月に帰れなかったかぐや姫
満月の夜になると、
かぐや姫は町の丘に立つ。
昔のような十二単ではなく、
今は少しだけ地上の服に似た着物を着ている。
それでも月の光が当たると、
髪も袖も、やわらかく銀色に輝いた。
空には、大きな月。
「今日も綺麗」
かぐや姫は小さくつぶやく。
あそこが、自分の生まれた場所。
帰るはずだった場所。
でも――
帰れなかった。
理由はもう、
誰にも話していない。
ただひとつ確かなのは、
この地上が思ったより優しい場所だったこと。
春の花。
夏の夜風。
秋の虫の声。
冬の白い息。
そして人の笑顔。
月には、どれもなかったもの。
だからかぐや姫は今も、
ときどき丘に立って月を見上げる。
「ごめんね」
そう言ってから、少しだけ笑う。
「でも、ここも悪くないよ」
月は静かに光り続ける。
そして地上では今日も、
誰も知らない。
丘の上で月を見ているあの人が、
月に帰れなかったかぐや姫だということを。
片桐みかん🍊さんの
こちらのお題に参加させていただきました👇️✨️
