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セレンディピティは"人をどう変えるのか"

日課でもあるSNSのチェックで、なんとなくスクロールしていたら、彼の投稿が目に飛び込んできた。

Christian Busch(クリスチャン・ブッシュ)
僕にとって、セレンディピティ研究のお師匠様のような存在の人だ。彼の本を初めて手に取ったときのことを、今でもわりと鮮明に覚えている。

今日は、少し原点に立ちかえる、そんな投稿です。

セレンディピティって何?
そこに興味を持ってくれた人はぜひ読んでみてほしい。そして、僕のnoteは、AIによる音声解説も用意しているので、文字が苦手な人は、まずは耳で楽しんでください。
(※ちなみに、音声解説とnoteは若干内容が違うので、セットで楽しんでもらえると、より理解が深まる、そんな設計になっています。)


20代前後に出会った「セレンディピティ」という言葉。その後は、知ってはいるけど、よくわからない言葉として、"引き出し"にしまっておいた言葉が、大阪の共創施設:QUINTBRIDGEのコンセプト構想を指揮していた時にふと蘇った。あの時は、共創・コミュニティ・イノベーション・クリエイティブ・・・そんなテーマの本を毎日のように雑食し、読み漁っていた頃だ。

その時に偶然手に取った彼の本が、当時の僕に色々なヒントをくれた。そしてセレンディピティという不可解な現象を指す言葉に、当時の僕は、深く魅せられた。

偶然が人生を動かす瞬間があることは、なんとなく直感的にわかっていた。でも、それをどう扱えばいいのかが分からず、ずっと手探りしていた。彼の本は、その手探りに対して、初めて輪郭というか、手触りを与えてくれた本だった。彼の本がなければ、僕は今こうしてこのテーマを書き続けてはいないと思うんだよね。


彼のSNSの投稿には、一本の論文へのリンクが貼られていた。

Towards a Theory of Serendipity
A Systematic Review and Conceptualization
(JOURNAL OF MANAGEMENT STUDIES)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/joms.12890


論文を読んだのは久しぶりだ。最近は、「セレンディピティ」と名のつく本を片っ端に見つけて購入しては、積読しながらゆっくり読み進めているものの、このnoteに関しては、本の解説というよりは、自分自身のエピソードから書き出すことが増えていた。

逆に言えば、最近、少し持論に偏り始めている気がして、チューニングが必要だなと思うようになっていて、今回のように、誰かの本や論文そのものを真正面から扱う必要があると思っていたところだった。実は、少し前のnoteに、林勝明さんの著書を取り上げたのも、そういう背景からでした。

自分もセレンディピティに詳しくなっているからこそ、独自の解釈・世界観に浸り過ぎず、たまに原点に戻る必要があったのです。

だから、お師匠様でもあるクリスチャンの論文を読まなきゃ、と思った。それが、たとえ、PDFで全42ページの英語の論文だったとしても、だ(苦笑)


2年前、酔った勢いで送ったメッセージ

知っている人もいるかもしれないけれど、実は、僕は彼とコンタクトを取ったことがある。

2年近く前の話だ。まだ毎週noteを書くと決める、その前日譚にあたる。

とあるお世話になっている人が主催するコミュニティで、「テーマは自由、自己紹介を兼ねて登壇しないか?」と声をかけていただいたことがあった。その時、僕はセレンディピティについて話したいと思った。おそらく、僕が初めて人前でセレンディピティについて話したのは、その頃だったはずだ。

どっちが先だったかは、もう定かではないし、今となってはどうでもいいことなんだけど、このイベントの前後で、僕はクリスチャンにDMを送ったことがある。



でも、それは・・・
正直に言うと、お酒の勢いだった。



僕ももう40歳近い大人だから、お酒の力を借りない限り、自制心が働いて、そんな大それたことはしないだろうなと、我ながら思う。何を書いたのか、細部はもう覚えていない。DMを見返せばわかるんだけど、まぁ、見返したくもないというか。

ただ、たしか「あなたの本に救われた」というようなことを、深夜、勢いに任せてそのまま送った記憶がある。ある意味で、猛烈なラブコールだったと思う。送った直後、少し後悔した。彼からしたら、面識もない日本の無名の男から送られてきたメッセージに付き合ういわれなど、どこにもないのだから。

正直、酔いが覚めた翌日以降、ずっとドキドキしていた。どんな返事が来るのか、仲良くなれちゃったりするのか、この酔った勢いのDMが、まさに僕とクリスチャンのセレンディピティになるんじゃないか……妄想は膨らむばかりだった。


でも、現実はそんなに甘くない。
返事は来なかった。


最初の1週間はドキドキして待っていた。通知が来るたびにDMが届いたのではないかと、それぐらい楽しみにしていた。でも、一向に既読にはならなかった。

でも、僕もバカじゃない。2週目になって、もう返信は来ないと悟った。劇的で華やかな展開を妄想した、そんなポジティブ思考の自分が恥ずかしく思えた。そして3週目には、DMを送ったことすらも忘れていた。


それから2ヶ月が経った頃。

忘れもしない。仕事を終えた夜中の3時頃、ベッドに入ろうとした時に携帯が鳴った。「こんな夜中になんだろう?」と携帯を開くと、英語のメッセージが届いていた。

Thank you - looking forward to hearing what you think!

ハッ!、とした。

自分が送ったことすら半分忘れかけていた頃、送り主である彼の名前を見た瞬間の高揚感を、僕は忘れない。丁寧な、短い返信だった。

でも、「セレンディピティ」という言葉に出会ったばかりの、何者でもない一人の読者だった自分にとって、それだけで十分だった。


読みながら、何度も声が漏れた

論文のタイトルは「Towards a Theory of Serendipity」

2024年、経営学の学術誌に載った、彼の理論の集大成のような論文だった。

そして、読み進めるうちに、笑ってしまった。

Agencyに、Surprise、そして、運との違い・・・。さらには、誤って洗濯機でじゃがいもを洗ってしまった農家がいて、その話を聞いた家電メーカーの人間が、じゃがいも専用の洗浄機を思いついたという具体的なエピソードまで、読み手を飽きさせることがない、とても興味深い論文だった。

そしてそれ以上に、「これ、僕がこの1年半、このnoteを通じて、考え言語化してきたことと、共通項が多いじゃないか」と、何度も画面の前で声が漏れた。

彼は論文の中で、こう書いていた。

"serendipity is the surprising discovery that results from unplanned moments in which our decisions and actions lead to valuable outcomes"

計画されていない瞬間に生まれる、驚きに満ちた発見。そこに、自分の判断と行動が関わっているということ。偶然は、ただ起きるだけでは足りない。そこに、自分がどう応じるかが要る。

僕がずっと「偶然は起こせないが、反応は選べる」と書いてきたことと、驚くほど同じ場所に、彼も僕も立っていた。


驚くほど重なっていた

1年半前、僕は"仮の方程式"を自分なりに組み立てたことがある。誰かに教わったわけでもなく、自分の実感と直感を頼りに、出会いの頻度と、それを受け止める力を掛け合わせて、偶然が価値になるまでの流れを、式のようにしてみたもので、それらの頭文字を取って、『EPCA』と僕は呼んだ。

その後、この流れをさらに時間軸で捉え直し、「出会い・予兆・触媒・気づき・受容・行動」という『epcaaa』というフレームワークに発展させてきた。

後になって知ったのだけれど、自分が組み立てたその形は、経営学や心理学の分野で語られてきた考え方と似た骨格をしていた。誰の後ろ盾もない、ただのオタクの思いつきの方程式は、実は多くの研究者がそれぞれ別の言葉で辿り着いていた場所と同じ景色だった。それからしばらくして、セレンディピティを研究領域に意図的に起こすことができないか研究をしている、東京大学の合田先生にも、僕の『EPCA』をみていただいたが、「とても共感する」と言っていただけた。


そして、今回も、あのときと同じように、気持ちが昂った。

今回の論文を読みながら感じたのも、同じ種類の震えと昂りだった。アカデミックな裏付けを持たない、一人のオタクが積み上げてきた実感と、査読を経た理論が、こんなにも近い場所に立っている・・・それは、「自分が積み上げてきた問いには、掘り下げる価値があるかも」と、思わせてくれる確認だった。


でもね、大事なのはそこじゃなくて。
読み進めるうちに、少しずつ違和感も混ざってきた


論文を見てもらうとわかるんだけど、彼が見ているのは、偶然が組織の中でどう価値になっていくか、という景色なんだ。一方、僕がずっと見ていたのは、その偶然を通して、目の前の人がどう変わっていくか、という景色だった。同じ山を登っているのに、見ている方角が違う、そんな感覚があった。


そして、もうひとつ。
彼の論文では、過去の出来事を後から振り返る研究には、成功物語として美化するような編集が入り込む危険があることも、慎重に指摘されていた。

これは、いわゆる「生存者バイアス」「事後合理化」などに代表される、都合の良いこじつけで、その危険性については、過去に、僕のnoteでも書いたことがあって、僕も同感だ。

それでも僕は、その、"あとから意味が届く"という感覚を、ずっと大事にしてきた人間でもある。クリスチャンが慎重に距離を置いた強引な"こじつけ"の領域に対し、彼の言うことにも一理あると思いながらも、僕は少し足を踏み入れている。

それは僕の弱さなのか、それとも、彼がまだ言葉にできていない領域に、たまたま僕が先に立ち始めているだけなのか・・・今はまだ、分からない。


彼の問いと、僕の問い

同時に、こう思うようになった。


クリスチャン・ブッシュが向き合っているのは、

How does serendipity happen?
セレンディピティは、どう起きるのか。


三上浩紀が今追いかけ始めているのは、

What does serendipity do to us?
セレンディピティは、人をどう変えるのか。


同じ言葉と現象を扱っているはずなのに、行き先が違う。これは、優劣の話じゃない。彼の問いがなければ、僕は自分の向き合いたい問いの核心と、その輪郭にすら気づけなかった。そのことに気づけたのが、今回一番の収穫だった。


ただ、誤解してほしくないこともある。

「セレンディピティは、どう起きるのか」にも、僕はちゃんと興味がある。ただ、この一年くらいのnoteを振り返ると、確実に「人をどう変えるのか」を書いてきた回の方が多かった。これは、たぶん僕の根っこに、教育があるからだと思う。

でも、これは二者択一の話じゃない。教育を通して、一人ひとりの行動や意識が変わっていくこと・・・それは巡り巡って、クリスチャンが言う組織の中でのアウトカムや、東京大学の合田先生が目指す、研究領域への貢献にも、ちゃんと繋がっていくはずだと本気で思っている。

キャリアの選択、人との出会い方、暮らし方そのものにまで、このテーマは広がっていく。だからこそ、一生を懸けるに値するテーマだと、僕は本気でそう思っている。


先日、偶然目にした占いにも、似たようなことが書かれていて、つい笑ってしまった。僕は『チ。- 地球の運動について -』という作品が好きで、定期的に読み返したり、豪華版(2万円もするんです!)を買うほど、この作品に強く惹かれていた。

ひとつの思想が、計画された一本道ではなく、名もない人たちの手を偶然に渡りながら、犠牲を伴いながらも、百年単位で受け継がれ、研ぎ澄まされ、形作られ、残っていく・・・そんな壮大な物語。

この『チ。』を読み返すうちに、「僕の考えも、今すぐ大勢に理解されなくてもいい。一部の人に深く届き、いつか別の誰かに手渡されるなら、それで十分なのかもしれない。」そう思うようになってきた。(もちろん、できるだけ早く、多くの人と分かち合えるに越したことはないですがね)

そして、僕は今、この瞬間、セレンディピティの探究の方向性が定まったことに興奮を覚えています。それは、

セレンディピティが "どう起きるか" よりも、
セレンディピティが "人をどう変えるか"。

急がず、ゆっくりでいいから、そっちを重点的に選んで書いてみよう、って。


紡いだ言葉が、しっかり残り始めた

クリスチャンの論文を読み終えた後、なんとなく、自分がこの1年半書いてきたものを振り返ってみました。

以前報告した通り、おかげさまで、「セレンディピティ」などの言葉でGoogle検索してみると、自分のnoteが上位に表示されるようになりました。個人の発信としては、最も上位に表示されています。

そして、今回、初めて気づいたことがあります。
「epcaaa serendipity」と、先述の自分が組み立てたフレームワークの名前で検索すると、検索結果の一番上に、以下のような、AIによる概要が表示されるようになっています。

「epcaaa」は、カタリスキー社CEOの三上浩紀氏が提唱する「偶然を幸運に変える思考・行動フレームワーク」です。偶然の出会いを運として手繰り寄せ、自身の行動や意味へと昇華させるための6つのプロセスを指しています。(中略)

このプロセスを回すことで、運を「偶然」のまま終わらせず、「自分なりの意味」を持った価値あるものへと育てることができます。三上氏のフレームワークや具体的な事例について、さらに詳しい解説が読めるnote「偶然に意味を与える生き方」の哲学が公開されています。

AIによる概要


しばらく画面を見つめてしまった。





誰かに必要とされたわけでもなく、仕事として依頼されたわけでもない。ただ毎週末、机に向かって、自分の趣味として、実感や気づきを言葉にし続けてきた、それだけだった。それが、検索エンジンのアルゴリズムの中で、ひとつの「情報」として扱われるようになってきた。アカデミックな裏付けも後ろ盾も、どこにも無いのに。

これは、自分の理論が正しいかどうかという話ではありません。ただ、続けてきたことが、確かに何かの形として残り始めているという、手触りがしっかりある実感でした。

2年前、酔った勢いでDMを送ったあの夜の自分に、これを見せてあげたい、と思いました。


もう一度、DMを送ることにした

だから、まさにこのnoteを書きながら、クリスチャンにDMを送りました。

あの論文を読んだこと。
あれから僕がずっと書き続けてきたこと。

そして
あなたの理論と、僕なりの考えが
こんなにも近い場所にあったこと。

今度は、酔いに任せてではなく、シラフで、時間をかけて、言葉を選んで送りました。


来週7/23、高松でイベント開催

7月23日、高松でトークイベントに登壇します

そこでも僕は、セレンディピティについて話します。
このイベントに参加される方が、必ずしもビジネスパーソンとは限らないことがわかってきて、「思考とか習慣化とか、そういうテーマがいいかもね」と打ち合わせを重ねながら、内容をチューニングしてるんだけど、「どうしたら喜んで帰ってもらえるのだろうか」ってことを、実はこの1ヶ月くらいずっと悩んでいて。

だから、「セレンディピティの原点に戻らなきゃいけないな」みたいに思ってた節もあります。そんな状態だったからこそ、偶然、彼の論文に行き着いた。ある種、「カラーバス効果」(ある特定の物事を意識した途端、それに関連する情報が自然と目に飛び込んでくるようになる心理現象)の賜物とも言えます。

そしてそのおかげで、
セレンディピティを、僕はどの角度から見たいのか、と
改めて、セレンディピティと向き合うことができました。

これ、皆さんに取っては、たいしたことじゃないかもしれないけど(笑)、僕にとっては、この1年くらいずっと、「喉の奥に刺さった小骨」のような悩みの種で、noteを書き続ける上で、なんの支障もないようにも思うけど、気になり出したら頭から離れない・・・そんな悩みでもありました。


What does serendipity do to us?
セレンディピティは、人をどう変えるのか。

今回のイベントをきっかけに、論文を読み、そして生じた違和感が、僕にこの「新しい問い」を提供してくれて、これからnoteを書き続ける上での、新しい指針となってくれる、そんな気がしています。

今送ったばかりだから、DMの返信は、まだ来ていません。
むしろ、来るかどうかも分からないし。期待をしてもいけない、かな。

もし返信が届いたら、必ず報告noteを書きたいと思います。


このnoteでは、セレンディピティについて書き続けてきましたが、いつの間にか、意図せず、セレンディピティによって変わっていく僕自身の観察記録を兼ねるようになり、そして今、「セレンディピティは、"人をどう変えるのか"」という問いに辿り着いてしまいました。

普段から読んで応援してくれてる皆さんのおかげです。

ありがとうございます。



092.
セレンディピティは"人をどう変えるのか"
Fin.


さいごに

🔗 この記事と、糸がつながっている話

「暇です」と言える余白を持っていますか
林勝明さんの本に立ち返り、合田先生と再び言葉を交わしたことで、半年前の自分の記事に偶然再会した回。今回、ブッシュの論文をきっかけに合田先生の名前が再び登場したのも、この時と同じ「本に戻る」営みの延長線上にある。

偶然に意味を与える生き方
出逢い・予兆・触媒・気づき・受容・行動——僕が組み立てた『epcaaa』という循環フレームワークの、いちばん最初の解説記事です。


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三上浩紀:Catalyski CEO | セレンディピティオタク| 点と点をつなぐ人 | 8枚の名刺 いただいたサポートは、私の知見を広げてくださる出会いとの交流に充てます。具体的には、お茶代、本代、もしくはここで繋がった方とのコミュニケーション代などです。それをnoteへの投稿で還元していきたいと思います。