“お手”を覚えない実家の犬から学んだ、教える側の勘違い
「うちの犬だけできない」—焦りと苛立ちの毎日
実家で犬を飼い始めたとき、久しぶりに帰省した私は「せっかくだから“お手”ぐらいは覚えさせたい」と思っていました。SNSには可愛く芸をする犬があふれていて、「うちの子もきっとすぐできる」と信じて疑わなかったんです。
でも、現実はまったく違いました。何度も手を差し出して「お手!」と声をかけても、犬はキョトンとした顔で見上げるばかり。おやつを見せても、まるでルールがわからない様子。次第に私は「なんでできないの?」「こんな簡単なことなのに」と苛立つようになっていきました。
今振り返ると、その焦りは犬ではなく“自分の思い通りにならない現実”への苛立ちでした。
「伝えている」と「伝わっている」はまるで別物
「ちゃんと教えてるのに、なんで伝わらないんだろう」
これは、しつけだけでなく、職場のコミュニケーションでもよくあることですよね。
私は「言葉で伝えれば相手は理解する」と思い込んでいました。でも、犬にとって「お手」は意味不明な音の羅列。しかも私の声には、焦りや苛立ちが滲み出ていた。そんな状態で“伝わる”はずがありません。
「伝える」は一方通行、「伝わる」は相互作用。
この違いに気づけていなかったんです。
失敗の連続が教えてくれた、“教える側の盲点”
私は次第に“作戦”を変えました。
・おやつを増やす
・声を大きくする
・何度も繰り返す
でも結果は同じ。むしろ犬はどんどん混乱して、私を見るたびに首をかしげるようになりました。
ある日、母に言われたんです。
「あなたが焦ると、あの子も不安そうな顔するよ」
ハッとしました。私は「どうしたらできるか」ばかり考えて、“どう見えているか”を考えていなかった。つまり、「相手を変えよう」としていたけど、変わるべきは自分だったんです。
分かったのは、“相手を変えようとする前に”自分を見ること
私はそれから、少しずつやり方を変えました。声を張り上げるのをやめて、落ち着いたトーンで話しかける。できなくても叱らない。「できたら嬉しいけど、今は一緒に練習しよう」と気持ちを切り替えました。
すると不思議なことに、犬の表情が変わったんです。以前よりも目が合うようになり、こちらの手の動きをじっと観察するようになりました。
相手を動かそうとする前に、自分が“伝わる姿勢”になる。
この小さな変化が、最初の一歩でした。
相手に届く伝え方の3つの気づき
私が“お手”のしつけを通して学んだ、伝え方の本質はこの3つです。
指示ではなく、安心を伝える
不安の中では、どんな相手も動けません。安心して失敗できる空気が、行動の土台です。相手のペースに合わせる
相手が「まだ理解していない」段階で次に進むと、混乱だけが残ります。焦らない勇気が、伝わる力につながります。成功を一緒に喜ぶ
成果は「できた瞬間」ではなく、「一緒に喜んだ時間」に宿ります。これは人間関係でもまったく同じです。
“お手”ができた瞬間、私が変わった
ある日、いつものように手を差し出したら、犬が少しだけ前足を動かしました。偶然かと思いましたが、もう一度やると、今度はしっかりと私の手に触れたんです。
思わず「できたね!」と笑うと、犬も尻尾を大きく振って喜びました。あのとき感じたのは、「伝わった」という喜びは、“相手を理解できた”という安心から生まれるということでした。
犬が変わったのではなく、私の“伝え方”が変わった。その瞬間、初めて本当の意味で「お手」を教えられた気がしました。
伝える力は、思いやりの総合力
伝えるという行為は、言葉のテクニックではなく、相手を思いやる想像力の積み重ねです。仕事でも家庭でも、“伝えたいことほど優しく伝える”ことが大切。
焦るより、寄り添う。命令するより、共に進む。それが、犬にも人にも通じる“伝える力”の本質だと、今では思います。
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