国際情勢:なぜアメリカはイランを攻撃したのか?
2025/06/22、アメリカ軍はイランの核施設を攻撃した。攻撃されたのは、フォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの三施設だ。トランプ大統領は、核施設を完全破壊したと言う。イラン側は、事前にウランを退避させたと言う。(文字数7,323)
情報を見てみよう。
作戦名は「Midnight Hammer(真夜中の鉄槌)」だ。
7機のB2で、14発のバンカーバスターを、イランの核施設に投下した。フォルドゥに12発、ナタンズに2発、イスファハンは潜水艦からの30発のトマホークが撃ち込まれた。戦略原潜から戦術原潜になったオハイオ級だろう。



他にも、作戦機125機以上投入し、使った誘導弾は75発以上だと言う。片道18時間、何度も空中給油しながら、B2の本隊はアメリカから大西洋を越えて飛んだ。念入りに、囮部隊の6機のB2の編隊も、太平洋に飛んでいた。
以下、英語ニュースABC World News Tonightから参考動画
ABC World News Tonight with David Muir Full Broadcast - June 22, 2025
3:33から3:45に、B2からバンカーバスター投下イメージ動画あり。
これはかなり分かり易いので、3:33から3:45だけ要参照。
以下、フランス語動画ニュースLCIからバンカーバスター解説のキャプチャ
26:07 2025/06/23
«Marteau de minuit»: les détails de l'opération US en Iran|LCI

このバンカーバスターは、GBU-57A/B「マッシブ・オーダンス・ペネトレーター(MOP)」と言い、約13tもある。地下60メートル以上の深さにある強化コンクリート構造物を貫通して破壊する能力がある。
B2で運べるのは2発までなので、フォルドゥに6機、ナタンズに1機という計算になる。フォルドゥの核施設は地下80~90mにある。バンカーバスター1発では届かないが、連続して打ち込めば、完全破壊は可能かもしれない。
以下、英語ニュースNBC Nightly Newsから投下後の航空写真
Nightly News Full Episode – June 22
2:34から2:39にバンカーバスター投下後の航空写真あり、以下キャプチャ

投下後の写真を見ると、フォルドゥに3つ連続の穴が2カ所あり、計6個の穴が開いていた。ナタンズには計1個の穴が開いている。14発で7個の穴なので、1つの穴にバンカーバスターを、2個連続投下したと考えられる。
イラン側の発表では、イスラエルの攻撃が始まった時から、濃縮ウランの移送は開始していて、核施設で作られた成果物は無事だと言う。核施設自体は、イスラエルの攻撃で停電が起きており、すでに使用不能だったと言う。
どうして、アメリカはイラン核施設の攻撃に踏み切ったのか?
それは逆に攻撃しなかった場合、どうなるのか?という想定から読み取れる。イランはすでに60%程度の濃縮ウランを戦術核数発分所持しており、このまま濃縮を続ければ、1年以内に90%の濃縮ウランを手に入れる。
今回の攻撃で、核施設は破壊され、これ以上のウラン濃縮は不可能となった。だが成果物は無事だとイランは主張しており、核施設を再建すれば、濃縮作業も再開できる。あるいはロシアに移して、完成品と交換も在り得る。
またイランは、少なくとも国内に3,000発以上のミサイルを所持するミサイル大国で、他国からの技術供与によって核弾頭搭載型のミサイルも開発している。そのため一年以内に戦術核を実戦配備できる可能性もある。
核実験は必要だろうが、それは横に置いておく。問題は、イランが核兵器を持つとどうなるか?だ。実はサウジアラビアが一番反応する。シーア派のイランが核を持つ事を許せない。これはスンニ派にとって重大な問題だ。

スンニ派の盟主を自認するサウジアラビアは、同じスンニ派のパキスタンから核兵器を入手しようとするだろう。これはパキスタンにとっても防衛上、重要な事で、核大国インドと新興核保有国イランに挟まれたくない。
だからサウジアラビアも、パキスタンから譲ってもらう形で、こっそり核保有国になるだろう。これはアメリカが望む事ではない。だが止められないだろう。サウジアラビアも自国の脅威には備えないといけない。
サウジアラビアのMBS、ムハンマド・ビン・サルマーンは、脅威に対して、陰謀で対抗する傾向がある。それはジャマル・カショギ事件を見れば分かる。ジャーナリストが大使館に連れ去られて、死体となって出て来た。
サウジアラビアのMBSは、イランが核武装した場合、パキスタンから核兵器をこっそりもらおうとするだろう。表立ってやらないので、建前上そんな事はしていないとなる。だがアメリカもイスラエルも諜報機関がある。
アメリカのトランプ大統領は、サウジアラビアのMBSの陰謀的核武装に悩まされる事になる。また中東に核が拡散して、地域の紛争リスクが高まる。そんな未来は避けたいと考えるだろう。だからイラン攻撃に踏み切った。
通常の思考の持ち主であれば、将来確実に大問題となると分かっていても、今起きていないなら、とりあえず先送りにする。だがトランプ大統領は通常の思考の持ち主ではないので、今対処して問題の消し込みにかかる。
トランプ大統領が、今このタイミングで、イランを攻撃する理由はよく分かるが、世間は、いや、この場合、世界は理解してくれない。単にイスラエルに引きずられて、トランプ政権はイランを攻撃したように見える。
悪く取れば、トランプ大統領は、イラン核施設の攻撃のチャンスを見出したから、攻撃したのだと思われるだろう。確かにそういう側面もあるが、背景にはサウジアラビアの核武装阻止、中東の核拡散阻止の狙いが大きい。
トランプ大統領の行動は理解できる。問題を先送りにするより、今なら叩けるので、問題を叩いて、将来のリスクを消し込みたいという想いはよく分かる。だが世間は、いや、世界は決して理解してくれない。
だがインドからパキスタン、イラン、サウジアラビア、そしてイスラエルと核保有国が、横並びに中東に出現する事態は避けるべきというトランプ大統領の考えは正しいと思う。そんな核の火薬庫は作るべきじゃない。
これが、なぜアメリカはイランを攻撃したのか?という問いに対する答えとなる。無論、トランプ大統領は表立って、そんな事は言わないだろうし、真意は説明しないだろう。ただ今の状況を見て、そうしただけだと言う。
もちろん、世間では、いや、世界では、まだそんな事は起きていないし、そんな可能性について議論さえしていない。だからトランプ大統領はまた妄想に囚われていると言われるだけだろう。だから攻撃の真意を語らない。
NBCのインタビューでヴァンス副大統領が質問に答える形でこう言った。
FULL INTERVIEW: JD Vance says US 'substantially delayed' Iran's nuclear weapon program NBC news 18:36 06/22/2025
Mr. Vice President, is the United States now at war with Iran?
副大統領閣下、合衆国はイランと今戦争中ですか?
No, Kristen, we aren’t at war with Iran.
いや、クリステン、我々はイランと戦争していない。
他にも、アメリカはイランと大変よい関係にあると言っていた。
人の国にバンカーバスターをぶち込んでおいて、戦争していない、仲がよいとは恐れ入ったが、これはトランプ大統領の思考だろう。ディールのための攻撃だと考えている。これは交渉準備の仕込み作業なのだ。
Der Krieg ist eine bloße Fortsetzung der Politik mit anderen Mitteln.
戦争とは、政治の単なる延長であり、その手段が異なるだけである
クラウゼヴィッツ(1780~1831)に従えば、戦争とは外交の延長線上にある手段だから間違ってもいない。トランプ大統領は、バンカーバスターで、外交を行っているのだ。だから戦争もしていないという思考になる。
地上戦はやらないとトランプ大統領も明言しており、ヴァンス副大統領も、boots on the grandはないと言っていた。確かに空爆だけなら、戦争とは言えない。攻撃だ。もし本気でイランを倒しに行くなら地上戦は必須だ。
イスラエルは人口900万の国であり、イランは人口9,000万の国である。地上戦をやったら、どっちが有利か火を見るよりも明らかだ。仮にアメリカ軍が地上戦をやったとしても、山脈が多いイランの高原地帯に苦戦する。
2003年のイラク戦争のようには決していかない。
何より兵站を確保するのが難しい。長い補給路を作らないといけない。イランが外部から征服されたのは、アレクサンドロス3世(BC356~BC323)のἀνάβασις(東方遠征)の一回だけだ。現代の米軍でも難しい。
だから戦争にならないという見方は、双方存在する。できるのは空爆による攻撃だけなので、戦いの決着は決してつかない。イランもそれが分かっているから、強気でいられる。施設は破壊されても、再建すればいい。
結局、数年単位で、ウランの再濃縮作業に着手できると思われる。
トランプ大統領は、ひとまず、時間を稼ぐ事にしたが、問題を完全除去できいないので、イランの核武装は時間の問題になる。だったら、攻撃しない方がいいのか?それだと、中東が核の火薬庫になる時期がもっと早くなる。
苦渋の選択だが、何もやらないよりも今攻撃して、状況を動かせないか試す価値はあると、トランプ大統領は判断したに違いない。だがロシアが反応して、イランを守ろうとしている。考えてみれば、これも当然だ。
ロシア・ウクライナ戦争で、ロシアはイランから大量のドローン兵器を提供してもらっている。ロシアにとって、兵器工場としてのイランの価値は低くない。大量のミサイルも在庫に抱えている。守ろうとするだろう。
トランプ政権は、厄介な状態に陥った。攻撃を続けても、イランは降参しないだろう。逆にホルムズ海峡封鎖という伝家の宝刀?を切るだろう。これをやられると、石油タンカーが止まり、世界の原油価格が上昇する。

だがアメリカ海軍は、海峡封鎖を突破しようとするだろう。これが第二ラウンドの戦いとなるが、この戦いは十分勝算はあると思われる。アメリカ海軍は、弱いイラン海軍やその他の妨害を退けると思われる。
ここで注意すべきは、ウクライナ軍がロシアの黒海艦隊相手に大勝利を重ねたドローン・アタックである。これはイランもできる。アメリカも小型ドローン船の自爆攻撃で、原子力空母を沈められてはたまらない。
戦争はサプライズがつきものだが、本家イランのドローン・アタックは、要注意だろう。アメリカ海軍でも十分対策が取れているとは思えない。だからホルムズ海峡封鎖は、イラン側から見て有効な手と思われる。
イラン・イスラエル戦争は、地上戦が行われず、ミサイルの応酬、アメリカによる空爆、ホルムズ海峡を巡る戦いなどで、本筋の決戦が起きず、膠着状態に入ると思われる。トランプ大統領のディールも難しい。
ただG7を中心とした西側諸国は、イランが核兵器を持つ事を望んでいない。これは強い国際圧力として存在する。核の拡散は避けるべきという国際世論も後押しするだろう。誰もいたずらに核戦争のリスクを上げたくない。
結局、イランという国の体制が問題となる。
1978年のイラン革命以来、イランはシーア派の最高指導者が、国家を指導する神権政治を行う国となった。シーア派というのがミソで、これはイラン民族の、いや、もとい、ペルシャ民族の意地と沽券がかかっている。
中東の覇者はペルシャ民族であった。だがイスラム教が興隆してからアラブ民族が中東の覇者となった。ペルシャ民族はアラブ民族のイスラム教に敗れ、ササン朝はゾロアスター教というペルシャ民族の魂と共に滅びた。
だがイスラム教も、四代目のカリフ、アリーが暗殺されて、主流派のスンニ派と少数派のシーア派に分かれた。シーア派は、殺されたアリーの子孫のみがウンマ(共同体)のイマーム(指導者)の資格を持つと考える。
ここで歴史的な結合が発生する。敗者同士、非主流派同士のペルシャ民族とシーア派が合体したのだ。これは恨み節が強い者同士、波長が同通したのだ。共にルサンチマンを抱える者同士、シーア派のイランが誕生した。
そして「イスファハーンは世界の半分」と呼ばれる空前の繁栄を迎える。1597年、イランのサファヴィー朝のアッバース1世が遷都した。今回、アメリカ軍によって、トマホークを30発ぶち込まれた都市である。
そして近代に入ると、中東はエジプト、トルコ、アラブ、イランと地域ごとに分かれ、それぞれで異なる運命を辿るが、イランだけ、20世紀に入って、アメリカの影響を強く受けるようになる。第二次世界大戦後の話だ。
モハンマド・レザー・シャー・パフラヴィー(1919~1980)は、パフラヴィー朝イランの第2代にして最後の皇帝だ。アメリカ文化を受け入れて、イランの欧米化を目指した。F-14トムキャットをイランに導入した人である。


この王様はやり過ぎた。テヘランで、サングラスかけ、水着を着たイラン女性がアイスクリームを食べながら、コーラを飲んで歩く。シーア派の指導者が怒った。ルーホッラー・ホメイニー(1902~1989)の登場だ。
アメリカ大使館が血祭りに上げられ、アメリカ大使館人質事件の「イーグルクロー作戦」では、特殊部隊デルタフォースが敗退した。イラン革命は、国土からアメリカ色を一掃し、イラン女性を水着から黒衣に着替えさせた。
だが男たちはコーラだけは許した。とても甘かったからである。イランの男たちは尿の糖度を高め、さらなる革命に邁進した。どうしてもそこだけアメリカが忘れられなかった。ザムザム・コーラ誕生の秘話である。

皇帝パフラヴィーが行った上からの革命は、アーヤトッラーによる下からの革命で天地が逆さまになった。そしてシーア派の教義を推し進め、この革命を批判する者は、たとえ海外の者でも許さず、暗殺者を送り粛清した。
日本でも1991年、大学で暗殺事件が起きた。
要するに、恐怖政治である。イラン革命は、イスラム革命で、神権政治だと言うが、これでは左翼の暴力革命と何ら変わりない。体制の批判者は、一切許さないのである。理性の崇拝の代わりに、シーア派があるだけである。
日本でも、左翼の学生運動の成れの果ては内ゲバだった。
この政権が、核兵器を持とうとしているのである。現在の最高指導者、アリー・ハーメネイーは二代目である。二代目で核兵器保有というのは、日本人にとって、どこかで聞いた事があるような話である。
現在アメリカ、イスラエルが急先鋒となって、イランの核武装化を阻止しようとしているが、正しい側面を残しつつ、ロシアの介入も招きそうで、かなりこじれそうな様相を見せている。中東の不安定化は避けられない。
だがインドから、イスラエルまで、横一列にずらりと核保有国が並ぶ未来図は避けたい。これで爆発しない火薬庫なら、核兵器とはよほど、安全なものなのかと疑いたくなる。だがそんな事はないだろう。核戦争の危機だ。
トランプ大統領は、先読みして、自分から動いて、状況を動かしたがる傾向があるが、これが吉と出る場合もあると思うが、凶と出る場合もある。アメリカ国内では、January Sixという大失敗もあった。どうなるか?
イランは、国際世論を聞いて、大人しくなるような国ではないと思うが、イラン国民が、恐怖政治に苦しみ、抵抗している様子を見る限り、自分たちでレジューム・チェンジを図る事が最善の道ではないかと思われる。
それはアメリカの手によるものでもないし、(それをやると、また同じ道を辿る事になる)自分たちの手で、国を変えるしかないだろう。さもないと、また外国から爆弾が降ってくる。そんな未来は彼らも嫌だろう。
イランの革命派は、最終的に、国と民族をどうするつもりなのか分からない。この革命と一緒に、ペルシャ民族を盛大に滅ぼす気なら、それは許されない事になるだろう。アッラーだって、そんな事は望まない。
最後に皆さんに問いたい。もし皆さんが、アッラーの神だったとして、イランの最高指導者から、「イランを助けてくれ」とお祈りが来たら、どう答えるか?この問いをもって、本稿を終わりとする。
何かの参考になり、お役に立てれば幸いである。
ご一読ありがとうございました。
以上
