私のアオハル〜タカラジェンヌの夢叶う〜後編
前編 ↓
この初めてソロをもらったショーが忘れられない。
今でも少し踊れる。曲もよく覚えている。
私はもう一度曲が聴きたくなった。
が、タイトルがわからない。
Geminiに聞いてみることにした。
「Gemini。この曲探してくれる?」
私は鼻歌を歌った。
♪トゥルルトゥットゥットゥートゥールル
トゥルルトゥットゥットゥートゥールルル
『ワカリマシタ。サガシテミマスネ』
Geminiが探している。
一生懸命、探している。
探している・・
探している・・
探している・・・探している・・・探している
「まだ?」
『イマサガシテイマスカラ。モウスコシマッテクダサイ』
なんかGeminiがムッとしているように感じた。
なかなかヒットしない。夫が「Google先生の鼻歌検索使ってみれば?」と言うので、使ってみることにした。
♪トゥルルトゥットゥットゥートゥールル
トゥルルトゥットゥットゥートゥールルル・・・
私は再び歌った。
結果・・
4%一致。
「おお!!!!!あった!!!!見つけた!これこれ!!!!」
たった4%しか一致していなかったけど、見つかったのだ。
「今のGoogleすげぇ・・・」
物静かな夫が興奮している。
さっそく聴いてみた。
「全然ちがうじゃん!!!見つけたGoogleすごいわ」
物静かな夫から激しめのツッコミが飛んできた。私が歌った鼻歌と随分違ったらしい。
夫は未だかつてないほど笑い、笑いすぎてその時頭蓋骨を痛めた。
ショーの始まり。
幕前に後ろ向きでスタンバイする。
音楽が鳴る。
高鳴る鼓動。
幕がゆっくり上がっていく。
足元からゆっくりフランクの姿が見えてくる。
音楽に合わせて帽子を両手で押さえならがくるっと観客の方に振り向き、踊り出す。
観客全員が踊る私を見る。
赤いドレスを着た踊り子達が一列に並び、フランクを誘惑する。
フランクは1人ずつ踊りながら絡んんでいき、踊り子の中から1人を選ぶ。
君だ!

踊り子の手をグッと引っ張り、2人で踊り出す。
選んだのはシェリーだ。
めちゃくちゃ楽しい。
楽しすぎて振りがぶっ飛んでしまい、どこを踊っているのかわからなくなった。
シェリーも同じことを感じているのか私を見て笑っている。
えーーーい!

私はシェリーの手を握って前に突き出し、無理やりリードした。
シェリーも合わせてくれて何とか軌道修正できたのだ。
本番て、何が起きるかわからないけどどうにかするもんだ。
ショーが終わり、ロザンナが拍手をして喜んでいる。踊り子たちがロザンナを囲む。
ロザンナは、故郷であるナポリについて語り出す。
ここの場面はよく覚えている。
先生にこっぴどく怒られたっていうか、先生、稽古途中で帰ったからね。
貧しさの中でとびきり明るく生きている人たちの悲しさ、美しさが全く伝わってこない。綺麗なものをつくるという意識を持て。想像しろ。
こんな感じでいい、っていうのが透けて見えて、ムカついてくる。
みたいなダメ出しを食らった。
「明るければ明るいほど、悲しい」が、とても難しかった。
ジョニーと妹ロザンナの場面になる。
「私、結婚するの」
ロザンナが遠いナポリからジョニーに会いに来た本当の理由が明かされる。
驚くジョニー。
「兄さんが夢を抱いて、ここに来たように、私も夢を叶えたい。こんな素敵なショーを見せてもらって・・・」
感動しているロザンナに全ては嘘だったということを打ち明けようとするジョニー。
「ジョニー!いや、アニキ!これを忘れてますぜ」
ジョニーの言葉を遮って、フランクが封筒を差し出す。
ジョニーがフランクのシェンペンを弁償しようとしていたお金だ。それをロザンナの結婚祝いとして渡させたのだ。
喜ぶロザンナを踊り子たちが踊りの輪に誘い祝福する。
フランクとジョニーが輪から外れ2人で話す。
「アニキ・・あの金は受け取れないよ」
「ジョニー、あれはお前の金だ。お前のなけなしの金を、俺がシャンペンごときで無駄にできるか。お前の妹は、俺の妹同然だ。違うか?」
フランク、ジョニーを抱きしめる。
「ほら、ロザンナに『おめでとう』くらい、言ってこい」
「・・はいっ!フランク兄貴!!」
「ロザンナ・・おめでとう!ロザンナ!」
ロザンナはみんなに見送られながら再びナポリへと旅立って行く。
いつもの朝の風景。
靴磨き台に座り、新聞を読んでいるフランク。

ヤンキースVSドジャース戦。
ドジャース勝利。
ヤンキースファンのフランクだが、今回はドジャースにどっさり賭けたとウハウハである。
そこへ、ジョニーが新しくできた自分の子分とやってくる。
「オレ、アニキのお金ヤンキースに賭けちゃったんッスよ。だってフランク兄貴、ヤンキースファンなのにドジャースなんかに賭けるワケないって気を利かせたつもりが。ま、勘弁してくださいよ」
あっけらかーんと白状するジョニーの子分。
「よくも俺の金をドブに捨てやがって」
2人を追っかけ回すフランク。
そこへ女たちが通りがかる。
「今日はキャバレー『フランク&ジョニー』の記念すべきオープンの日よ!」
キャピキャピしている女たち。
「それどころじゃない!」
相手にしない男たち。
女たちはそんな男たちに容赦なく群がり、みんな満面の笑みでフェイナーレを迎える。
エンディング・ナンバーが始まり、人びと踊り出す。
Fin
公演のあと、ロビーで客出し(観客の皆さんにご挨拶)をしていると、知らない男の人から声をかけられた。
「あの・・・かっこよかったです」
嬉しかった。
家族ではなく、知らない人にそう思ってもらえて。
その時の感動は今でもよく覚えている。
観に来てくれた家族もみんな喜んでくれた。宝塚が好きな従姉妹は泣いていた。
・・かつてタカラジェンヌを夢見た少女は、客席で観ていてくれただろうか。自分の夢が叶った瞬間を見届けてくれただろうか。
先生の稽古がない日も、みんなで場所を借りて自主練した。
稽古が終わると役について、芝居について、仲間と語り合った。
アオハルだアオハル。
毎朝5時に起き、品川で8時から16時までバイトをして、猛スピードで着替えてダッシュで山手線へ乗り込み池袋へ。22時まで稽古をして、毎晩横浜の自宅に着くのは深夜の0時を過ぎていた。
帰れない時は、池袋の漫喫で朝までコースの時だってあった。
当時はこんな過酷な毎日でも全然平気だった。
やりたいことだからできた。
好きなことだからできた。
私は舞台に芝居に夢中だった。
何かに夢中になる力はすごい。
そして何より、私は・・
若かった。
舞台は、芝居は、フランクは、私のアオハルそのものだった。
アオハルの中では毎日がキラキラしていた。
仲間と芝居を創り上げることがただただ、楽しかった。
芝居が、私の全てだった。
私は、芝居で生きていくのだと強く思った。
どんなに反対されても、私の強い意志で跳ね除けた。
でも、実際はそんな甘くはなく、精神を病むほどの厳しい世界が待っていた。
フランクで掴んだ夢の世界は、ここから暗黒時代へ突入する。
芝居の世界は苦しいことの方が多くて、とにかく孤独だ。
キラリと光る幸せの瞬間なんて、これっぽっちしかない。
そのこれっぽっちの幸せのために、役者は舞台に立つ。
苦しみと孤独に耐え、打ち勝った者にしか見えない景色がきっとそこにはあって、これっぽっちの幸せが、本当はこれっぽっちでないことを彼らは知っている。
その景色を見ることできるのは、ほんの一握りだ。
私はその景色を見ることは叶わなかったが、それでいいと思っている。
私の心から信頼している人がこう言った。
「そこに置いてきたんだね」
諦めたとか、逃げたとか、そういうのではなく、そこに「置いてきた」。
暗黒時代過ぎたけど、今となってはいい経験。
本当に今だから言えることだけど。
私のアオハルは今もなおそこで生き続けている。

私の幼い頃の夢を叶えてくれてありがとう、フランク。
また、いつか、どこかで。
Arrivederci!

