こどくのち#7 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
突如崩れ落ちた吊り橋。
一緒に谷底に落ちて行った沙紀。
あまりに突然降りかかって来た絶望の雨と混沌。
非日常的な状況に誰もが思考を停止していた。
悠真はハッとした。
沙紀を助けなければ。
覗き込んだ谷底には激流と呼べる勢いの
河川が流れており、ここから飛んだら
無事ではすまないように見える。
左右を見渡しても下に降りれるような場所は無い。
どうしたら良いんだ?
もし沙紀が無事ならこうしているうちに
刻一刻と危険な状況になって行くはず、
焦る気持ちが苛立ちを募らせる。
底知れぬ不安からか、
付き合う前の事、付き合ってからの事、
沙紀との思い出が走馬灯の様に頭を巡る。
「なんだよっ!」
心配して肩に手を置いて来た翔の手を
勢いよく払う。
気付いたら涙が頬を伝っていた。
それを見た翔と健太は、
やはり悠真の肩に静かに手を乗せた。
悠真は鼻を啜ると目を拭い笑顔を作る。
「ごめん、ありがとう。
少し落ち着いたわ。
まだ沙紀は死んだって決まったわけじゃない。
下で俺らの助けを待ってる可能性もあるから、
俺は沙紀を助けに行く。
だからお前らは出口を探してくれないか?」
皆、悠真の気丈な振る舞いに合わせて
自分を鼓舞するように頷いた。
「そ、そうだな、、そうだよ!
あれじゃ何が何だかわからなかったからな。
よし、じゃあ取り敢えずとっとと出口探して、
沙紀を救出して車に戻ろう!」
「ああ、そうだな」
翔は悠真の肩を叩き、健太も反対から肩を組んだ。
悠真は健太の励ましと、
翔の笑顔に少し救われた気がした。
全員が少し気持ちを落ち着かせたその時、
笑っていた翔が眉間に皺を寄せ呟く。
「ん?なぁ、あれ何だ?あの白いの、、うっ!?」
翔の視線の先には、真っ暗な森に、
浮かぶ様に光る真っ白な人が、
クネクネと蠢いていた。
その肌は水死体の様に青白く、
手脚は異常な長さだった。
顔を良く見た時、背筋が凍りついた。
目と口があるはずの位置には真っ黒な穴が3つ。
何かを食べたそうに空いているだけだったのだ。
「何よ、白いのって?そんなのどこにいるのよ!?
もういいよ、やめてよ!」
美咲が抗議してくる。
「いやいや、あれだよ!?
あの一番太い木の下でクネクネ動いてる
青白いやつだよ!?」
翔が指差している方向を、
全員見るが皆一様に不思議そうな顔で
自分を見返しているのを見て、
次第に顔が引き攣っていく翔。
「そんな、俺にしか、見えてないってのかよ、、」
その時突然、直人が焦ったように叫んだ。
「やめろっ!翔、見るな!クネクネだ!」
しかし、時はすでに遅かった。
翔は虚ろな目で森を見つめて固まった。
そして、次の瞬間。
「ハハっ!ハハハッ、ハハハハハハッ!
ははははははははははハははははハっ!」
突然、壊れたように笑い出した翔。
「はは、、、、、ヒッ、ヒヒッ、
ヒャヒ,ヒャヒャ。
ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
そのままものすごい勢いで頭を横に振り出した。
目を真っ赤に充血させて、
顔も苦しそうに赤くなっている。
健太と悠真と直人が3人がかりで押さえつけるが、
異常な力で暴れ回る翔の身体。
「翔ーっ!止めろって!
直人!何だよこれどうなってんだよ!?」
健太が叫ぶ。
「クネクネだ!クネクネを見たんだ!
このままだと発狂して廃人になってしまう」
直人の言葉に青ざめる健太と悠真。
狂ったように笑う翔。
恐怖にしゃがみ込んで震える美咲と優奈。
息つく暇も与えない程の異常な出来事の連続に、
ついさっきまでの楽しかった時間が
まるで夢だったかのように思える。
そんな中、翔を押さえる直人が叫ぶ。
「くそっ!みんな絶対森を見るな!
村の中に逃げるぞ!
翔!しっかりしろよ!」
悠真が翔を抱え、健太が美咲を抱える。
直人が優奈の手を引き走り出す。
しばらく走ると、庄屋だったのか、
一際大きな長屋を見つける。
「あそこだ!あのデカい家に逃げ込もう!」
戸を開けると、一斉に傾れ込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、何だったんだよくそっ!」
気付いたら翔の笑いは止まっていて、
変わりに空な目で「オイデ、オイデ」と
ぶつぶつ呟いていた。
その口の端からは涎が絶え間なく滴っていた。
「翔、大丈夫なのかな」
仰向けで宙を見つめぶつぶつと呟く翔を見て
悠真がポツリと溢す。
「分からない。
でもさっき言った通り都市伝説では、
クネクネを見たものは
発狂して廃人になるって言い伝えだ、、」
直人は俯いて話した。
「てか何なんだよ、そのクネクネって
ふざけた呼び名は!?」
健太はそこにあった木箱を
感情に任せて蹴飛ばした。
「うん、山で人柱になった魂の集合体や、
水死した人間が怨霊と化したものと
諸説あるんだけど、ざっくり言ったら、
見たら発狂するという祟りを引き起こす
山の神的な存在といった所だと思う」
山の神、神が相手と言われると、
どうにもならないと思わされる。
「ここに居て大丈夫だと思うか?」
悠真は直人に聞くが、直人は小さく首を振った。
「分からない、でもクネクネは
見たら終わりとは聞くが、
襲ってくるという話は聞いたことが無い」
「そうか、じゃあもしかしたら森の中からは
出て来ない可能性もあるな。
だけど一応奥に進んで
出口を探した方が良いとは思う」
そう言って3人は目を見合わせて頷き、
優奈と美咲も頷いた。
その時部屋の奥からミシッと人の足音がして
一同は一斉に振り向いた。
恐怖の視線が注がれる部屋の奥の闇から
ぬっと姿を現したのは1人の男性の老人だった。
老人といっても六十程度の初老のようだが、
汚い和服に汚い顔。
ボサボサに伸びた髪と髭で
だいぶ年老いて見えている
といったようにも見える。
こんな所に住んでいる人間がいるのか?
そんな悠真の逡巡を通り越して健太が叫ぶ。
「だっ、だれだよっ!お前っ!」
すると老人はニコリと微笑んだ。
「はて、他人の家に勝手に上がり込んで誰だ、
は中々の暴論じゃな」
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