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シェフ三舟なら、あのおばさんの謎も解けたのか

『タルト・タタンの夢』近藤史恵/Audible/朗読・青山桐子 商店街の小さなフレンチのシェフが、客の抱えた小さな謎を料理ごしに解いていく連作ミステリ。

土曜日、ピラティスの帰りにドトールに寄った。

運動のあとの身体は正直で、レジに並んでいる時点でもう、頭の中はミラノサンドのことしか考えていなかった。耳の中では『タルト・タタンの夢』が流れている。商店街のフレンチレストラン、ビストロ・パ・マル。シェフの三舟さんが、客の様子のちょっとした違和感から、その人の事情を鮮やかに読み解いていく話だ。

で、注文しようとしたら、横入りされた。

年配の女性だった。私の存在がまるで見えていないような、迷いのない横入りだった。まあ、そんなこともあるよね、と思って一歩下がった。急いでいたのかもしれないし、単に見えていなかったのかもしれない。

ところが、私の番になったとき、店員さんが小さな声で「先ほどはすみませんでした」と言った。

謝られるようなことをしたのは店員さんではない。でも、当のご本人は何も気にする様子もなく、席で飲み物をさっさと飲んで、帰っていった。結果、この件について頭を下げたのは、店内でいちばん関係のない人だけということになる

頼んだのはミラノサンドB。スモークサーモンとエビとアボカドに、爽やかレモンがどうこう、とメニューに書いてあった。メニューの写真では、エビが誇らしげに整列していた。実物は、まあ、だいたい入っていた。こういうところで怒らなくなったのは、大人になったからだと思いたい。

かじると、レモンの酸味が先に来て、あとからサーモンの塩気とアボカドが追いつく。運動後の身体に酸味は沁みる。アイスコーヒーで流し込みながら、耳の中では三舟シェフが謎を解いている。

三舟シェフなら、と思った。あの飲みっぷりの速さから、あの人の事情を何か読み取ったのだろうか。急いでいた理由とか、誰かを待たせていたとか。私にわかったのは、ずいぶん飲むのが速いな、ということだけだった。現実の謎は、解かれないまま席を立っていく。

店を出て、続きを聴きながら歩いた。いま聴いている章は「ロニョン・ド・ヴォーの決意」。ロニョン・ド・ヴォーが何の料理なのか、私はまだ知らない。それが知りたくて、帰り道が少しだけ長くてもいい気がしていた。

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