18 訪問リハビリの日常【みかん】
「訪問リハビリの日常」は、私の体験をもとにしたフィクションです。登場人物は架空の人物であり、実際の出来事とは異なります。
先日、業務後にカルテを打っていると、訪問看護師さんが声をかけてくれました。
「春野さん、これ東山さんからいただいたみかんです。東山さんが、『お世話になった人たちに。私が生きてる証拠として渡してください』ですって。東山さんがお庭で採れたみかんを分けてくれたんです。」
そう言って、訪問看護師さんが手渡してくれたのは、オレンジ色に色づいたみずみずしいみかんでした。
東山さんは、半年前に担当した訪問リハビリの利用者さんです。
肺の病気で長期間入院していた方です。入院加療していましたが、寛解と増悪の繰り返しで、なかなか退院できず。入院生活の中で体力も気力も低下し、「死んでもいいから家に帰りたい。」と強く願い、主治医の「退院後1週間もたないかもしれない」という言葉を振り切って、春ごろに退院されました。
退院直後は訪問診療と訪問看護のみの支援でしたが、次第に状態が改善し、訪問リハビリが導入されました。
東山さんの一番の望みは、「大好きな庭に出て、草木の手入れをしたい。」というものでした。体力が衰えていましたが、一生懸命リハビリに取り組み、夏ごろには自分で庭に出て、草花の手入れができるまで回復しました。
そして、東山さんから「もうリハビリは大丈夫です。そろそろ卒業します。」と言われ、訪問リハビリは卒業となりました。私としてはもっと訪問リハビリを続け一緒に体力をつけていきたいとも思いましたが、「きっと東山さんなら大丈夫」と思い、ケアマネさんにお伝えし、訪問リハビリは終了となりました。
それから半年。
東山さんは、私たちリハビリのことを覚えていてくれました。自宅の庭で育てたみかんを、「生きている証」として看護師さんに託してくれたのです。看護師さんと一緒に、そのみかんを職場でこっそりいただきました。
私が訪問していた夏には葉っぱばかりだったのに、この半年で大きく実っていました。
東山さんは完治する病気ではありません。今後も長い闘病生活が続くかもしれませんが、大好きな庭で草木の手入れができる日々を過ごせているのだと思うと、胸が温かくなります。
病院で働いていたときには味わえなかった、この感覚。訪問リハビリの仕事をしていて、本当に良かったと感じる瞬間です。地域医療の素晴らしさがここにあると思います。
その時に食べた甘酸っぱいみかんの味は、きっとずっと忘れないでしょう。
「あの利用者さん、元気にしているかな」とふと思うとき、こうした優しさに触れると、心が満たされるのです。
この話は、私が体験した話をもとにしたフィクションです。登場人物は架空の人物であり、内容はフィクションです。
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