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「倒産寸前の会社で働いています」 第十二話


※タイトルが気になった方。第一話はこちらから


 経営プランナーの庄司さんとの話は、運行管理をしてくれている浦安さんの耳に入る時もあり、彼は会社の経営状態に正直驚いているようだった。
 ある日、事務所で二人きりの時に浦安さんが聞いてくる。
「なんか、会社結構ヤバいんやな。そんな風には聞いてなかったから。全部のトラック動かしてもあかんって言われてたな」
「今更ですよー。そうなんです」
 社長は浦安さんが後輩だからか、いいカッコをしたがってあまり詳しく経営状況を話していないようだった。こちらから一方的に浦安さんに話をしていいものか考えあぐねていた私には、浦安さんからこの話題を切り出してくれたのは渡りに船である。これから一緒に事務方をしていくのだから、会社の現状を知ってくれている方がありがたい。
 社長には、私から聞いたことは内緒にしておいてほしい、と言うと、昔からの付き合いで社長の性格をよく知っている浦安さんは、そんなん俺が口出そうもんならどうなるか分かってるんやから大丈夫、と何やらよく分からない確証をくれた。
 私は詳しい状況と今までの経緯を話した。それと同時に、この経営状態ではあるが、社長は行けるとこまで行くと言っていることも伝えておく。
 そこから、やはり運賃値上げの話になる。最低でも2割、しっかりと利益を出すことを考えたら3割の運賃値上げをと庄司さんは言っていたのだが。
「正直、運賃を3割上げるのは無理やろ」
「ですよね」
「1割でも難しいと思うわ」
「そうですね…。上げてくれた会社さんもあるけど、3%ほどでしたし…」
「それでも御の字やろ」
「しかも、すぐに値上げしてくれたのここだけですよ。他はまだですね。徐々に上げるとしても、せめて15%は上げないと…かなり厳しいです」
「そうやなぁ。俺、人が来てトラックが全部動いたら大丈夫やと思ってたからなぁ」
「そうじゃないんですよね…純利益が厳しくて…。先月も経費で3600万いってるんですよ。対して売上は税込で3000万ほどですから…」
 赤字は一向に減っていなかった。庄司さんが来だしてようやく何をすればいいか分かり、動き出したところなのだから、まぁ仕方あるまい。
「…本当に厳しいんやな…」
「自己資金、1000万ほど入れてます」
「え! それやったらあかんやん。潰すってなった時に残らんやん。潰すんやったら上手いことやらんと。俺、潰すの失敗してるから…」
「…え?」
「俺も、運送会社やってたんよ」
「そうだったんですか!」
「潰した時、後からああしておけば、こうしておけば、みたいな情報が入ってきてなぁ」
「あはは」
 なんとまぁ、これは違う意味で心強いかもしれない、と私は思った。
「まぁ、行けるとこまで行ったらええけど、最悪の場合の準備もしとかな」
「社長があっちもこっちもって、準備をよーせんと思いますけど」
「…確かにそーよなー」
「金融プランナーの庄司さんが立て直せますって言ってるから、信じてしまってて。なんの確証もないのに…と私は思ってますが。立て直せるかもしれないですけど、何年も切り詰めた生活はよーせんやろうし、何回も運賃の交渉するのも面倒ってなりそうでしょ」
「そうやなぁ」
「庄司さんの言うようにしといたら、後は何してもいいというわけじゃないですよね。運賃だけ上げといたらいいっていう話ではなくて、やっぱり経費もいくらかは削減していかないと…」
「こんなに厳しいとは思ってなかったわ。1年ぐらいは余裕あると思ってた」
「ないですよ!! M&Aの時の会社さんに、あと2か月って言われたのにっ!」
 その2ヶ月はなんとか持ち堪えようとしているが。
「え、今、月末の通帳の残高ってどれくらいなん」
「今で…1700万ぐらいですかね。でも現時点で毎月600万ぐらい赤字かな、と」
「このまま行ったら、3ヶ月持たへんな」
「一応、保険は切り替えたり、いらない車売ったりしたんで、そのあたりの経費は下がってくると思いますが、それでも100万ぐらいしか削れないと思います。あ、それと、今話してる庄司さんとかとの話が終わったら、銀行の返済をストップできるらしいんで、それで100万ぐらい、らしいです。後は、社長の個人の方で、給料をちょっと減らして住宅ローンの返済を1年止めてもらうって言ってました」
 住宅ローンが月に25万もあることは、伏せておく。
「それでも、400万は赤になるか…。まあ、運賃が上がって人が入ってきたらもう少し薄まるけど、それでもなぁ。年越せるかどうか…やな」
「基谷さんは、お盆までもたんって言うてましたけど、そこはなんとかなりそうです」
 ずっと、ギリギリのところで持ち堪えていた。ただ、8月9月でまた、お盆や祝日が入れば休みになって売上は下がりそうだ。
「斎藤さんは、こんな状態でも残ってていいの?」
「え?」
「いや、こんな経営状態って分かったら、辞めたくなるやん、普通」
「まぁ、それはそうなんですけど…乗りかかった船、って感じですかね。潰れたら、失業保険長く貰えるし」
「ははっ。まぁそうやな。」
「浦安さんの方が急に運行管理を任されて、しかも運送の仕事もしながらって…大変やと思ってます」
「ほんまは運行管理、やりたくなかったんよ。のんびり運転手やってたかってん。でも、それ言うたら『他に誰がやんねん! お前しかおらんのや!』って言われてなー。もう決定事項やったわ」
「あー…。それでやってくださってるんですね…。ありがとうございます」
「まぁ、しょうがないわ。もう、会社もなるようになるやろ」
そう言って、浦安さんは笑い飛ばす。笑いながらしょうがないわ、で済ませてくれる浦安さんは、私には神様に見えた。
——この人おらんかったら、どうなってたんやろ。
 社長は本当に運がいい、と思っている。

 浦安さんは、前任の運行管理者の基谷さんが辞めてからずっと、午前中は事務所に来て、午後からトラックに乗って運送の仕事を夜中までする、という私では考えられない仕事の仕方をしてくれていた。今時、そんな働き方を公言したら完全にアウトである。
以前、しんどくないのか?と聞いたことがあったが、時間あってもやることないし…運転手なんてそんなもん、と言われてしまった。
 確かに、何度かドライバーさんに急遽走ってもらった折に「すいません、お休みやったのに出てもらって…」と言うと、皆が口を揃えて「いいですよ、休みでもやることないんで」と言っていた。
 社長も浦安さんも、今は働き方改革だなんだのとホワイトにしようとし過ぎてて、がっつり働きたい奴が困ると言っていたが、それもあながち嘘ではないのかもしれない。
そして、黒に近いグレーで働く人がいないと、運送業が回らないというのも事実だと事務所で働いている私でさえ思ってしまう。
 もちろん、ホワイトな働き方をしたがる(それが普通なのだが)ドライバーさんもいる。が、ホワイトな働き方を望むと社長の覚えは悪くなり、あいつは使えないというレッテルを簡単に貼られてしまう。おかしな話だ。

 浦安さんとの談話の数日後。
 社長は、これだけ頑張っている浦安さんをなじるように、
「あいつ、車両の管理、全然やってないんやな!」
とキレて、私に怒鳴ってきた。いつもつるんでいる仲間と出かけていた次の日だ。どうやら、エンジンオイルが無くなっていて、その補充にどこかへ行かなくてはいけないらしい。浦安さんが運送の仕事をしている時間帯のため、社長が予定を変更して行かざるを得ないのが原因である。
 人の予定を変更させるのは何とも思わないくせに、自分の身に降りかかるとキレるのは、本当にやめてほしい。
「点呼とか誰でもできるし(誰でもよくないです)、適当でえーやろ(絶対に適当ではいけません!)。あいつしかできへんことをやってもらわな」
と私にも、仕事を押し付けるかの如く言ってくる。
——いやいやいや、浦安さん昼から走ってるんやで。基谷さんはずっと事務所におったから、車両の管理とか本来あなたがする仕事までやってくれてただけ。無理に決まってるやん。給料倍渡してるわけでもあるまいし。そもそも物理的に無理やし、運行管理って車両の管理は業務外ですよ? お前がやれよっ! お前の会社、お前の仕事やろ。遊んできといて何抜かしとんねんっっ!! どうせ今からの予定も遊びやろうがっ!!!
 自分が楽をしたいが為に、なんでも人にさせようとする。それができていないと、こちらに八つ当たりをしてくる。
——はー、もう早くどうにかならんかな…。
こうやって、日々は過ぎていく。
そして、決算の時が来て、税理士の先生とちょっとした争いが勃発するのだ。

第十三話に続きます

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