見出し画像

こどくのち#5 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】

#創作大賞2026 #ホラー小説部門


ー   西暦1545年 ー
よく晴れた昼下がり、
木立の間は優しい木漏れ日が降り注ぐ。

「やーい捕まえてみろー、わしは牛若丸じゃ!」
「待ってよ兄者ぁ」

手に枝を持って木の間を縫う様に走り回る、
着物姿の2人の少年。

兄は切り株の上に立つと、手に持った枝を
割れ目に差し込んだ。

「ははっ!またわしの勝ちじゃな!
 全く小一郎はのろまじゃな。
 そんなんでは武士になって
 武功を上げるのは難しいぞ」

小一郎は息も絶え絶え切り株の横に寝転んだ。
「くそっ兄者め、明日は必ず勝つ」
「あぁ、また明日じゃな」
日も暮れかけたその日、2人は帰路についた。

帰り掛けまたも走り回る2人、
兄がつまづき、弟が追いつこうと手を伸ばした時、
兄はニヤニヤしながら振り向いた。

「あっ!前っ!」

弟が叫んだ為慌てて前を向いたが時すでに遅し、
兄は目の前に現れた赤い壁に突っ込んだ。

「いてて、何だよぉ」

尻餅を着いた兄が困惑の表情で壁を見上げる。
程なくしてそれが壁では無く赤い甲冑に
身を包んだ武士だという事に気付き驚愕に変わる。

その眼はまるで、足にクソでも付いたかのように
忌々しいものを見る様な暗い眼だった。

「お、お侍様だ!あ、ご、ごめんなさい」
珍しく見る憧れの武士に一瞬興奮したが、
すぐに悪かったと思い直し、
恐る恐る謝る兄。

武士の男はギロリと兄を見下したかと思うと、
ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべ刀を抜いた。

「くくく、どうせ皆殺しだ。
 どいつからでもかまいやしないな」
そう言い放つと、まるで草刈りでも
するかのような軽さで
兄の首を刎ねた。

兄の首は苦悶と恐怖に満ちた表情を貼り付けて、
胴体と泣き別れとなりゴロリと地面に落ちると、
光を失った両目で弟の方を見つめてきた。

「え、、、兄者?」
弟は何が起きたか理解できずにいた。

ただ本能は底知れない恐怖を感じているのだろう、
足がすくみ、膝が震え股が温かくなるのを感じる。

武士の男は次に弟の方に目をやる。
「くくっ、逃げないのか?
 逃げてよいぞ?
 逃げ回る弱者をいたぶるのもまた一興だからな」

弟が腰が抜けるという現象を
実感している真っ只中、
武士は容赦無く刀を振りかぶった。

死んだ。

弟が直感したその時、突如目の前に
騎馬武者が現れて武士の首を刎ねた。

雨のように降り注ぐ鮮血のなか、
「行けっ!直ちに逃げよ!」と言い放ち
駆け抜けて行った騎馬武者。

弟はその背中をいつまでも見つめていた。

その日、兄弟が暮らす村は
戦の戦火に巻き込まれ、
女子供を含めて多くの死者を出したのだった。


ー   50年後   ー
村があった地の外れに佇む数十人の武士の集団。
皆真っ赤な甲冑に身を包み、帯刀している。
「この先だな」
一際目立つ角の付いた甲冑に身を包み、
馬に跨った武士は顎鬚を撫でながら呟く。

すると背後から声が飛んでくる。
「いやぁ、こらえらい事ですなぁ。
 何という禍々しい気。
 こんなん、早急に手を打たな
 国を越えて大きく広がってしまいますなぁ」

声の主は、輿(コシ)に乗り
狩衣を纏った狐顔の優男だった。

「うむ、何となく雰囲気が悪いのは感じるが、
 やはり我々にははっきりとは分からんな。
 刀と槍で倒せる相手ならよいですが、
 それ以外となると土御門殿達だけが頼りですぞ」

土御門と呼ばれる輿に乗った男は
ニコリと微笑み頷ずく。

この男、土御門茂晴は普段は朝廷に仕えており、
京の都随一の陰陽師と言われていた。

隊列には茂晴と同じ様に輿に乗った補佐役の
陰陽師が後4人いて、
皆同様に祝詞を唱え瞑想しているようだ。

「にしても、井伊殿おん自ら出張られるとは、
 さすが徳川四天王と呼ばれる武将は
 違いますねぇ」
茂晴は、並んで進む井伊直政を見上げた。

「はっはっ、なに戦で殺された者達の怨念が
 異形のものとなり、人を襲うと言われたら
 戦に生きてきたわしも
 つい気になってしまいましてな。
 殿に申し上げた折、最初は危険だと
 反対されましたが、
 土御門殿が一緒ならと承諾頂きました」

「いやいや、徳川殿も井伊殿なら
 異形でも何でもねじ伏せてくれると思われ
 たん違いますか?」

「ふっ、だとありがたき幸せですな。
 よしっ、これは戦じゃっ!
 しかしここから先は何が出てくるか分からん!
 皆、覚悟して臨む様に」
「おぅっ」
 武士達は大声で気合いを入れた。


その地は、長く名を持たなかった。
ただの谷でただの通り道。

しかし急峻な崖に囲まれたそこは、
安全な自然の要塞として
代々人が住み、作物を育て、静かに暮らしていた。

しかし次第に戦が熾烈を極めていく時代に
遂に攻め込まれたその地では
残虐な殺戮が行われて、
女子供までもが犠牲となった。

要塞と化した事が仇となり、逃げ場は無くなり、
斬られ、焼かれ、蹂躙され、村は消えた。

残った地は、血に塗れた
陸の孤島となってしまっていた。

やがてその惨劇も忘れ去られる程の時が経ち、
また新たな有力者がその地に目をつけ
村を興し、砦を築いた。

最初に異変を記したのは、
有名な旅の僧だったという。

村で原因不明の流行病で大量の死者が出ていると
いう噂を聞いて駆けつけたが、
着いて早々に言い放った。

「これは流行病などでは無い。
 この地に根付いた怨念。
 ここは、あまりにも危険だ。
 全員今すぐ村を立ち去れ」

しかし村に住む者達は僧の話を聞かず居座り、
僧は出来る限りの対応をしたが、そのかい虚しく
ひと月足らずで全員全滅してしまった。

やがてその話が周囲の村に広がった頃、
他の村でも同じ様に村人が
死んでいく現象が起きた。

恐れ慄いた住民は、時の大名 
井伊直政を頼り幕府へ嘆願。
お祓いの為、京より陰陽師を遣わせる事になった。

井伊隊が橋の前まで到着すると、
直政は右手を挙手する。

「全軍とまれーっ!」
直政の周りに居た者が叫ぶと進軍が停止した。

同時に茂晴がふわりと輿から飛び降り岸に立つ。
「かぁー、こりゃあきまへんな。
 そやなぁ、結界の準備だけしときましょか」

言うと茂晴は、補佐の4人に指示を出し
武士達が運んで来た2本の木の杭を持ち出して
ドスンドスンと橋の手前に打ち込んだ。

そしてその上に2本の丸太を渡すと、
それは簡易的な鳥居となった。

「井伊殿、ここでしばらくお待ちになって下さい」
直政が頷くと、茂晴は4人の補佐役の
陰陽師を連れたって
橋を渡り村へと入って行った。
「土御門殿、どうか御武運を、、」


最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございます。

「面白かった」「少しでも刺さった」
と感じていただけたら、
ぜひ“スキ”とフォローで
応援していただけると嬉しいです。

あなたの反応が、次の一篇を書く力になります。

#創作大賞2026 #ホラー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!