こどくのち#18【#創作大賞2026 #ホラー小説部門】
山間部に聳える、築数百年の屋敷。
仰々しい門の奥にはこれまた仰々しい玄関が佇む。
ガラガラと戸が開き、大柄で無精髭を生やした
むさ苦しい男が敷居を跨ぐ。
初夏の日差しは、自分より暑苦しい男が
鬱陶しいようで、
額をジリジリと炙ってきた。
「あっつー」
沙右衛門は額を摩って太陽を睨んだ。
「お父さん!」
中学生程の若い女の子が玄関から出てきた。
「お、おぅ、サハちゃん起きたか」
「起きたかじゃないよ!
何しれっと行こうとしてるのよ?」
サハは頬を膨らまし、ズンズンと近づいて来る。
「はは、しれっとってなんだよ」
沙右衛門は苦笑いを打ち消し、快活に笑った。
「今日の任務は危ないんでしょ?
宗則おじさんから聞いたよ!」
宗則め、余計な事をと心の中で呟く。
「気にするな、いつも通りのお祓いだよ。
それに今回八咫烏からは
総勢10人で向かうんだ。
お前は何にも心配しなくていいよ」
沙右衛門は優しく娘の頭を撫でる。
「でも、太一も言ってたの!
カッピョウは千年以上言い伝えられている
大妖怪だから皆無事に帰って来れるのかなって」
沙右衛門の心の声は、
まったく、どいつもこいつもとなった。
「ん、カッピョウ?」
沙右衛門は不思議そうに首を捻った。
「え?これ、カッピョウて言うんでしょ?」
サハが手にした巻物を広げて見せると、
そこには水墨画が描かれていた。
古い造りの民家での、家族団欒が描かれているが、
縁側には後頭部が異常に長い老人が座っていた。
その老人の横に "滑瓢" と書かれている。
「はは、だからカッピョウなのか。
こいつはね、こう書いて
"ぬらりひょん"と言うんだよ」
「ぬらりひょん?へんな名前だね。
なんか弱そうじゃん。
いや、昔の人からしたら逆に強い名前なのか」
サハは一人でぶつぶつ言いながら考えだす。
「まぁ、確かに少し危険だが、
あいつを封印しないと、
また 桜ヶ丘中学校 のような
悲劇がおきるからな」
「桜ヶ丘中学校って、あのイカれた家族が
学校に入って生徒と先生を殺害した事件の事?」
真剣な表情で,ゆっくりと頷く沙右衛門。
「ぬらりひょんは人を意のままに操り、
戦わせるのが好きな悪趣味妖怪だ。
またあんな事が起こるのだけは、
絶対に阻止しないといけない。
だがまぁ、俺たちは強いから大丈夫だ」
言いながらサハの頭をポンポンとする沙右衛門。
ぬらりひょん討伐の命を受けたのは、
2週間ほど前だった。
古くより怪異を統べる者として
言い伝えられて来たが、
実際に見た事があるものは少ない伝説級の怪異。
それは見たものは生きて帰れなかった
という事でもあった。
しかし、桜ヶ丘中学校の事件を
裏でぬらりひょんが操っていたと判明した事で
八咫烏はついにその討伐に動いたのだった。
「なに、すぐ帰って来るよ。
そうだ、帰って来たらお前の好きな
スイーツアイランドに
連れてってやるから楽しみに待っとけ」
サハの顔はぱあっと明るくなった。
「じゃあ、これだけ持っていって」
そう言って手作りの御守りを渡す。
「ありがとうな、必ず無事に帰るよ」
サハは笑顔で頷いて、
いってらっしゃいと送り出した。
運転手付きの黒のセダン。
その後部座席に乗り込む沙右衛門。
「おはよう、なんや余裕で捕まっとるやん」
先に載っていた宗則がニヤニヤしている。
「ったく、サハにいらんこと言うなよな。
機嫌取りにスイーツアイランドを
約束させられたやないか」
「いいことやんけ、兄さん。
こりゃあ絶対に帰らんといかんな」
宗則は笑いながら肩を叩いてきた。
二人を乗せた車は一時間ほど走ると、
やがて広い倉庫の前に停車した。
倉庫の中には狩衣を着た陰陽師が八人いて、
二人を見ると一斉に頭を下げた。
沙右衛門は片手を挙げる。
「おはよう、頭を上げてくれ。
早速だが今日の作戦の再確認を行う!!」
狩衣を着た陰陽師達は
「はい!」と気合いを入れた。
その日の夕方、
外は大荒れの天気となり、
雨風が容赦なく窓ガラスを叩き続けた。
夕食の用意をする女中達を手伝っていたサハは、
心配そうに窓の外を眺めた。
「お父さん、いつ帰るかな?
帰って来たらスイーツアイランドに
連れてってくれるって約束取り付けたんだ」
ダイニングテーブルの上で
大欠伸する愛猫の"セイメイ"に
得意げに自慢するサハ。
「あら、良かったじゃない。
ぐらい言ってよね」
文句を言った所で猫からの返答は無く、
面倒くさそうに居間へと消えていった。
「もう、つれないな!」
ほおを膨らますサハ、
振り返った拍子にコップが
落ちて真っ二つに割れた。
それは父親が大事にしていた戦国武将の絵が
描かれたコップだった。
「うわぁ、縁起悪い。
お父さん、大丈夫かな、、、」
最後まで読んでいただき、
本当にありがとうございます。
「面白かった」「少しでも刺さった」
と感じていただけたら、
ぜひ“スキ”とフォローで
応援していただけると嬉しいです。
あなたの反応が、次の一篇を書く力になります。
#創作大賞2026 #ホラー小説部門
