こどくのち#4【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
そこに鎮座していたのは、
石で出来た立派な鳥居だった。
ずいぶん古い物らしく、朽ちて苔むしている。
二本の脚の間にはいくつものしめ縄が、
まるで規制線の様にかけられていた。
「うわー、怖ぁー、まるで和製 "KEEPOUT" やな」
「エセ関西弁ウザいって」
スマホを見たまま翔にツッコむ優奈。
鳥居の先には、古びた吊り橋が掛かっており、
きいきいと風に揺れている。
両脇を固める渓谷は、よほど深いのだろう、
昼間だというのに暗く、
まるで別世界へ通じているようだった。
対岸が霧で見えないでいる事が、
より一層の不気味さを醸し出している。
「ん、何か書いてある」
鳥居の柱には、なにやら文字が彫られていて、
今にも消えてしまいそうだったが、
かろうじて読み取れた。
「"こ、どく、のち、はいる、べからず"
だってよ。
どういう事だろうな?」
健太がポケットに手を突っ込んで
呆れたような目で見下す。
直人が、眼鏡をクイと上げながら
鼻息荒く入ってくる。
「なになに、孤独かぁ、
もしかしたらこの先の土地は、
川の中洲に出来た陸の孤島になっていて、
流刑にでも使われていたのかもしれないな。
それか、姥捨山(うばすてやま)の類か、、
どちらにせよこれは興味をそそられる」
「ねぇ、見て見て、こっちもヤバいよ!」
優奈が指差した先に佇むのは、
これまた古びた祠だった。
それは段になった地層の壁に
埋め込んだ形になっており、
まるでトンネルの入り口に建造された様だった。
「うわっ、何だこれ気持ち悪い」
祠の入り口は格子状の木の扉が付いており、
中には、日本人形、こけし、髪飾り、石、
鏡、位牌、日本刀、具足等多種多様な
物が詰め込まれていた。
「何だよこれ?誰がどんな意図で入れるんだ?」
健太が祠の格子状の扉に手を掛けようとした時
「やめろっ!」
直人の叫び声でビクリと驚く健太。
「何だよびっくりするなぁ」
「びっくりしたのはこっちだよ!
こんな所にある祠に
不用意に触れるもんじゃ無いよ!
下界から曰く付きの呪物を持って来て
祀ってある可能性があるんだ!
ほら、奥を見てみろよ」
直人が祠の奥をスマホのライトで照らすと
血のような物に塗れた包丁が置いてある。
健太の顔から血の気が引いていった。
直人は健太の肩に手を乗せ、静かに頷いた。
「あ、霧が晴れた」
みんなの背後で沙紀が小さく呟く。
先程まで濃い霧が掛かっていた吊り橋は、
風のせいか突如晴れて、
向こう岸に影が浮かび上がる。
皆が見つめる中段々鮮明になっていく、
屋根、建物。
やがてそれは小さな村の様相を形取った。
「えー、やっぱ村があったんだ。
廃村ってやつじゃない?
やばー、映えそうじゃん」
優奈がスマホを構える。
「行ってみよう」
その言葉に互いに様子を伺う7人。
「まぁ俺、結構廃墟好きなんだよなぁ、
こんな場所の廃墟は一期一会だからな」
そう言って、肩を回し出す翔。
「いや、やめた方がが良くない?
その橋壊れそうだし、熊が出たらどうするの?」
慌てる沙紀の肩を叩き、
熊よけスプレーを見せる悠真。
「ま、熊については大丈夫。
こいつの出番にはなるけどね」
それを見た沙紀は一先ず安心したが
「いやでも直人の言う通り、
曰く付きの場所とかかもしれないよ?
八つ墓村とか犬鳴村?みたいな」とこぼす。
「まさに!それこそ最高の
シュチュエーションだよ!」
こぼれたのはガソリンだったようで、
より高ぶる直人だった。
沙紀は言った事を後悔して苦笑した。
「え、これが当たれば
ホラー系のアカウントも作ろうかな」
呑気にSNSの事を考える優奈。
「ま、なんか出て来たら俺が組み伏せてやるさ」
「健太君カッコいー、きゃー」
美咲の横でおどけて健太に
ヘッドロックをくらう翔。
それを見て楽しそうに笑う美咲。
沙紀が止める声を聞き入れず、
皆んなで鳥居の手前まで歩いていく。
「まぁ、こんだけいれば大丈夫だよ」
悠真は沙紀の肩に手を置き微笑んだ。
靴の裏で砂利が鳴る。
「綺麗に白い砂利を敷いてあるんだな。
意外と人が来るのかも」
鳥居をくぐると気温が下がった気がした。
一同はしめ縄をくぐりなが入っていく。
「……や、やっぱりやめようよ。
ここなんかおかしいよ」ぽつりと、沙紀が言う。
皆も何か感じたのか、その言葉に
ほんの一瞬だけ空気が止まる。
「大丈夫だって。ほら、すぐ戻るからさ」
悠真が軽く笑い、沙紀の手を引くが
その手を振り解き、大きく頭を振る。
「ごめん、私やっぱり無理だよ、怖いよ」
「わかった、じゃあここで待ってて。
すぐ戻ってくるから」
そう言ってしまった自分の声が、
妙に軽く聞こえた悠真。
「ごめんね、早く戻って来てね」
沙紀は小さく手を振った。
最初に、翔が橋に足を掛けた。
ぎしっと木が軋んだ。
二歩、三歩と歩みを進める。
「うん、全然平気、意外と強そうじゃん」
嬉々として振り返る翔。
「ちょっと、急に止まらないでよね!
ぶつかってスマホ落としたら殺すから。
てか怪奇現象起きないかなー?
ギャル×怪奇現象なんて絶対バズりちらかすわ」
カメラを構えて歩く優奈。
気づけば、沙紀を残して全員が橋を渡っていた。
橋の中程で、背後を振り返る悠真。
沙紀は心配そうに見ている。
安心させる為に悠真は大きく手を振った。
だが、次の瞬間には再び霧が濃くなり、
その姿は見えなくなったのだった。
「おーい、早くしろよ!」
前から声が飛ぶ。
悠真は前方に向き直り、足を進めた。
そして、全員が橋を渡りきった時、
風が止み音が消えた。
さっきまで聞こえていた虫の声も、
葉の揺れる音も、鳥の鳴き声でさえも
聞こえなくなった。
「え、なんか凄いんだけど…」
健太の背中に隠れながら美咲が呟く。
霧が晴れ、眼前に広がったのは、
村の奥へまっすぐ伸びる道と、
その両側に建つ木造の荒屋だった。
「何だよこれ、映画村かよ」
遥か昔に廃村となったのだろう、
生活の痕跡は微塵も残っていない。
周りを鬱蒼とした森に囲まれているからか、
まだ陽が出ていたはずなのに、
薄暗く、気味の悪い雰囲気を
存分に醸し出している。
皆が呆気に取られ呆然と立ち尽くしていると、
突如優奈がビクッと肩を震わせ、
小さく声を上げた。
「え?ち、ちょっと待って、
今何かきこえなかった?」
全員が優奈の言葉に耳を澄ませると、
どこからともなく聞こえてきた。
カラカラと無機質な笑い声の様な音。
チリーンと鳴る鈴の音。
ガシャ、、ガシャ、と聞いた事がないような音。
思わず背筋に悪寒が走る。
「よし、も、もう戻ろうぜ」
不安を含んだ翔の声に皆我に帰り、
そうだなと顔を見合わせる。
歩きながら健太が独りごつ。
「あー気持ち悪かったな。
ったく、誰かさんが"行こう"
なんていわなけりゃな」
健太は悠真を見た。
「え、俺じゃ無いよ」
「俺でも無いよ」
翔が続くと、直人も違うという。
じゃあ誰だよとなったが、
これ以上話しても無駄だと判断した健太が
「まぁ、いいや」と言ったその時、
「おーい、悠真」と呼ぶ声が聞こえた。
橋の方を見ると、霧が掛かる橋の上で
沙紀が手を振っていた。
「沙紀、これたんだ」
悠真が手を振りかえし近づく。
橋の袂に着いた時、
うっすら沙紀の表情が見えた。
なぜかどこか寂しげなその表情に
「どおしたの?」と悠真が訝しがってると、
橋の上の霧はどんどん深くなり、
ついには沙紀が目視できなくなった。
その瞬間バキバキと木が割れるような音が響いて、
吊り橋を吊っていたワイヤーがブチんと切れる。
同時に橋の方からきゃーと言う叫びが聞こえた。
「沙紀?沙紀ーっ!?」
悠真が走って橋に向かおうとしたその時、
健太に腕を掴まれる。
「もう遅い!」
次の瞬間ガシャッ!バッシャーン!
橋は大きな音を立てて谷底に沈んだ。
「さっ、沙紀ーっ!!」
その叫びごと谷は飲み込んでいった。
急に遠ざかった対岸。
橋が希望だった事を思い知る。
深い森である対岸が、
まるであの世だろうかとでも
いうように佇んでいる。
しかし果たしてどちら側があの世に近いのかは、
まだ誰も知る由もなかった。
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