情報ⅠでAIが満点を取った。「じゃあ授業はもういらない?」——逆でした。
――満点の「内訳」を振り返ると、教えるべきことが見えてきた
はじめに:「AIが解けるなら授業はいらない?」——その答えは、満点の「内訳」にあった
2026年大学入学共通テストで、AIが情報Ⅰで満点(25点満点)を達成したというニュースをご存じでしょうか。LifePromptの実験では、GPT-5.2 Thinkingが15科目平均で約97%正答、うち9科目で満点を取り、情報Ⅰもその一つでした。Gemini 3 ProやClaude 4.5 Opusも同等の高得点を記録しています。(今年の大学入学共通テスト、AIは9科目で満点…「苦手だった、【満点9科目!】共通テスト2026を最新版AIに解かせてみた)
「情報ⅠもAIが解けるなら、プログラミングの授業はもういらないのでは」と感じる方もいるかもしれません。しかし、ここからが本題です。AIが満点を取れた「理由」と、AIが苦手な「部分」を整理すると、逆に「これからの情報の授業で何を教えるべきか」の地図が浮かび上がってきます。なお、生徒の8割がAIを使っている一方で学校の導入率は4割にとどまるというギャップが指摘されるなか(筆者のnote)、授業でAIとどう向き合うかは現場の関心の的です。本記事では、共通テストの結果を振り返りながら、AI時代の情報Ⅰの授業の中身を、具体的な単元デザインのイメージとともに考えてみます。

25点満点の「中身」——AIが取ったのは「実行」で、苦手なのは「設計」だった
プログラミング25点も、AIは取った。その理由は3つある
2026年共通テスト情報Ⅰは、大問4つで構成されています。第3問は「アルゴリズムとプログラミング、モデル化とシミュレーション」で、待ち時間をシミュレーションするプログラミングの問題でした。問1はアルゴリズムの理解、問2は一つの状況についてのシミュレーション、問3は検討対象すべての状況についてのシミュレーションとプログラムの改良が求められています。(情報Ⅰ 2026年度 大学入学共通テスト速報)AIはこの第3問でも満点を取っています。つまり、「問題文を読んで疑似言語を理解し、状況や変数の役割に沿って実行結果を追ったり正しい選択肢を選んだりする」ような出題は、現状のAIが十分に処理できる水準に達しているということです。
なぜAIはここで満点を取れたのでしょうか。主な理由は三つに整理できます。第一に、テキストの読解が得意であること。問題文の意味を言語モデルとして正確に処理し、「待ち時間をシミュレーションする」といった課題を理解できます。第二に、疑似言語の実行トレースが得意であること。与えられたプログラムの動作を、ループや配列の値を追いながら確定的に計算できます。第三に、共通テストで扱われる状況が限定的であること。2026年度共通テスト情報Ⅰ第3問では、窓口数や来客の到着間隔など限られたパラメータでのシミュレーションであり、AIにとって容易に処理できる範囲です。(情報Ⅰ 2026年度 大学入学共通テスト速報、【満点9科目!】共通テスト2026を最新版AIに解かせてみた)
満点の向こう側——AIがまだ苦手なのは「設計」と「効率の評価」だ
一方で、他科目の実験結果から推測できるように、AIには苦手な領域もあります。(【共通テスト2026】AIが9科目で満点…図形や濃淡に課題)情報Ⅰの文脈で言い換えると、次のような力は、まだ人間のほうが優位です。
複数の制約条件を同時に満たすような「最適なアルゴリズム」を、ゼロから創造的に設計すること。計算量が O(n) と O(n!) でどう違うかといった、効率性を理論的に評価し、どちらを選ぶべきか判断すること。そして、2026年度共通テストでは窓口数や来客数など限られたパラメータで出題されていても、授業では「このシミュレーションは窓口を10倍、来客を100人にしたら本当に動くか?」と問いを広げ、異常系や境界条件を自分で発見する力をつけること。これらは、問題文を読んで答えを選ぶだけでは身につかず、まさに授業で意図的に扱うべき領域だと言えます。
つまり、共通テストでAIが満点を取ったからといって「授業は不要」になるのではなく、「AIが得意な部分(読解・実行トレース・小規模検証)」と「AIが苦手な部分(設計・効率評価・批判的検証)」を分けたうえで、後者を授業の中心に据える発想が有効になります。
「AIが解ける部分」を逆手に取る——授業で教えるべきは、ここだ
「正確に書く」から「設計し、評価する」へ——焦点をずらす
従来のプログラミング教育では、「生徒が正確なコードや疑似言語を書くこと」に力点が置かれがちでした。問題文を読んでアルゴリズムを設計する、プログラムの実行結果を予測する、小規模なテストケースで検証する。これらは、いずれもAIが高精度でこなせるタスクです。だからこそ、AI時代にはパラダイムシフトが必要だという提案があります。
AI時代に授業で育てたいのは、次のような力です。複数の制約条件から「どのアルゴリズムの構造が適切か」を選ぶ力。実装したアルゴリズムの「計算量」を理論的に評価する力。AIが生成したコードの「正しさ」と「効率」を批判的に検証する力。そして、新しい問題を前に「問題をどう構造化するか」を自分で工夫する力です。これらは、AIに任せきりにはしにくく、人間が意図的に訓練する価値が高い領域です。(大学入学共通テスト「情報Ⅰ」と高校現場でのプログラミング教育、【満点9科目!】共通テスト2026を最新版AIに解かせてみた)
この「AIが得意な部分を逆用する」考え方に立つと、共通テストの過去問そのものを教材として使いながら、単元を組み立てることができます。以下では、4時限を想定した具体的な流れを、読み物としてまとめます。
明日の授業から使える——4時限で回す単元の流れ
第1時限:AIの答えを「逆から」読ませる——「本当に最適?」を問う

第1時限では、2026年共通テスト情報Ⅰの第3問「待ち時間のシミュレーション」を題材にします。生徒には、AIが出した答え(疑似言語)を渡し、そのプログラムを手でトレースしてもらいます。状況やアルゴリズム、変数の役割を追い、ループがどう動くかを確認し、「なぜこのプログラムが正解と言えるのか」を日本語で説明させる。ここまでなら、AIが得意な「実行トレース」の練習になります。
さらに一歩進めて、「AIが見落としがちな点」を探させます。シミュレーションでは、ある窓口配置やパラメータで「待ち時間が最小」と出ても、別の条件ではより良い解があるかもしれません。生徒に「このシミュレーション結果は本当に最良の設定か?」と問いかけ、AIは「正確に実行する」ことはできても「設計の質や改良の余地を判定する」ことは苦手だという気づきにつなげます。(情報Ⅰ 2026年度 大学入学共通テスト速報)
第2時限:ルールを生徒が足し、AIに実装を頼む——「指示の質」が効く
第2時限では、2026年度共通テスト第3問と同様の待ち時間シミュレーションの題材に、新しいルールを追加します。「混雑時は窓口を1つ増やす」「優先窓口を設けて待ち時間の長い人から案内する」といった条件を、生徒自身に考えさせます。グループで疑似言語を設計し、試行錯誤でよいので、まずは不完全な形で書かせます。次に、他グループのコードを「検証」する時間を設け、バグを発見させる。その後、「このルールをシミュレーションに組み込んでほしい」とAIに指示し、返ってきたコードが本当に正しいかを生徒が確認する、という流れです。
ここで身につくのは、「AIは指示の質に強く依存する」という感覚と、「問題をどう構造化するかは、結局は人間の仕事だ」という気づきです。共通必履修としての情報Ⅰの実践報告でも、グループでの疑似言語設計と相互検証により、深い理解が得られた事例が紹介されています。(共通必履修科目としての「情報Ⅰ」の授業実践)
第3時限:O(n)とO(n!)の差を「体感」させる——なぜ来客が増えると止まるのか
第3時限では、2026年度共通テスト第3問と同様の待ち時間シミュレーションに対する二つのアルゴリズムを用意します。一方は効率的な探索で計算量が O(n) 程度、もう一方は全パターンを試す方式で O(n!) に近い。生徒には、両方のプログラムの実行時間を実際に計測させ、窓口数や来客数を変えたときの挙動をグラフに描かせます。本試では限られたパラメータだったが、授業では「来客10人なら両方動くが、100人なら片方は事実上止まらない」という体験を通じて、「なぜこんなに違うのか」を計算量で説明させる。さらに、AIに「どちらが効率的か、理由は?」と質問させ、AIの回答の深さを生徒自身に評価させる活動も有効です。
効果としては、「プログラミングは書けばいいのではなく、どのアルゴリズムを選ぶか・どう評価するかが重要だ」という理工系的な思考へとつなげられます。
第4時限:学園祭の配置問題で、「人間は設計・AIは実装」を体験する

第4時限は総合課題として、学園祭のスタッフ配置など、生徒の生活に近い最適化問題を扱います。グループで問題を「配列や制約」として構造化し、AIへの指示を明確に言語化する。返ってきたコードをテストし、不具合があれば修正を指示する。最後に、得られた配置案が「複数の制約を満たしているか」を検証し、「なぜこの案が良いと言えるか」を説明させる。
成果物としては、「人間は問題を設計し、AIは実装の詳細を担当する」という協働のモデルを、一つの実装例として残す形になります。
おわりに:AIが満点を取ったからこそ、授業で「これ」を教えたい
共通テストで情報ⅠがAIに満点を取られたという事実は、単に「AIがすごい」で終わらせず、「では授業で何を教えるか」を考える材料にできます。AIが得意な読解・実行トレース・小規模検証は、むしろ教材として活用し、そのうえで「アルゴリズムの設計と選択」「計算量の評価」「AIの出力の批判的検証」「問題の構造化」といった、AIが苦手な領域を授業の中心に据える。そうした単元デザインは、AI時代のプログラミング教育の一つのモデルになり得ます。
この単元を終えた生徒には、次のようなリテラシーが育つことを目指せます。「AIがコードを書く時代に、人間は何を書くべきか」というプログラミング観。「AIの答えは常に正しいか?」を制約や効率の面から検証する批判的思考。計算量の理論が、実際の実装選択にどう効くかの実感。そして、AIをツールとして使いこなすための指示力と検証力です。
共通テストを振り返り、情報の授業の中身を考えてみる。その一つの答えが、「AIの満点を逆手に取り、人間にしかできないスキルを戦略的に育てる」単元にある、という提案でした。
あわせて読みたい(筆者のnote)
このテーマに関連して、筆者のnoteでは以下の記事も公開しています。共通テスト情報Ⅰの平均点低下が問うた授業の本質、生徒と学校のAI利用のギャップ、AIを授業で安全に使う合言葉、解説動画づくりや校内チャットボットの話など、現場目線の記事をまとめています。よろしければあわせてご覧ください。
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作成日:2026年1月29日
