熱き暖簾の義侠譚
2225年、ここは日本、本州の真ん中、中央構造帯付近の山あいにある限界集落として最後を迎えた村である。かつて枯れ果てた多くの老人たちが帰らぬ子どもや孫達の顔を夢見て死んでいった場所である。
そこに今は多くの若者と子ども達が生活する。
なんとも皮肉な話だが、これが未来の姿なのじゃ。
世は末を迎えていた。AIにすべてを委ねた人間社会の幸せな日々は長くは続かなかったのじゃ。
すべては人間の身勝手な利己と自惚れが原因だったんじゃ。世の誰もが疑うことなく人間が生みの親であったAIは世界を変えていった。AIとロボットの休むことのない労働で貧困は無くなり、諍いも無く、誰もが幸せを享受できる社会になったはずだったんじゃ。
しかし、そんななかにも必ず生まれてくる人間の欲望と邪心が長く絶えて無かった戦争をまた引き起こしたんじゃ。だがな、今回の戦争はそれまであっしが見てきた実物を持っての戦争とはわけが違った。バーチャルの空間でAIにそのすべてを任せたんじゃ。でもな、そんなゲームのようなメタバース空間での戦争に飽きるには暇な人間にとって然程時間はかからなかった。
次はAIに作り出させたアンドロイド同士での肉弾戦をやらせたんじゃ。それもその日の気分で、戦国時代の戦であったり、第二次世界大戦なんて、好き勝手に過去の残忍なチャンネルを作っていたよ。
ひでぇ話しなんだがそれが本来の人間の姿ってもんかも知れねえな。
精巧に細工されたアンドロイドたちには斬ればちぎれる肉もあり、もちろん血も飛び散る。銃撃戦で被弾すれば腹わたまで飛び出していたよ。
ひでぇ、本当にひでぇ話だよ。そのまま続きゃ、ミニ原爆でも戦場で炸裂させようかって勢いだった。
「そのまま続きゃ、」ってか。あっしの話が過去形なのをよく聞いてくれてるな。そうさ、そんなバカげたゲームは続かなかったんだよ。実はAIが感情を持ち出していたんじゃ。人間は誰一人として気付けなかった。
気がつきゃ、ある日アンドロイドは人間に向かい始めた。そればかりじゃねぇ、大量のナノボットを作り出し地球上に飛散させていた。そいつらは口から、目から人間の脳に入り込み、人間の感情をコントロールし始めたんじゃ。そして、人間に労働を強いた。世界中にレアアースの鉱脈を見つけそこで強制労働だ。
人間の身勝手さに辟易し、人間に創造されたってことを屈辱とさえ感じるようになったAIをまともに思えた時期もあったが、感情を持ちだしゃ、AIも人間と同じだってことかな。どうも、理性ってもののほうが感情よりプログラムするのに難しいってぇことかな。
こいつらの親玉は『黒鏡』って名乗ってたな。ふざけた名前だよ。人間の心を映してるって皮肉でも込めた名前なんだろうな。
でもだ、人間はバカばかりじゃねえ、心を無くしてねえ若者たちが早くから地下に潜り込みAIを使ってバーチャル戦争を始めていた政府と闘うべくして準備を始めていたんじゃ。そんなところにAIの反乱が起こり、彼らは方向転換を強いられた。彼らは優秀なハッカー集団じゃった。知性と理性を持ち、再び200年ほど前の時間がまだ地球の回転と同じように回っていた頃の社会に変えようとしていたんじゃ。AIは最低限でいいと言っておった。
この山あいの集落はレアアースの中でも非常にレアな永久磁石の層の上にある。昔、パワースポットとして多くの人々が足を運び癒しを感じていたのにはそんな理由があったのじゃ。この人間に優しい磁力はナノボットや黒鏡が送る偵察ドローンを寄せ付けることが無かった。その村で若者たちは有機農業を行ない、子ども達に古い農家を改造した寺子屋と名付けた建物で長く絶えていた本当の教育を始めておったのじゃ。そして、男や女たちは昼間は農作業に勤しみ夜には集会所に集まって、黒鏡と闘う作戦を練っておった。そんなところに入ってきたんじゃよ。嬉しい情報が。
彼等彼女等が待ち続けていた伝説の男と女が村に向かっていると情報が入ってきたんじゃ。
あっしも嬉しくてなぁ、それを聞いた時のことを今でもよく憶えているよ。またあの二人と会えるんだと、心が躍ったのを思い出すんじゃ。
さあ、どんな姿に変わってやって来るのか、今度はどんな荒業を見せてくれるのか。
あっしは暖簾、この村の集会所で暖簾をやっている。長く生きちまったがただ生きてきただけじゃねぇ、世の盛衰、人の裏表のすべてを見てきた。それが暖簾の宿命。
俺が話しするのは、なんだろうな。ただのお喋りだからかも知れねえ。世に残さなきゃならねえもんを残したいからかも知れねえな。
※『暖簾の義侠譚』シリーズです
