護を受けた動画が
 撮れるかもね」

根暗で理屈っぽいが、オカルトが大好きで、
オカルトの知識だけはやたら豊富な
スピリチュアル人間、直人。

「ふ、龍だって?
 そんなもんに会えたら、
 背中一面に龍の刺青を増やすわ。
 俺は運転だから、取り敢えず
 何もしなくて良いよな。
 美咲、今からおれんち来いよ。朝までコースで」

強気でイケイケ、ラグビー部上がりの
脳筋パワータイプ、健太。

「うん、良いよー。
 てかグランピング楽しみ、
 私は健太とずっと一緒にいるぅー」

自分では何も決められない、
末っ娘タイプの健太の彼女、美咲。

「じゃあ私は、いいグランピング施設を探すね。
 琵琶湖周辺にはいっぱいあるみたいだから。
 最高の時間にしようね!」

明るく、成績優秀な秀才、沙紀。

アウトドア愛好会というのは名ばかりで
ほぼ屋外呑みサーと化していた彼らは、
どこにでもいるごく普通の大学生
グループであった。

しかし全員が4回生の為、実質的に
今年で解散となり、
キャンパスライフの集大成として
遠征旅行する事になった。

「ありがとう沙紀、じゃあよろしくな」
悠真の言葉に沙紀がウインクする。

ドキリとする悠真は密かに沙紀に
想いを寄せていた。

解散の雰囲気になり沙紀が悠真に
こそこそと近づいて来た。

「ごめん、悠真、ちょっと良いかな?」
「え、うん。どうしたの?」

沙紀は悠真を部室の外に連れ出すと、
裏手に回った。

「どうしたの沙紀?琵琶湖は嫌だった?
 あ、もしかして日程の都合悪かった?」
沙紀の不安そうな顔に焦り、顔を覗き込む。

「いやっ、ち、違うの、ごめん、あのね、
 実は、言いたい事があって。
 私がサークルに入ってまだ6ヶ月だけど、
 悠真のおかげで皆と打ち解けて仲良くなれて、
 本当に感謝してる。
 でね、次が最後のイベントだからさ、
 最高の思い出にしたくて、
 今しかないかなって思って。
 その、、私、悠真の事がね、その、、」

その時悠真がばっと手を上げる。
「うわ、うわっ!ごめん、先に俺に言わせて!
 沙紀、前から君が好きだった!
 俺と付き合って欲しい!
 よろしくお願いします!」
 悠真はそう言って右手を延ばして頭を下げた。

「えーっ!何それ?
 もう、ズルいよ!
 せっかく勇気出して呼んだのに」
頬を膨らます沙紀。

「いや、ごめん、まさかその、
 沙紀から言ってくれるとは
 思ってなかったから、
 でもこんなの女の子から言わせるのは
 男らしくないなと思って焦って。
 だからその、、」

グズグズ言い出した悠真を見かねて
沙紀はふくらました頬の空気を抜くと
尖らせた口で
「ごめん、無理」と言い放つ。

「えっ!?」絶望が顔に張り付いた悠真。
「ぷっ、うっそー!
 良いに決まってんじゃん。
 ウケるんだけど、こちらこそ宜しくね」

その瞬間、良かった!と歓喜の声をあげ沙紀を
抱きしめて回りだす悠真。

「ちょっと、恥ずかしいって」
「良いじゃん、付き合ってんだし」
「気が早いって」
「嬉しくてつい、いや、それにしても、
 あー、良かったー!
 マジ一瞬死んだと思ったわ。
 断られた時、めちゃくちゃ頭回転させたわ。
 呼び出された理由が好きな人の
 相談とかだったのかな?とか。
 どうしたら逆転出来るかな?とかさ。
 まじ死ぬとこだったわぁ」

「確かに、それは死ぬね。
 今度のグランピングも地獄だったでしょうね」

そう言って2人は笑い合って
初めての口づけを交わした。
お互いにずっと求め合ってたのだ、
そう思うと距離が無くなるのに
時間は必要無かった。

それから2人は毎日一緒だった。
講義が終わればオシャレなカフェで、
バイトが終われば悠真の家で、
かけがえの無い時間を過ごしていった。

朝、悠真の隣で目覚める沙紀
髪を撫でる悠真と目が合う。

「ん、おはよう」
「おはよう」
「なに?」
「いや、沙紀の寝顔、子供みたいで可愛いて思って」
「やだー恥ずかしい、やめてよ」

布団に潜る沙紀。
「ありがとう、沙紀」
不思議そうな顔で頭を出す沙紀。

「今、これが幸せなんだってめちゃくちゃ感じてる、
 安いラブソングみたいだけど、
 本当にモノクロの人生に色が付いたみたいだよ」
「何それ?ふふっ」
悠真の首に手を回す沙紀。

「なんかさ、最近思ってたんだ。
 毎日毎日同じ事の繰り返しで
 つまらない普通の日々を、
 あまり深く考えず、
 なるべく面白い事をしようくらいで
 ただダラダラと時間を浪費してる気がしてた」

真剣な表情で遠くを見つめる悠真。
「幼い頃は夢があったけど、
 それがいつしか自然と安定を求めて
 敷かれたレールを探して乗っかった。
 で、それが大人になる事だと思って。
 それが社会で生きる事だと言い聞かせてさ。
 でもさっき沙紀の寝顔を見て気付いた。
 良い人生は自分で選んで、
 努力して掴み取らないといけないって。
 だからありがとう、沙紀」

「ふふ、何言ってるの?まだ早いってーの」
沙紀は悠真の鼻頭をピンと弾いた。
「これから、大学卒業して、
 社会に出たらもっと可能性は広がるし、
 結婚して子供が出来ても
 考え方が変わると思うし、
 悠真なら心配しなくてもきっと大丈夫だよ。
 それに、それを言ったら私だって感謝してるよ」

沙紀の方を向き直る悠真。
「私ん家さ、ちょっと複雑な家庭だったんだ。
 お母さんは早くに死んじゃって、
 お父さんもずっと病気で施設に入ってる。
 あまり明るい話が無い家庭だったから、
 必死で孤独を紛らわす為に
 部活の剣道や弓道にのめり込んで
 ろくな青春送れなかった。
 だから今までの人生、
 ここまで愛してくれる人に出会えなかった、、
 だから、だから私も幸せだよ」

そう言って笑顔を咲かせる沙紀を
優しく抱きしめる悠真。
「ずっと隣にいてくれよ」
「もちろん、浮気したら射殺しちゃうぞ」
沙紀は優しく、悠真の頬に手を当てた。

「ふふっ、物騒だなぁ」
言ってスマホに手を伸ばす悠真。
「うわ、もう11時じゃん。
 何か美味いものでも食べにいく?」
沙紀は笑顔で親指を立てた。

その日のアウトドア愛好会の集まりで
交際を公表した2人は、
友人達からの暖かい祝福と、
「遅いんだよ、お前ら以外全員が
まだかって思ってたよ」
などの冷やかしをもらったのだった。


最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございます。

「面白かった」「少しでも刺さった」
と感じていただけたら、
ぜひ“スキ”とフォローで
応援していただけると嬉しいです。

あなたの反応が、次の一篇を書く力になります。

#創作大賞2026 #ホラー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!