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「学びほぐし」の場づくりと、ままならない自分 〜2025年度を振り返って〜

新年度が始まりました。
毎年「振り返りの記事を載せる」と言いながらほぼできていないので、今年こそはちゃんと振り返ります!

講師という仕事をしていると「答えを教えてくれる人」であることを求められる場面が多くあります。でも私は、自分の経験や成功体験を答えとすることに違和感を持っています。
私が正解だと思っていることが、目の前の人にとっての正解とは限らない。だから私は、答えを教えるより、一緒に考える時間を大切にしたいのです。ただ、それは簡単ではありません。
「早く答えが欲しい」という空気の中であえて立ち止まることは、なかなか勇気がいることです。答えを提示しない講義は受講者に評価されないことが多いので。
それでもなお、私は答えを提示しない講師でありたいと思っていますし、自分自身も試行錯誤し続けたいと思っています。

そんな私の思いをベースに、この一年を振り返りました。


1、安心安全な学びの場づくり

今年度は、行政、大学、高校など、さまざまな場所で授業、講義、ワークショップを行いました。

「自分の言葉」で語る:大学や高校の授業

地域性もあるのか、私の肌感覚ですが「自分語りは人の迷惑」と考える学生が少なくありません。「意見を言うと調子に乗ってると思われる」「自分は陰キャで自己主張なんて無理」といった思い込みが染み付き、対話にはかなり後ろ向きです。
小中高のグループワークで嫌な思いをしたという学生も多くて、「主体的・対話的で深い学び」に必要な安心安全の場づくりがないままアクティブラーニングが繰り返された結果、かえって対話への苦手意識が強まっているようにも感じます。
学生たちは、授業での発言は「正解」でないといけないと思っています。でも、私が皆さんに語ってほしいのは「自分ならではの経験」であり「自分がどう思ったか(どう思っているか)」ということです。
そのために、時には「架空」を使った安心安全な場作りをしてきました。
架空の設定の中で価値観の異なる役になりきって対話し合意形成を目指します。没入できるようエンタメ感も取り入れ、何を言っても「役としての意見」だから安心してと伝えると、どの子も臆せず発言を始めます。「「俺に任せろ!」なんて強気な言葉、人生で初めて言った」という感想もありました。
この小さなステップの積み重ねが自己開示と対話の土台になると考えています。

キャンパスのアジサイ

正解を提示しない、アンラーンの場:佐久平女性大学

佐久市の市民大学である佐久平女性大学。アドバイザーとして1期から関わり、4月から5期目が始まります。
1期目は本当に手探りで、黒沢梢学長と試行錯誤の繰り返しでした。深く考える必要があることが次々と出てきて、その都度学長と対面で対話して、オンラインで対話して、メールで対話して。
一般的に、社会人の学びというと「新しい知識やスキルを身につけること(リスキリング)」がイメージされやすいと思います。一方で、佐久平女性大学の学びは「アンラーン(unlearn)」、これまで当たり前だと思っていた考え方や思い込みを一度手放し、自分自身の見方を更新していく学びです。1期目の1年間は、結果的に学長も私もアンラーンの一年だった気がします。
佐久平女性大学は安心安全な場です。
ワークでは学生の皆さんが「正しさ」や「役割」から少し離れて、自分の内側にある違和感や本音に触れ、それを言葉にしていくような時間を大切にしてきました。こうしたアンラーンのプロセスは、時間もかかり、すぐに成果として測りにくいものです。しかし、だからこそ一人ひとりの在り方に深く影響し、変化につながります。
行政やビジネスの世界ではどうしても「すぐに数値化できるスキル」が優先されがちですが、佐久平女性大学の黒沢学長は「意味あるの?」という反応を恐れず、この「目に見えにくい、けれど確実に人を根底から変える学び」を、市の事業として取り入れました。
学長のセンスと突破力から始まった佐久平女性大学に私も4年間一緒に伴走し、市長に「想定以上の効果をあげた」と言っていただきました。

佐久平女性大学

各種仕事:講座やら司会やら

長野県高野連北信支部「球場アナウンス講習会」、佐久平女性大学課外講座「群読ワークショップ」、須坂市「朗読奉仕員養成講座」、吉田公民館「大人の音読講座」、その他にも、地域の福祉会で音読したり、母校の放送部でアナウンス指導したり、期成同盟会の司会とか、オンラインセミナーの影アナとか、少年野球の球場アナウンスとか、毎年恒例中山晋平音楽賞の司会とか。
今年初めてやった仕事としては、高校の探究学習の中間発表ゲスト講師、佐久市女性活躍トークセッションの登壇がありました。
トークセッションというと仕事柄モデレーターの立場で参加することがほとんどなのですが、この時はゲスト(パネリスト)の立場での参加。
なかなかないことです。
ワークショップデザイナーとして、佐久平女性大学での心理的安全性について話しました。
では、モデレーター誰が?…というと佐久市の栁田市長です。話題転換も自然、項目ごとの時間もぴったりで完璧な進行でした。すごい!

自己紹介スライド(佐久市トークセッションで投影)

2、演劇で見つけたもの

仕事以外では、一年を通して「観る演劇」「演じる演劇」「学ぶ演劇」を楽しみました。

観る演劇

一昨年~去年は結構見たなぁ。
一昨年はサントミューゼで『初級革命講座 飛龍伝』、まつもと市民芸術館で加藤拓也『らんぼうものめ』、葉山で激弾BKYU『グレイッシュとモモ』。
今年に入って(演劇じゃないけど)『志の輔独演会』まつもと市民芸術館、 劇団東京乾電池朗読劇『今は昔、栄養芸術館』長野ロキシー、yoowa『LAST EVER EVE』浅草九劇。
年が明けて、岡田利規『ダンスの審査員のダンス』サントミューゼ、劇団アンパサンド『歩かなくても棒に当たる』東京芸術劇場シアターイースト、岩松了『危険なワルツ』新国立劇場小劇場…(抜けてるのもあるかも)

6月の『LAST EVER EVE』は、うちの長男が所属するクリエイティブプロジェクトyoowaの公演です。
浅草まで見に行きました。
息子に脚本の壁打ちの相手をさせられていたので内容は知ってるし(難解すぎることも知ってるし)、大丈夫かなぁ、お客さん置いてかれないかなぁと心配しながら見たのですが、面白かったー。主宰リコちゃんの演出はもちろん、役者さんも音楽もとてもよかった。ただ、賛否両論吹き荒れたらしいです。
でも、息子曰く「いいも悪いも両極端が一番!」だそうで。

yoowa『LAST EVER EVE』
yoowa『LAST EVER EVE』

演じる演劇

阿佐ヶ谷スパイダース『さらば黄昏』への出演 !

演出家の長塚圭史さんのもと、18人の住民役の一人として舞台に立ちました。終わってみれば本当に素晴らしい体験でしたが、吐きそうなくらい緊張しました…。
普段はもっと大きなホールで司会したりもしますが、それほど緊張はしません。でも、今回はすごく緊張しました。
「うまくできるかな」というような緊張ではなく、「お弁当で胃がもたれているけど気持ち悪くならないか」「暗い階段で躓かないか」「乾燥で咳が出ないか」といった、今の自分の体が抱えるリアルな不安からくる緊張…。
「ままならない自分」を受け入れて、だましだまし何とかやり切りました!無事終わって本当によかったです。
終演後、控え室まで来てくださった長塚さんはじめキャストのみなさんと握手した時はもう達成感でいっぱい。
一生に一度あるかないかの貴重な体験でした。
(写真は阿佐ヶ谷スパイダースから掲載許可済み)

阿佐ヶ谷スパイダース『さらば黄昏』
阿佐ヶ谷スパイダース『さらば黄昏』

学ぶ演劇

仕事の振り返りにも書きましたが、私は演劇的な手法を用いたワークショップをやっています。

そもそもは、グループワークに後ろ向きな学生が主体的にコミュニケーションを学べるいい教材はないかと探す中で見つけたのがシアターゲームでした。さらに調べていくと、演劇的手法を用いたワークショップがコミュニケーション教育に大いに役立っているとのこと。
そこで、演劇ワークショップにいろいろ参加するのですが、私もこれまでの自分の価値観にとらわれていて「これ意味あるの?」ってずっと思ってしまっていたのです。
演劇的手法を用いたワークショップの「意味」に気づくのに2年かかりました。その意味というのはまさに「アンラーン(学びほぐし)」だったんです。
私は、演劇ワークショップを通して私自身をアンラーンしていたんですね。
何しろ考えが凝り固まっていたので、ほぐすのに2年もかかりましたが。

おまけ:息子の演劇

まさか、自分の息子が演劇の世界に携わるようになるとは思ってもみませんでした。
昨年6月に浅草まで公演を見に行ったのは前述のとおりですが、その後なんと、世田谷パブリックシアターネクストジェネレーションに選ばれ、先日記者会見がありました。

そんなわけで、今年12月、世田谷パブリックシアター シアタートラムで『GARDEN』が上演されます。
ぜひ、劇場にお運びください。

3、おはなしの読み聞かせ

私はおはなしネットワークという団体に所属しています。
ライフワークの読み聞かせ活動ももうすぐ30年。赤ちゃんから大人まで、いろいろな方々にいろいろな場所で楽しんでいただいています。今年も12回のおはなし会に参加しました。
今年印象深かったおはなしは宮沢賢治の『カイロ団長』。いつかやってみたいとずっと思っていた作品です。いろいろなカエルがわちゃわちゃする様子をメンバーの声で表現したら楽しいだろうなって。
「お話の世界に引き込まれた」「音楽とカエルたちの声がよかった」などなど、嬉しい感想もいただきました。
今年度も聞いてくださる方と一緒に、おはなしを味わう時間を楽しみたいと思っています。

大人のためのお話会ポスター(長野市立図書館の方が描いてくれました!)

4、今年度も試行錯誤

鷲田清一さんはこう書いています。

大事な事は、わからないもの、正解がないものに、わからないまま、正解がないまま、いかに正確に処するかである。そういう頭の使い方をしなければならないのが、私たちのリアルな社会であるのに、多くの人はそれと反対方向に殺到する。わかりやすい言葉、わかりやすい説明を求めるのだ。だが本当に大事なことは、困難な問題に直面した時に、すぐに結論を出さないで、問題が自分の中で立体的に見えてくるまでいわば潜水し続けるということである。知性に肺活量をつけるというのはそういうことである。

『哲学の使い方』

思考のその肺活量とは何か。それは、いますぐわからないことに、わからないままつきあう思考の体力と言ってもよいし、あるいはすぐに解消されない葛藤の前でその葛藤にさらされ続ける耐性といってもよい。

『わかりやすいはわかりにくい?ー臨床哲学講座』

そんなわけで、今年度も答えを出し急がず、「わからない」に耐えながら、試行錯誤し続けていきたいと思います。

あー、今年は振り返りが書けたー。よかったー。

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