映画「ハッピー⭐︎エンド」
救急医が在宅医療の映画を観て思うこと
救急の現場で、私は何度も見てきました。
「間に合わなかった最期」を。
あと少し早ければ。
あと一言、伝えられていたら。
そう思いながら、
何も言葉を残せなかった患者さんのそばに、
立ち尽くしたことが何度もあります。
映画『ハッピー⭐︎エンド』を観てきました。
在宅緩和ケア専門の医師・萬田緑平氏が、
2000人以上のがん患者の看取りに寄り添ってきた実践をもとに、
その現場の日々を丁寧に記録したドキュメンタリー作品です。
病院ではなく、「自宅で最期を迎える」という選択。
その現実と、そこにある人の温もりが、静かに描かれていました。
観終わったあと、心の中に残ったのは、
「医療とは何か」という問いでした。
そこにいた医師の姿
この映画で描かれていた萬田先生の姿は、
本当に見事でした。
決して前に出すぎることなく、
けれど確かに患者さんとご家族のそばにいる。
治すことだけを目的とせず、
「その人の人生に寄り添う」ことを何より大切にしている。
その姿勢に、何度も胸を打たれました。
医療の本質を体現する人
言葉は多くなくても、
一つひとつの関わりが、あたたかい。
無理に希望を押しつけるのではなく、
現実をきちんと受け止めながら、
それでも「その人らしく生きる時間」を支える。
萬田先生は、
まさに医療の本質を体現している存在だと感じました。
「治す医療」から「支える医療」へ。
その移行を、あれほど自然に、
そして深く実践している姿は、本当に素晴らしいの一言です。
救急医としての私が感じたこと
救急の現場では、
「生きるか、死ぬか」という極限の判断を迫られます。
そこでは、ゆっくり寄り添う時間は限られています。
だからこそ――
萬田先生のように、
時間をかけて人生に寄り添う医療の在り方に、
強い敬意を抱きました。
ああいう医師がいること自体が、
どれだけ患者さんやご家族の救いになるだろう。
そう思わずにはいられませんでした。
在宅で迎える「ハッピーエンド」
この映画に描かれていたのは、
“最期まで生きる”という時間でした。
自宅で過ごす日々。
家族と交わす何気ない会話。
笑顔と、時に涙。
そして、少しずつ近づいてくる「最期」。
それは決して明るいだけではない。
けれど確かに、「その人らしい時間」でした。
最後に
救急の現場で、私は何度も見てきました。
「間に合わなかった最期」を。
ご家族は、涙をこらえながらこう言います。
「何か、言っていましたか」
私は、その問いに、何度も答えられませんでした。
でも――
この映画の中には、
確かに「言葉のある最期」がありました。
「ありがとう」
「大丈夫だよ」
「一緒にいられて、幸せだった」
ちゃんと伝えられる時間がある。
ちゃんと手を握れる時間がある。
それだけで、
こんなにも最期は変わるのかと、胸が締めつけられました。
救急医として思います。
人は、いつか必ず死にます。
それは避けられません。
でも――
「どう死ぬか」は、
もしかしたら少しだけ、選べるのかもしれません。
もし、今。
大切な人が隣にいるのなら。
どうか、
今のうちに伝えてください。
「ありがとう」と。
「ごめんね」と。
「大好きだよ」と。
その一言が、
きっとその人の人生を、
そしてあなた自身の人生を、
やさしく照らしてくれるはずです。
追伸
人は、
最期のときに「特別なこと」を求めているわけではないのかもしれません。
豪華な医療でも、奇跡でもなく――
ただ、
そばに誰かがいてくれること。
名前を呼んでもらえること。
手を握ってもらえること。
そして、
「あなたと過ごせてよかった」と伝えられること。
救急の現場で、
私はそれが叶わなかった場面を、何度も見てきました。
だからこそ、この映画の中の時間が、
あまりにもまぶしくて、あまりにも尊くて、
少し、羨ましくさえ感じました。
人はいつか、必ず別れます。
でも――
その別れが、
「悲しみだけ」ではなく、
「ありがとう」で満たされていたなら。
それはきっと、
本当の意味でのハッピーエンドなのだと思います。
どうか、今日という一日を、
誰かにとっての「やさしい記憶」にしてください。
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