【ショートストーリー】心臓が一個じゃ足りない。-Her side-
――ずっと、「幼なじみ」のフリしてただけ。
本当は、
ずっと好きやってん。
ずっと触れたかってん。
でも、そんなん言うたら、
「そんなこと思ってたん?ただの幼なじみやのに?」って引かれそうで、怖くて言えなかった。
でも今、気持ちがおんなじってわかって、
ふわって手ぇ握ってくれて。
それから、愛しそうに見つめてくれて。
ドキッてして、心臓が止まりそうで――
「心臓、一個じゃ足りない」って思った。
「こっち見て?」って。言い方。優しすぎるって。
なんなん、その甘い声。
今まで聞いたことないわ。
え?そんな声、出せるん?
……ずるい。
今までの彼女、その声ずっと聞いてたんやろな。
あの子も、あの子も。
歴代の彼女、全員見たことあるのが、
幼なじみの……あれや、特権の逆。
……いやいやいや、なんで今、歴代の彼女の顔なんか浮かんでくんの?
あかんあかん。
今の彼女は、私やん。
胸張って、好きな人の目ぇ、見れる立場になったんやで。
この手も、髪も、全部触る権利あるん私やん。
……いや、幼なじみ特権で触ったことはあるけどな。まぁ、触ったっていうか、ツッコミ…っていうか。
でも、ちゃうねん。
そういうことちゃうねん。
「好きな人に触れたい」って、関係変わったら……意味、全然ちゃうやん。
恥ずかしいな。
もぅ、目ぇ全然見られへんくて、
さっきからずっと、「待て」言われてるワンコみたいに、握ってくれてる手、じっと見つめてる。
え?こんな…ゴツゴツしてたっけ。
昔はもっと小さくて、白くて、女の子みたいやったのに。
腕もや。いつの間にそんな鍛えたん?
……あかん。
かっこえぇぇぇ…。
もう『カワイイあの子』ちゃうやん。
そうして手から腕、肩までじっくり観察していると、
腕から肩に目を向けた瞬間、急に彼が息がかかりそうな距離でひょいっと顔を覗き込んできた。
「……お。やっと目ぇ合うたな。」
…私の心臓が一個、なくなる。スペア、装着。
…うぁあぁぁぁ……ミラレタァァァ!!!たぶん!私!今!顔!真っ赤や!!!
あかんあかん。こんな乙女な顔、見られたない……!!
慌てて顔隠そう思て手動かそうとしたけど、両手がいつの間にか、しっかりめに握られてて動かへん。
どうしよ?どうしよ!って、
そのまま、どうしようもなく、顔だけ隠そうと思って、うつむいたまま彼の胸にドンッて、もたれる形になってもうて――
……いや、もたれたっていうか、もはや頭突きやな。
彼、ちっちゃい声で「うっ……!」て言ってたし。
私の中の小峠が「なにやってんだよ!恋愛でやる動きじゃねぇだろ、それ!!」ってツッコんでた。
…あぁぁ…もぉ。
……ごめん。ほんまごめん。
色気も可愛げもない頭突きかましてもうて…ごめんなさい。
そしたら、手ぇ握ったまま、私の頭にアゴのせてきて。
…ちょっと…小刻みに震えてる……
…これ、絶対笑いこらえてるやろ。
んで、
「耳、真っ赤やな」って言いながら、
指先で耳たぶ、ちょんって触ってくるんよ…。
は?なにそれ、反則すぎるやろ……
心の中で、小峠と全力で叫んだ。
「酒もってこーい!!」
……もー、無理。
シラフじゃ無理。
imagined with : ばくれん吟醸超辛口+20
photo by : どんむさん
**His side**
