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「全面禁止」か「何もしない」かじゃない——世界の実験から、日本の「ちょうどいい」を探す

世界の動きを追ってきた。では、日本は?

これまで2本の記事で、世界のSNS規制の波を追ってきました。第1回では、スペインやフランスを中心に欧州で何が起きているかと、賛成・反対の声をまとめました。スペインは「16歳未満は親の同意があれば使える」、オーストラリアは「親がOKでも16歳未満は原則ダメ」という全面禁止。その違いや、経営陣の責任を問う動きまでお伝えしました。第2回では、その先駆け・オーストラリアの「その後」を見ました。470万アカウントが消えた一方で、抜け道や別のアプリへの移転、年齢を偽った子がかえって危険に晒される逆説、「居場所を失った」と感じる若者、そして裁判所が禁止そのものを問う動き——世界初の実験が突きつけた現実です。

この記事(第3回)では、それらを踏まえて、日本はどの道を選べるかを、できるだけわかりやすく整理します。こども家庭庁が「子どものネット利用に関する検討会」を開き、2026年7月に中間整理を出す予定です。前の2本で見た「他国のいま」を材料に、日本に合いそうな道筋を一緒に考えていきましょう。筆者のnote(mhamadajp)では、いじめ動画と正義感の落とし穴依存症的デザイン規制など、SNSと教育の接点を扱った記事も公開しています。教室や家庭で何を考えればよいかの参考になれば幸いです。


日本が規制を急いでいる、本当の理由——欧米と少し違うところ

欧米では、SNS規制の大きな理由の一つがメンタルヘルス(摂食障害、自己肯定感の低下、依存)です。日本でもその心配はあります。ただ、日本で世論を動かしているのは、もう少し「犯罪に巻き込まれること」への不安です。

日本では、SNSで闇バイトに勧誘される問題がよく報じられています。X(旧Twitter)やInstagramのDMで「高額報酬」を餌に、若者が強盗の受け子や出し子、詐欺に加担させられる——そんなケースが、こども家庭庁の検討会でも「青少年を守る」テーマとして取り上げられています(Japan Forms Group to Protect Juveniles from Social Media Issues)。ほかにも、パパ活や性的搾取の勧誘、LINEやSNS上のいじめ・誹謗中傷が、規制を後押しする要因です。

つまり、「使いすぎで心が病む」より、「犯罪の加害者や被害者になる」恐怖のほうが、日本では規制論を引っ張っていると言えます。この違いは大切です。メンタルヘルスが主なら「画面を見る時間を減らす」が焦点になりがちですが、日本では「知らない大人とDMでやりとりさせない」とか「危ない機能だけ止める」といった方が、実際の被害に効きやすい論点になりやすいのです。


心を痛めるいじめ動画の拡散——「規制だけ」では足りない理由と、本当に必要なこと

日本で規制を議論するとき、多くの方が気にされているのが、「いじめ動画の拡散のような、心を痛める事件は、こうした制限で本当に減らせるのか」という点ではないでしょうか。最近も、暴行やいじめの動画がSNSで拡散され、被害者がさらなる屈辱や二次被害に晒される——そんなニュースが後を絶ちません。結論から言うと、年齢制限やアクセス規制だけでは減らしきれないのが現実です。どこまで効くか、何が足りないか、そして規制によって「見えないいじめ」が増える心配について、順に整理してお伝えします。

規制で「減らせること」と「減らせないこと」

いじめ動画の拡散には、大きく二種類あります。

一つは、不特定多数に一気に広がる「バズ」型です。TikTokの「おすすめ」やXのトレンドで、学校や地域を超えて何万人にも見られ、被害者が「公衆の面前で辱められる」事態になる——そんな拡散です。SNSの利用を制限したり、アルゴリズムを縛ったりすれば、この「爆発的に広がる」部分は抑えやすくなります。若者が大手SNSからいなくなれば、拡散の受け手も減りますし、プラットフォーム側が有害動画を検知して削除する仕組みと組み合わせれば、被害の「規模」を小さくすることは期待できます。

もう一つは、友達同士のグループやメッセージアプリのなかで広がる「共有」です。LINEのグループやWhatsApp、Discordなど、閉じた空間で動画が回り、「クラス中に見られている」という圧力や、執拗な転送が続く——そんな形です。こちらは、SNSを規制しても止まりません。むしろ、第2回で見たように、オーストラリアでは大手SNSが規制対象になったあと、若者がWhatsAppやDiscordなど規制の外にあるアプリに移り、いじめそのものが「目につきにくい場所」に移っていくという指摘があります(Australia's social media ban won't stop cyberbullying)。専門家からは、「規制ではサイバーいじめは効果的に止められず、閉じたメッセージ空間に移ることで、かえって見えにくくなり、見つけて対処するのが難しくなる」という懸念が示されています。

つまり、規制だけで心を痛める事件を「なくす」ことはできない。できるのは、「不特定多数に一気に広がる」被害を抑えることまでで、「知り合い同士のなかで続くいじめや共有」や、規制の届かないアプリで起きるいじめには、別の手立てが必要です。

規制の「先」に必要なこと——教育、支援、削除、連携

では、何が必要か。日本でも、こども家庭庁・文部科学省などを含む関係省庁が、いじめのSNS動画拡散を受けて、次のような対応を打ち出しています(いじめ防止対策に関する関係省庁連絡会議こども家庭庁・文科省ほか:いじめのSNS動画拡散受け、人権侵害への対処を)。

  • プラットフォームへの削除要請の迅速化……拡散された動画を早く削除できるようにする。

  • 学校・教育委員会と警察など関係機関の連携……被害が出たときに、隠さず・つなげて対応できる体制をつくる。

  • 情報モラル教育の推進……「拡散しない」「見ないで共有しない」といった判断を、子どもも大人も育てる。

  • 誹謗中傷や侵害の法的責任についての啓発……何が犯罪になり、どんな責任が生じるかを伝える。

加えて、被害に遭った子や家族が相談しやすく、心のケアや法的な支援につながる窓口を整えること、「いじめを認めると不祥事になる」という学校の体質を変え、早期に気づいて動けるようにすることも、規制とは別に、しかしセットで必要だという指摘があります(日本のSNS規制を考える:いじめ、性被害、闇バイト)。規制は「入り口」の一つにすぎず、教育・支援・削除・連携がそろって初めて、いじめ動画の拡散や二次被害を減らす力になると考えられます。

「時代が戻る」心配——規制で、目につかないいじめが増える懸念はないか

「規制を強めると、いじめが表に出なくなり、かえって見えない・気づかないいじめが増えるのでは?」——そんな不安を持つ方もいると思います。この懸念は、無視できないというのが、海外の分析や専門家の見立てです。

オーストラリアの規制では、WhatsAppやDiscord、Messengerなどメッセージング系のアプリは規制の対象外です。若者が大手SNSから締め出されると、そうしたアプリに集まり、いじめや暴力的なコンテンツの共有が閉じた空間で行われるようになる。そこでは、プラットフォームが内容をスキャンして削除することも難しく(暗号化されている場合など)、大人や学校が「気づく」こと自体が難しくなるという指摘があります(School bullies have moved online. But is banning all under-16s from social media really the answer?)。つまり、「表のSNSでは見えにくくなるが、その分、裏のメッセージアプリでは見えにくいいじめが続く、あるいは増える」——そんな「置き換わり」(置換効果)が起きうる、ということです。

日本で同様の規制や機能制限を進める場合も、LINEやDiscordなど、規制の届きにくいアプリにいじめが移らないか「見えないいじめ」が増えないかを、制度設計の段階から考えておく必要があります。規制だけで安心するのではなく、「表に出てこないいじめ」をどう見つけ、どう支えるか(相談窓口、学校の見守り、保護者との連携など)を、セットで議論し、整えていくことが大切です。


世界には、三つのパターンがあった——いいところと、つらいところ

第1回・第2回で見た欧州とオーストラリアの動きを並べると、おおまかに三つのパターンが見えてきます。どれにも「いいところ」と「つらいところ」があります。

パターン1:いったん、全部禁止する(オーストラリアのやり方)

第2回でお伝えしたように、16歳未満は親の同意があってもアカウントを持てない——という全面禁止です。いいところは、メッセージがはっきりしていて、オーストラリアでは約470万のアカウントが削除されたという「目に見える成果」が出たこと。つらいところも、第2回で見た通りです。締め出された若者が別のアプリに流れたり、VPNや親の身分証で抜け道が広がったり、年齢を偽った子がかえって守られなくなったり、SNSが唯一の居場所だった若者が「救命索を切られた」と感じたり。さらに、禁止そのものが憲法違反だと裁判で争われています。日本で同じことをすると、表現の自由や通信の秘密との兼ね合いが問われますし、闇バイトの勧誘者が規制の届かないアプリに逃げるだけになる心配もあります。

パターン2:子どもより、プラットフォームを縛る(スペインのやり方)

第1回で触れたように、子どもを締め出すのではなく、企業の経営陣の責任アルゴリズムで有害なものを広めることの犯罪化で、プラットフォーム側を変えさせようとするやり方です。いいところは、子どもを一律に排除せず、いじめ動画の拡散や有害コンテンツを増幅する「原因」に手を入れられる発想になれること。つらいところは、法律づくりや実行のハードルが高く、マスク氏やドゥロフ氏との対立に象徴されるように、テック企業との対立が深まることです。日本でも、「アルゴリズムを透明にする」「安全な設計を義務づける」といった方向は、これからの検討課題として現実的な選択肢になり得ます。

パターン3:使わせるけど、危ない機能だけオフにする

アカウントは持てるけれど、16歳未満(または18歳未満)には、危険が大きい機能だけを強制的にオフにする——そんな型です。例えば、フォローし合っている友達以外の大人とのDMは原則禁止(闇バイト・性的搾取対策)、没入型の「おすすめ」を止めて時系列だけにする(依存や分断の対策)、特定のワードで検索できないようにする、などが考えられます。いいところは、若者の「つながる権利」を残しつつ、本当に危ない部分にだけ手を入れられること。表現の自由や通信の秘密とのバランスも取りやすい。つらいところは、「年齢を誰が・どう証明するか」を決める必要があり、技術と法律の両方の設計が求められることです。


日本にだけある、強み——マイナンバーカードで「年齢」だけ証明する

第2回で見たように、オーストラリアでは国として信頼できる「年齢の証明」の仕組みが十分でないまま、民間のプラットフォームに年齢確認を任した結果、顔認証の誤差(±2〜3歳)や、VPN・身分証の借用で抜け道が広がっています。第1回で触れた欧州では、デジタルIDウォレットを使って、「16歳以上」という事実だけをプラットフォームに渡し、名前や生年月日は渡さない——そんなゼロ知識証明の実証が進んでいます。

日本には、マイナンバーカードとその公的個人認証(JPKI)という、世界水準の本人確認の土台があります。デジタル庁は、スマホにマイナンバーカードの機能を載せ、年齢だけを証明する仕組みを追加する実証を進めており、2026年秋頃にはAndroidで使える見込みです(「Androidのマイナンバーカード」2026年秋ごろ提供へ)。これをSNSの年齢確認に使えば、オーストラリアで起きた「推定の誤差」や「身分証の貸し借り」を、技術の面からかなり抑えられる可能性があります。

一方で、マイナンバーカードは任意で、監視されることへの抵抗感を持つ人も少なくありません。SNSを使う条件としてマイナンバー認証を必須にすると、「実質的なマイナンバー強制」と受け取られ、反発が強まる可能性があります。「使う人だけが、より安全な設計の恩恵を受けられる」といった段階的なやり方や、「何歳以上」という事実だけを渡す方式の整備が、現実的な落としどころになりそうです。


だから、日本は「禁止か放任か」のどちらかじゃなくていい

ここまでを踏まえると、日本が選べる方向は、おおまかに次のように整理できます。

オーストラリアのような全面禁止は、闇バイト対策としては強そうに見えても、憲法や通信の秘密との兼ね合いや、第2回で見た「地下化」「孤立」「憲法訴訟」を日本でも繰り返すリスクがあります。いまのまま+フィルタリングの努力を促すだけでは、世論の「何か手を打ってほしい」(日本では未成年のSNS年齢制限に66.2%が賛成という調査もあります:PR TIMES)に応えにくく、闇バイトなどの実害を抑えるにも届きにくい可能性があります。

そこで、現実的で、かつ前の2本で見た他国の教訓を活かせる選択肢として浮かんでくるのが、「アクセスは許すが、危険な機能だけ制限する」という機能制限型です。

具体的には、マイナンバーカード(スマホ搭載)を使った匿名の年齢認証を国が整備し、プラットフォームにその利用を義務づける。そして、認証された未成年のアカウントには、アカウントを止めるのではなく、「セーフティモード」を強制的に適用する(DMの制限、没入型の「おすすめ」を止めるなど)。そうすることで、若者の「つながる権利」と「安全」を両立させつつ、闇バイトの勧誘者から子どもを遠ざけることが期待できます。

こども家庭庁の検討会では、第2回で扱ったオーストラリアの事例が紹介され、年齢確認やフィルタリングの強化が論点になっている一方で、第1回・第2回で触れたようにSNSが居場所になっている子どももいる(とくに障害やマイノリティの若者にとっての「救命索」)として、規制には慎重な検討が必要だという声も出ています(若者の安全なネット利用へ"SNS規制のあり方"議論)。2026年7月の中間整理に向けて、「禁止か、何もしないか」の二択ではなく、「どの機能を、誰に、どう制限するか」を、技術と法制度の両面から詰めていくことが、日本らしい「第三の道」になり得ると思います。


三本の記事を振り返ると——世界の波の先に、日本の選択がある

第1回では欧州の規制の波と賛否、第2回ではオーストラリアの施行後——470万削除の裏にあった抜け道と孤立、憲法訴訟——を追いました。この記事では、それらを踏まえ、日本が闇バイト・いじめという文脈のなかでどの道を選べるかを整理しました。いじめ動画の拡散のように規制だけでは解決しない部分は、教育・支援・削除・連携、そして「見えないいじめ」を見つけて支える仕組みと、セットで取り組む必要があることもお伝えしました。

「子どもをネットから遮断する」か「何もしないか」だけではない選択肢がある。日本は、マイナンバーカードという土台の強みを活かしつつ、「アクセスは許すが、機能は制限する」という形を目指すことで、第1回・第2回で見た他国の「実験」から学びつつ、日本独自の課題に応える道を探れるのではないでしょうか。こども家庭庁とデジタル庁が連携し、技術と法制度を組み合わせた議論が、2026年7月の中間整理に向けて本格化していくことが期待されます。


作成日:2026年2月8日

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