新クラスでの行き渋り|特別教室へつながるまで(後編)
「……行ってみようかな」
その朝、娘の一言で、
私たちは中学校の『特別教室』へ向かうことになった。
前回の記事はこちら↓
学校へ向かう車の中は、
いつも以上に静かだった。
娘も緊張していたと思う。
そしてきっと、私も同じくらい緊張していた。
学校に着くと、学年主任の先生が特別教室まで案内してくれた。
教室の中には、支援の先生が二人と、
席に座っている女の子が一人。
とても静かで、落ち着いた空間だった。
「はじめまして。まずは好きな席を決めようか」
支援の先生はそう言って、折り紙で作った黄色い花を机に並べていった。
「このお花が置いてある場所は、他の子の席だから、それ以外から選んでね」
そう促され、
娘は少しためらうように教室を見渡したあと、
一番奥の窓際の席を選んだ。
「その席、いいね」
「景色もよく見えるよ〜」
先生方の優しい声かけに、
娘のこわばっていた表情が、ほんの少し和らいだように見えた。
そのあと、学年主任の先生から、
特別教室について詳しい説明を受けた。
この教室を利用している生徒は、
全学年で10人ほど。
基本的には、授業は通常の教室へ受けに行き、
休み時間や給食の時間に、
ここへ戻ってくる子が多いそうだ。
もし教室へ入ることが難しい場合には、
一日をこの場所で過ごすこともできるという。
そこは、
“今の教室では苦しくなってしまった子たちが、
心を落ち着けて過ごすための安全基地”
のような場所だった。
ただ、授業を受けない場合、
学習の遅れや成績面については、
学校として保証できないという説明もあった。
救われるような期待と、
漠然とした不安――
その両方が入り混じったまま、
私は教室をあとにした。
そして、昇降口まで見送ってくださった先生に、
気づけば本音がこぼれていた。
「今の子は、恵まれていますね。
こうして安心できる場所を用意してもらえて……
本当にありがたいです」
その言葉は、娘に向けたものでもあり、
かつての自分自身へ向けたものでもあった。
私が子どもの頃も、
もしこんな場所があったなら、
どれほど救われただろう。
中学生になってすぐ心のバランスを崩し、
教室で過ごす一分一秒が、
ただ苦しくて仕方がなかったあの日々。
けれど、当時の私には、
“教室以外の選択肢”は存在しなかった。
今の時代は、恵まれている。
そう思う反面、
この時代だからこその「生きづらさ」も、
きっとあるのだと思う。
それでも、
逃げ場のない苦しさを知っている私には、
その場所の存在が、どこか救いのようにも感じられた。
◆
放課後。
約束していた時刻に学校へ迎えに行くと、
娘は申し訳なさそうに言った。
「ママ、朝はごめんなさい」
思わず胸がぎゅっと苦しくなった私は、
「大丈夫だよ」
と、なんとか声を絞り出した。
決して、娘に謝ってもらいたかったわけではなかった。
帰りの車の中で、娘はその日の出来事を少しずつ話してくれた。
出られる授業にはクラスへ行き、
それ以外の時間は特別教室で過ごしたこと。
給食も、そこで食べたこと。
これから娘はどうなっていくのだろう。
また行き渋る日が来るかもしれないし、
正直、不安は尽きない。
それでも娘にとって、
“教室へ行く”以外の選択肢ができたことは、
とても大きな意味があったのだと思う。
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