A 〈雨女⑧〉
雨が降ってる。
きらきら輝くこの子達が好きだ。
ひとつぶひとつぶが、踊りながら、撫でるように私の体を濡らしてくれる。
優しい子たち。
困ることも多いけど、この雨は、隠れたくなることばかりの私を守ってくれる。
わたしのことが見えないように、いつでも隠れられるように、それでも寂しくないように、景色に溶け込みながら、わたしを心地よく濡らしてくれる。
夜はとくに、きらきらして、きれい。
明るいところと、暗いところの間に立ってると、光のシャワーに包まれたみたいになる。
きらきら、きらきら、ふわーっとひろがる。
いつまでも見ていられる。
コンビニの大きな明かりが好きだ、キラキラ越しに、入っていく、出て行く人、たむろする人が見える。
たむろする人は少しこわいけど、みんな、この子に祝福されている。
ここのコンビニは、たむろする人がいないし、店員さんも優しい。いろんなのが行ったり来たりしてるけど、こわい人はこないから、安心して立っていられる。
ただ、コンビニを見てると、お腹が空いてきちゃうから、少し困る。
だめ。もう晩御飯も食べたのに。
でも、からあげクンくらいならいいかも。タンパク質だしね。いつもより少し、多めに降らせれば大丈夫かな…。だめ、油断大敵。
あ、油断してた。誰か見てる。
コンビニの中から、男の人がこっちを見ている。
変な人だと思われたかな。
一度見られてしまうと、私のかくれんぼは、役に立たない。
ウォーリーも、一回見つけてしまうと忘れるまでは、背景に戻ってくれない。
まだ見てる。
あ、こっち来た。
「大丈夫ですか?」
普通に、話しかけてきた。
——怖く、ないのかな。
「あ、大丈夫です」
「なにか、買い物ですか」
「あ、からあげクンが」
頭に浮かべてた食べ物を、つい言ってしまった。
男の人は、うつむいて、ずっとなにか考えて、小さい声で呟いてる。
けれど、この子たちの音で、私に小さな音は聞こえない。
「なるほど」
そう言って、男の人は店に戻って、店員さんに何か言っている。
あ、まさか。
「はい」
から、あげ、クン!
だめ!いいの?
いいの?いいの?
「いいんですか」
「あ…どぞ」
「あ、お金」
お供えでもないのに、只でもらうわけにはいかない。私は神様でも、故人でもないんだから。
「…」
聞こえてなかったかな。
ずっと俯いて、何か言ってるけど、離れてるし、やっぱり聞こえない。
この雨で、距離ができてる。
いつもは、助かっているんだけどね。
いまも、多分助かってるんだと思う。
まあ、じゃあ、食べるけどさ。
——んんんんん、やっぱりおいしい!
「ありがとう」
聞こえたかな。
「……」
「え…大丈夫ですか?」
「…………」
どうしよう。
どうしたんだろう。
あ!この人!わたしの胸めっちゃ見てる!すけべだ!
「……」
「ちょっと!」
ハッとして、こちらを向いた。
「わたしの胸、めっちゃ見てましたよね」
「あ、いえ、いや、はい、見てました、すいません、綺麗で、その、雨が、あと胸じゃなくてっ、雨が、あの、だんだん、流れていくのに…見惚れてたというか、すいません…胸も、見てました…」
胸見てたんじゃん…。
んー、でも、雨を褒められると、弱いよ、ねえ。
胸も、まあ、悪い気はしないんだけど。
雨粒がさっきより少し踊ってるみたい。
「あの…じゃあ、すいませんでした、じゃあ…」
めちゃ早歩きで行っちゃった。
あ、お金。
…次でもいいのかな。
このままだと、お供えになっちゃうけど…。
神様でも、死人でもないのに、なんだか悪いなあ。
***
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