【3分で読める恋物語】もしもし天国-Her Side-⭐️
#片想い文芸部 参加📕✒️
──真っ暗で何も見えない。あなたの声が光だったんだ。
星も見えない都会の空みたいに、スマホの画面は真っ黒だった。
もう何日も電源を入れてなかった気がする。
なんとなく気分が重たくて、通知を見るのもめんどくさくて。
「……充電、切れちゃったかな」
ぽそっとつぶやいて、電源ボタンに触れた、その時だった。
ふっと画面が明るくなって──まさかの着信。
「え……?」
思わず、通話ボタンを押していた。
「……もしもし?」
「お前、なんで電源切っとんねん!」
ちょっとふざけたみたいな明るい声。
世界で一番大好きだった、でも“友達”のままで終わった、彼の声。
「……ごめんごめん。うっかりしてた」
なんでか喉の奥が震える。
「…まぁ、今日も、多分そうやろなと思ったわ。」
まるで何でもないように、
いつもみたいな口調で、普通に言うのが、なんかズルい。
友達によく言われてた。
「すぐ通知見なくなるし、電源も切れてるし、心配するでしょ」って。
だから、連絡してくる人なんて、もうほとんどいない。
……でも、彼だけは違った。
いつも通じるわけじゃないのに、何度も、何度も。
根気よく、懲りずに連絡してくれた。
「なんかさ、今日、急に声、聞きたくなって。」
「……なにそれ。嬉しいこと言ってくれるじゃん」
嬉しい。ほんとに。
私も、ずっと聴きたかった声。
「俺さ、元気ないときってさ、ついお前の写真とか見返してんのよ」
「……え、なにそれ」
心臓が、きゅっと鳴った。
そういうこと、もっと早く言ってよ。
私も彼との写真はたくさんある。友達にかこつけて撮ったツーショットとか、始発待ちのカラオケでこっそり撮った寝顔とか…。言えなかった気持ち、全部こもってる。
「……って言っても、変顔ばっかやけどな」
「は?」
「ザコシショウの顔マネとか、永久保存版やからな」
「ちょっと!それ消してって言ったじゃん!」
あー…ちょっとでも期待した自分がバカだった。
笑いながら、スマホをぎゅっと握ったら、手のひらの熱が、胸の奥にまで伝わってくる気がした。
それからは、なんてことない話をした。
美味しかったもの、ちょっとした愚痴。
くだらないし、どうでもよくて、でも──すごく、大切なこと。
ふいに笑った声が、なんだか愛おしくて。
気づかないふりをしていた。
……でも。ふとした拍子に、思い出してしまった。
──ちがう。
わかってる。
本当は、この声には、もう──
息ができなくなるくらい苦しかった、あの夜のこと。
真っ暗な道。
何も見えなくて。名前を呼んでも、もう何も返ってこなかった。
なのに、今、こうして話せてしまうなんて。
気づいた瞬間、涙がこぼれた。
呼吸の仕方がわからなくなって、声を殺して泣いた。
「……なあ、今、お前、変な顔してない?」
ちょっとふざけたような声が、スマホ越しに聞こえてくる。
「今さ、絶対、変な顔してるやろ」
ふふって、笑い声がくすぐるみたいに響いて。
「……なに、それ」
泣きながら、でも、つい笑ってしまう。
「…うん。その顔の方が、ええよ。笑ってる顔が、一番。」
あたたかくて、少し照れたみたいな声。
どこかで彼が見てるんじゃないかって、思わず周りを見回してしまった。
そんなわけないのに。
「なーにキョロキョロしとんねん。」
見透かされてた。
ほんと、私のこと、よくわかってる。
「…ま、変な顔も好きだけどな」
ぽつりと、やさしい声。
「なによ、もう…」
「なあ。俺、お前が友達でよかったわ。
…一番の……めちゃくちゃ大事な人。」
"大事な人"
その言葉に、
胸の奥が、ぽうっとあたたかくなった。
これで、良いの。
私には、それだけで充分。
「じゃあな」
少しの間。深呼吸する気配。
少し迷って──でも、ちゃんと、返した。
「……またね。」
「おう。」
──ぷつん。通話が、切れた。
でも、彼の声は胸の中に残ってた。
大好きな、あの声。
スマホの画面はもう静かで、誰も映ってない。
でも、不思議とまだ、隣にいるような気がして。
……また会おうね。
そっとつぶやいて、スマホを胸に抱いた。
彼の声が、胸の奥に残ってる。
大丈夫。もう怖くない。
小さく笑って、大きく、息を吸う。
顔をあげると、
目の前に、光が差していた。
imagined with : 紀土 純米吟醸
カラクチキッド
photo by : tamaga_waさん
**His side**
なるさん、ありがとうございます。
2回目の参加です。
