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065. セレンディピティを"ロングタームで育てる"─偶然は点、運は線、反応は設計できる




🏫東京大学に行ってきた

東京大学大学院理学系研究科の合田圭介教授の研究室にお招きいただきました。合田先生は、『Serendipity Lab(セレンディピティラボ)』を主宰しています。

東京大学の三四郎池にて撮影

昨年、Xで偶然、合田先生の記事が目に止まり、国内で、しかも東大で、セレンディピティをテーマにされている方がいるなんて!と感動し、そのテンション冷めやらぬまま、すぐさまにDMをお送りしたところ、ご返信をいただき、この機会が実現しました。

合田教授は、「Serendipity Lab」(セレンディピティラボ)の活動などを通じ、このセレンディピティを科学的・計画的に創出する技術や構造の開発とその実践に取り組んでいて、もう「我が心の師(同志)を得たり!」って感じです。

ラボの概要を解説いただき、研究室の案内も丁寧にしてくださり、その後ランチまでご一緒させてもらうというとても贅沢な時間でした。話している中で、先生の印象的な言葉と、僕の考えてきたこととを関連させて今日はご紹介したいと思います。

💡直線で進むと、点しか残らない

オープンイノベーション施設の立ち上げに携わったり、新規事業の伴走をしていたり、もしくは最近のタイパ・コスパの話を耳にしたり、その度に思ってきたことがある。

研究も事業も(ひいては人の成長ですら)、今はほとんどが短期スパンで回っている。単年度予算、四半期評価、KPI・・・。すると、どうしても、効率と合理性を重視し、まっすぐ前へ進む。最短距離で成果を出す。KPIを置き、改善を積み上げる。

このやり方自体が悪いわけではない。予定された成果を出すためには、むしろ合理的とも言える。でも、ここにひとつの"落とし穴"がある。

直線で進むと、残るのは点ばかりだ。

予定の延長線上にある成果は出せる。けれど、予定の外からやってくる偶然や、あとから意味を持つ出来事、想定外の反応は、その多くが「ノイズ」「非効率」として早々に切り捨てられてしまう。

直線で進むと、点しか残らない

合田先生との対話の中で、こんな言葉が印象に残った。

「インクリメンタルの先には、セレンディピティは生まれない」

「インクリメンタル」とは、主に「漸進的な、段階的な」という意味合いで使われる言葉で、急激な進展ではなく、小さな改善や追加を積み重ねていくアプローチを指します。

セレンディピティは、ほとんどの場合、予定外・想定外・遠回りの先からやってくる。ここに、インクリメンタルとセレンディピティの決定的な違いがある。(短期で)成果を積み上げようとする設計と、偶然に反応する余地・・・この2つは、どうしても緊張関係があるってことだと思いました。


💡偶然は事象、運は傾向、セレンディピティは反応

私はこれまで、似たように使いがちになっていた言葉を、次のように整理してきた。

・偶然(偶発):ただ起きた出来事
・運:偶然を意味に変え続けられる傾向
・セレンディピティ:偶然が反応を起こした瞬間

ここでも何度も話してきましたが、偶然そのものはコントロールできません。でも、偶然を意味に変える構造は設計できるように思うのです。僕が考えてきた『 EPCA 』という枠組みは、そのための"循環式"でした。

・出会いの分母を広げる( E )
・すぐ評価せず、保留する( P )
・観測対象として捉え直す( C )
・試せる最小サイズで動かす( A )

合田先生の提唱する「セレンディピティ・エンジニアリング」も、本質的には非常に近い構造を持っている。実際、先生からも「考え方はとても近い」とコメントをいただいた。

アカデミックか、ビジネスか、個人か・・・扱う素材は違う。でも、反応を起こすためのOSは同じなのだと感じたのでした。


💡人間は、思っているほど賢くない

もうひとつ、合田先生の話で印象的だったのが、「人間は思っているほど賢くない」という言葉だ。

私たちはつい、努力を積み上げれば正解に近づき、必ず成果が出る、合理的に考えれば最適解に辿り着ける、と信じている節がある。でも実際には、大きな発見や着想の多くは、人智の外、想定外のところからやってくる。(※実際、日本人のノーベル賞受賞者の多くが、不思議なことに、自分の本筋の研究分野とは違う研究内容で受賞しているとも言われていて、とても高い割合で、セレンディピティが影響していると考えられている。)

僕はよくセレンディピティの話をするときに、ここの読者の皆さんにはもうお馴染みの『誕生日のパラドックス』の話を使います。人数がある程度集まると、同じ誕生日の人がいる確率が、直感よりずっと高くなる、というあの話です。(以下の記事で取り上げています)

この話の流れで、僕は先生に、このパラドクスの例を出し、「人は、思っている以上に想定外が起きる確率を低く見積もっている」そんな説明をしながら共感を伝えたと思う。すると先生は、少し間を置いて、こんなふうに言った。

「そうやって、わかった気になること自体がいけない」

その言葉は、私に向けた指摘というより、人間一般に向けた、少し皮肉を含んだつぶやきのようだった。でも、後からじわじわ効いてきた。
『誕生日のパラドックス』は、本来、人間の直感がいかに当てにならないかを突きつけるための例だ。ところが私たちは、それを説明し、理解し、納得した瞬間に、「あぁ、人は想定外を過小評価するんですね」なんて、その不安定さをきれいに回収してしまう。そう理解した瞬間、自分はもうその罠の外にいるような顔をしてしまう。でも、それ自体が、もう一度"賢い側"に立ち直ってしまう行為なのだという、先生の皮肉だったと解釈した。

人間は賢くない。けれど、その事実すら、人はすぐに安全な知識に変えてしまう。セレンディピティは、理解して終わるものではない。むしろ、理解したと思った自分の判断を、何度も疑わせ続ける存在だ。先生は、学生たちにこう伝えるらしい、「教科書も先生も親も疑え」と。

だから大切なのは、賢くなることではなく、「わかった」という感覚をすぐに確定させないことだ。すぐに結論を出さず、すぐに評価せず、価値未確定のまま棚に置いておく。


💡ゆとりから学ぶ。なのに、学ぶから忙しい

先生との話の流れで、先日のnote064.『不惑』の話をした。

「面白いですね」と言いながらそれに返す形で、ラテン語の『Schola/スコラ(学校)』という言葉の話をしてくれた。語源を辿ると、ギリシャ語の「暇/余白」に近い意味を持つという。

あとで調べてみると、スコラとは、もともと時間的なゆとりの中で、自由に学ぶための場を指していた言葉だった。ロジックを学び、問いを立て、対話を重ねる。そうした学びのあり方が広がり、やがて大学という制度につながっていったと言われている。
いわゆる『リベラルアーツ(自由七科)』も、本来は、役に立つかどうか以前に、人が考え、問い続けるための余白として位置づけられていた。スコラ、スカラー、スクール。これらの言葉の根っこには、自由、時間的ゆとり、場、空間、学びといった概念が含まれている。

本来は、時間的なゆとりがあるからこそ、その時間を学びに変えていた。余白があるから寄り道できる。寄り道するから、偶然に出会える。

ところが今はどうだろう。学ぶことで忙しくなり、忙しさの中で余白が削られていく。余白がなくなると、偶然はすべて「無駄」「ノイズ」「非効率」に見える。結果、セレンディピティが起きる前に、その芽を自分たちで摘んでしまう。

これは、個人の姿勢の問題というより、評価やマネジメントの設計の問題だと思っている。ちなみに、アイデアが生まれやすいと言われる4B(Bus, Bath, Bar, Bed)も、この話とどこかでつながっている気がしたんだ。


💡ソルジャーとコマンダー、全員が同じ役割でなくていい

合田先生は、セレンディピティラボの目的の一つとして、『次世代リーダーの育成』を掲げていたので、「セレンディピティが、リーダーに必要な素養と考えているのか?」という質問を投げかけると、「そうだ」と語ってくれた。

ただし、加えて、「全員が同じ役割を担う必要はない」とも。

先生はこれをソルジャー(現場) とコマンダー(指揮官)という言葉で表現していた。私はこの整理に強く納得した。先生はインタビューでこのように話している。

研究室マネジメントについても、日本には多くの課題が存在する。その最たるものは、「PI(Principal Investigator=主任研究者)は研究実績のみが評価され、マネジメント能力が考慮されないこと」である。
(中略)
「PIのいわゆるコマンダー的な能力と、それ以前のソルジャー的な能力は全く違います。PIには統括能力、総合的判断力をはじめ、人事評価、資金調達・運用、指導、交渉、共同研究を実行する能力が必要です。マルチタスクをこなす能力や先見性も求められるでしょう。これらの能力を獲得のためには、研究者として研究実績を上げるだけでなく、マネジメントの実績を積むことが重要です」

僕がその話を聞いた時に思ったこと。
ソルジャーに求められるのは、愚直に粛々とこなすこと。でも、偶然をすぐ捨てないこと。価値未確定のまま、一瞬保留できること
コマンダーに求められるのは、偶然を束ね、線にし、どこに(再)投資するかを設計すること

全員がコマンダーになる必要はない。でも全員が、偶然をゴミ箱に入れる前に立ち止まれる必要はある。


💡研究室マネジメントと、経営理念づくりの共通点

合田研究室では『研究室の憲法』をつくり、ビジョンやルールを明文化しているという。
・目指すアウトプットは何か。
・何が良くて、何が悪いのか。
・責任の所在はどこか。

そして、5つのP(論文、特許、製品、発表、人材)という成果の"種類"を先に定義し、半年ごとに議論し、ルールを更新しているのだそうだ。

その話を聞いていて、私は強い既視感を覚えた。それは「セレンディピティ」という言葉以前に、複雑な知的生産を成立させるためのマネジメント設計が、とても明確だったから。

合田研究室では、セレンディピティを生み出しやすい構造として、
・適度な多様性
・フラットな人間関係
・異なる分野の横のつながり
が意識的に組み込まれている。

研究室の中に分野ごとの研究室を設ける。外国籍メンバーも多く、文化的背景も多様だ。その結果、異分野のつながりが自然に生まれ、縦割りによるサイロ化が起きにくくなる。意思決定の階層も、教授、チームリーダー、チームメンバーの3階層に絞られている。フラットなネットワーク型の人間関係の中で、アイデアや違和感が途中で握りつぶされない構造だ。

合田先生は、いわゆるタコつぼ型研究に見られるトップダウン型マネジメントから、チーム型研究に適したボトムアップ型マネジメントへのシフトの必要性を語っていた。

もちろん、トップダウン型マネジメントにはメリットもある。迅速な意思決定、実行力、リソースの集中。一体感をつくるには有効な局面も多い。一方で、指示待ちが増える、トップの能力に依存しすぎる、現場との摩擦が生まれやすい、といった限界もはっきりしている。

ボトムアップ型にも同様に、斬新なアイデアが生まれやすい、主体性が育つ、といった強みがある一方で、意思決定が遅い、ばらつきが出る、個人の力量差が影響しやすい、という課題がある。

だから重要なのは、どちらかを選ぶことではない。
状況に応じて、統率と自由度のバランスを調整できる設計を持つこと

合田研究室のマネジメントは、人に「頑張れ」と求めるものではない。誰かの資質に期待するものでもない。どうすれば、違いが交わり、声が届き、判断が偏らないか。その前提条件を、構造として先に埋め込んでいる。

私はこの話を聞きながら、経営理念づくりや組織設計も、本質的には同じだと感じていた。"僕の仕事"との強い親和性を感じて嬉しくなった。理念とは、掲げる言葉ではなく、複雑な現実の中で、どう振る舞えるかを支える設計なのだと思うのです。


💡成果は、二つの顔を持つ

「セレンディピティの意義を広めるためにどうすればいいか?」
と尋ねると、合田先生の答えはとてもシンプルだった。

「セレンディピティによる成果/結果を示し続けること」

シンプルだけど強いメッセージだったし、僕もそれを感じていたからこそ、事例を示しながら発信すべきだと考えてきた。その点においても嬉しい後押しをしていただいたように思う。なので、最後に、私が大切にしている成果の考え方を書いておきたい。

ひとつ。この文章に限らず、僕のnoteを読んだ人、僕の話を聞いてくれた人が、1ミリでも行動や見方を変えることができたかどうか。
ふたつ。セレンディピティによって、世の中の前提や選択肢が、どこかで少し書き換わったかどうか。
点としての変化と、線としての変化。どちらも、同じ反応の延長線上にあると僕は信じている。

だから、烏滸がましいことは重々承知だけど、合田先生が"アカデミック・研究の領域"を担うのであれば、僕は、"個(の変化)の領域"を担う、そういう棲み分けをしながら、このnoteを発信し続けていきたいと、決意を新たにしたところです。


さいごに

偶然は点で起きる。
でも、保持すれば線になる。線は、時間をまたいで反応する。

セレンディピティは、才能でも、運任せでもない。
反応を起こし続ける構造の選択だ。

短期の評価を外し、余白を残し、偶然を保留し、小さく試し続ける。それは遠回りに見えて、実はいちばんリスクの低い選択なのだと思うのです。

🖼️サムネイルについて

このnoteのサムネイルには、重なり合う円と、その交差点に浮かび上がる点、そして、それらをつなぐ一本の線を描いた。

円は、人や分野、関心、時間、文脈のようなものだ。円そのものには、まだ意味はない。ただ、円が重なったときにだけ、小さな光として「反応」が生まれる。その点を、すぐに回収せず、捨てず、時間をかけて保持していくと、あとから一本の線として立ち上がってくる。最初から線が見えていたわけではない。後から振り返ったときに、「あぁ、ここで反応していたのか」と気づく。

偶然は点で起きる。運は、点を線として扱い続けた結果として現れる。セレンディピティは、才能でも、ひらめきでもなく、反応を起こし続ける構造を選び続けることなのだと思う。


僕が期待する2つの成果について書きました。その一つ。
この文章に限らず、僕のnoteを読んだ人、僕の話を聞いてくれた人が、1ミリでも行動や見方を変えることができたかどうか。

ですから、みなさんの「リアクション」がものすごく励みになります。記事を読んで心に残ったら、ぜひ「スキ❤️」や「フォロー🤝」、「コメント💬」をお願いします❗️



さらに理解を深めたい人へ

このnote記事についてパーソナリティーが解説する音声配信も、セットで提供しています。
記事をただ読み上げるのではなく、あらすじや、評論、時に記事に書いていないことを補足しながら解説してくれていますので、この投稿を読むだけでなく、音声配信の視聴の両方をしていただくと、さらに理解が深まる・・・そんな構成になっています。
是非こちらも併せてお楽しみください。(所々日本語がおかしいのもご愛嬌)

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三上浩紀:Catalyski CEO | セレンディピティオタク| 点と点をつなぐ人 | 8枚の名刺 いただいたサポートは、私の知見を広げてくださる出会いとの交流に充てます。具体的には、お茶代、本代、もしくはここで繋がった方とのコミュニケーション代などです。それをnoteへの投稿で還元していきたいと思います。

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