見出し画像

【レビュー(小説)】冲方丁 著「天地明察」~主人公が一生懸命で思わず共感してしまう

江戸時代「貞享暦」を作った渋川春海の壮大な物語

2009年刊行、吉川英治文学新人賞・本屋大賞を受賞した
冲方丁さんの「天地明察」。

SFやライトノベルから歴史小説まで、
幅広いフィールドで活躍する冲方丁さん。
「天地明察」は、本格的な歴史小説でありながら、
文体が軽やかで青春小説っぽさも感じさせる作品でした。

主人公は江戸時代初期に日本独自の暦「貞享暦」を作った
渋川春海(棋士名は安井算哲)。

幕府お抱えの囲碁棋士ですが、算学(数学)が大好きで、
知らない問題に出会うと夢中になって問題に取り組んでしまうという
純粋でマイペースなキャラクター。

江戸の金王八幡宮には多くの算学の問題が絵馬に書かれて飾られており、
春海は、その中にある絵馬を見て、
後に和算を大成させた関孝和の偉大な才能に衝撃を受けます。

そんな折、春海は、将軍のご落胤でもある会津藩主の保科正之から、
日本各地で北極星の位置を確認する「北極出地」という命令を受け、
関の存在を気にかけつつ、星を観察する長い旅に出立することになります。

観測を続ける中で、800年も前から日本で正式な暦として使われている
「宣明暦」に誤りがあり、正しい暦を作る必要性がわかってきます。

そこから、新しい暦を作る春海の、
20年以上にわたるストーリーが展開していきます。

江戸時代の日本で発達していた高度な数学に驚き

読んでいてまず驚いたのが、
江戸時代には非常に高度な数学が発達していたこと。

中国経由で入ってきた高等数学の問題を研究したり、
問題を作ったり解いたりして楽しむ人たちがたくさんいたのだそうです。

特に、関孝和は世界に先駆けて円周率を正確に求めた人で、
まさに天才だったのでしょう。

渋川春海の数学の知識もすごかったのだと思いますが、
結果的に関の数学が「貞享暦」に大きく貢献したようです。

「ようです」……というのは、
その辺りの説明がよくわからなかったからです(涙)。

丁寧に説明してくれているのですが、
素人にはなかなか難しいものがありました。
結果、暦を作るのには高等数学が必要なのね、
という理解がせいいっぱい(情けない)。

それでも、囲碁と数学の関係、数学と天文学の関係、
天文学と神道の関わりなど、
春海が携わってきたさまざまな学問が、
暦の作成に深く関わっていくところが無理なく説明されていて
深く納得させられました。

また、暦を司っているのが朝廷の貴族たちで、メンツやら何やらで
幕府の提案を受け入れないなどの政治的な動きも興味深かったです。

宗教と政治の関係や身分による力関係なども複雑で、暦を変えるというのが
本当に大変で何十年もかかる一大事業だったことに圧倒されました。

教科書の中の歴史的偉人たちが、生き生きと躍動するおもしろさ

とはいえ、基本は主人公の春海がとにかく一生懸命で、
とても好感が持てます。

算学楽しい! とテンションが上がったり、
ちょっとしたことでショックを受けたり、
あれ言っちゃまずかったかなと反省したり……
人間味が溢れ過ぎていて、応援せずにいられません。

春海を支える周囲の人たちのキャラクターも
際立っていておもしろかったです。

みんなが春海に期待して、春海も才能にあふれていて、
めげそうになったり覚悟を決めたりしながら
少しずつ進んでいくストーリーが丁寧に描かれていて、
けっこう分厚い本でしたが飽きることなく読み進められました。

江戸幕府を武断政治から文治政治へと変革させた保科正之や水戸光圀、
江戸時代最強の囲碁棋士・本因坊道策、垂加神道の山崎闇斎、
和算の関孝和など、日本史の教科書に出てきた人たちが
生き生きと描かれているのも楽しかったです。

大学受験のとき暗記した、江戸時代の儒学者や国学者の一覧表が
頭の中にチカチカして、ああ、この人はこういう立場だったのか、
と改めて理解することができました。

学生のとき、渋川春海も関孝和も名前と事績だけは暗記しましたが、
こんなふうにがんばっていた人たちだったんだと
目からうろこの思いがしました。

こういうところが、歴史小説のよさだなあと、感じさせてくれる
楽しく重厚な一冊でした。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集