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(映画感想文)アマゾンでファーストキスを観たーそれは夏の終わりの夜風のような優しさで観るものを包んでくれた

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見出し絵は波佐快友さんのイラストをお借りしました



映画『1st Kiss』は、ひとつのキスをめぐる物語でありながら、
そこに描かれているのは、
触れられそうで触れられない心の輪郭のようなものだった。
画面に流れる光はどこまでも柔らかく、登場人物の影は静かに揺れ、
風のない午後にそっと置かれた一輪の花のように、物語を支えていた。

松たか子さんが演じる女性は40代、
過去の痛みを胸の奥にしまい込みながら、それでも前へ進もうとしている。
彼女の沈黙は、ただの静けさではない。
言葉にならなかった思いが、昆虫のマユのように心を覆い、
その膜が光を受けうっすらと透けて見えてくるような感覚だ。

松さんのまなざしは、時に遠く、時に近く、
観る者の心にそっと触れてくる。
死んだ人を助けるためだけに、時空のねじれを超える彼女。

彼女がふと息を吸うだけで、世界が少しだけ揺れるように感じられた。
その演技力は素晴らしかった。手の動き、瞳の揺れ、体の動き
どれひとつとっても、考えつくされている。
お喋りなのに、肝心な言葉は心奥にしまい込み、
夫だった彼ではなく、まだ若かった頃の松村北斗さんを困惑させる。

また、松村北斗さんが演じる青年は、
まだ形になりきらない優しさをしっかり持っている。
彼の言葉はまっすぐで、どこかぎこちなく、しかしそのぎこちなさが、
松さん演じる女性の心に負担なく寄り添っている。

彼の存在は、冬の朝に差し込む光のように、
冷たさの中に確かな温度をもっていた。
触れれば壊れてしまいそうなほど繊細で、
それでも確かにそこには温もりが感じられた。

「1st Kiss」という瞬間は、
二人の人生の中でほんの一滴の出来事かもしれない。
しかし、その一滴が落ちた水面は静かに広がり、
過去の痛みも未来への不安も、ゆっくりと薄まってゆく。

キスの場面は派手ではなく、むしろ音のない世界のようだった。
その静けさが、初めて誰かを信じたいと願う心を際立たせていた。

映像は淡い色で、光は柔らかく、影だけは深い。
音楽は言葉の届かない場所をそっと撫でるように流れ、
物語の余白を豊かにしていた。

『1st Kiss』は、恋愛映画という枠を超え、
心の奥にある小さな痛みや温もりをそっと拾い上げる作品だ。

松たか子さんと松村北斗さんの演技が、
その繊細な世界観を静かに支え、観る者に誰かを想うことの大切さを、
秋の初めに吹く夜風のような心地よさで伝えてくれる秀作だった。


松村北斗さんはアイドルなのに、もう俳優歴は15年になるそうだ。
わたしがその存在を知ったのは
朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の雉真稔役だが、
『1st Kiss』は、ここ5年で、かなり実力をつけてきたことの分かる作品だった。それも、松たか子という稀有な女優さんとの共演だったからかもしれない。現在『告白』で主演をしているが、ますます『九条の大罪』映画版が楽しみになってきた。

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