【仮説】滋賀・兵庫では新快速停車と可住地面積比率で人口増加 〜自治体人口増加データに要注意
「関西でいま、本当に人が増えている街はどこか」
全国的な人口減少が進むなか、関西圏(特に滋賀県と兵庫県)において高い人口増加率を見せている自治体があります。まずは直近の人口増減率のデータを見てみましょう。
滋賀・兵庫の主要自治体 人口増減率(2020年〜2025年)
守山市(滋賀):+3.2% (新快速停車・始発あり)
草津市(滋賀):+2.5% (新快速停車)
明石市(兵庫):+2.1% (新快速・特急停車)
野洲市(滋賀):+1.4% (新快速停車・始発駅)
尼崎市(兵庫):+0.8% (新快速停車)
加古川市(兵庫):-0.5% (新快速停車)
大津市(滋賀):-1.2% (新快速停車)
姫路市(兵庫):-2.3% (新快速・新幹線停車)
神戸市(兵庫):-2.9% (新快速・全列車停車)
(※近年の国勢調査および推計人口のトレンドに基づく主要駅周辺都市の比較)
これらの街の共通点を探るとき、多くの場合は「交通の利便性(JRの新快速)」や「自治体の子育て支援策」が挙げられます。
しかし、このランキングをよく見ると、それだけでは説明がつかない現象に気づきます。
「同じ新快速が停まる大都市(神戸市や姫路市、大津市など)が、なぜ全体としては人口減少に苦しんでいるのか」という点です。
ここで一つの仮説が浮かび上がります。
関西の人口動態を左右しているのは、駅の便利さや政策の優劣だけでなく、「新快速停車駅」×「可住地面積比率(人が住める平地の割合)」の掛け算ではないか、という視点です。
1. 新快速のポテンシャルを受け止める「平地」の有無
新快速が停車するこれらの市を、今度は「可住地面積比率(総面積に占める山林や水面を除いた平地の割合)」が大きい順に並べ替えてみます。
尼崎市(兵庫):100.0%(完全な平地都市)
明石市(兵庫):約 97.1%(播磨平野の東端)
加古川市(兵庫):約 84.1%(広大な播磨平野)
守山市(滋賀):約 81.3%(滋賀県内トップの平地)
草津市(滋賀):約 68.3%(なだらかな平野部が主流)
野洲市(滋賀):約 60.2%(新快速の始発駅)
ーーー(可住地比率 50%前後の境界線)ーーー
姫路市(兵庫):約 55.4%
神戸市(兵庫):約 40.8%
大津市(滋賀):約 26.6%
最初の「人口増加ランキング」と、この「平地(可住地)の広さランキング」を見比べると、近年の人口増加エリアが上位に集中していることがわかります。
新快速という「大都市へ高速で結ぶインフラ」があっても、それを活かすためには、「手の届きやすい一戸建てやマンション、商業施設を供給できる広大な平地」 が不可欠です。上位の市は、このインフラと地形の条件が一致しています。
2. なぜ神戸や姫路は「平均すると人口減少」になるのか
ここで「神戸市や姫路市、大津市なども新快速が停まり、駅前にはマンションが建って若いファミリー層が流入しているではないか」という疑問が生じます。
ここに、今回の仮説の最も重要な部分があります。
「可住地面積比率の低い市は、一般に広大な山間部を抱えている。そのため、駅前の平地でどれだけ人口が増えていても、山間部の深刻な人口減少によって相殺され、市全体の平均を出すと『人口減少』になってしまう」
これが、大都市がデータ上で陥っている構造です。
◆ 神戸市のケース(可住地 約40.8%)
三ノ宮駅周辺や臨海部(平地)は、マンション建設などにより現役世代が流入しています。しかし、神戸市は背後に巨大な六甲山系を抱えています。かつて山を切り開いて作った北区や西区のオールドニュータウンでは、坂道の多さや新快速駅からの遠さもあり、若者の流出と住民の高齢化が進んでいます。平地のプラスが、広大な山側のマイナスに相殺されている状態です。
◆ 姫路市のケース(可住地 約55.4%)
姫路駅周辺の再開発や、新快速の始発駅である網干周辺など、南部の播磨平野(平地)は非常に底堅く、利便性の高さから人口を維持・増加させています。しかし、姫路市は平成の大合併で北部の広大な山間部(香寺・安富・夢前など)を内包しました。これらのエリアの急激な人口減少が、南部の健闘をデータ上、完全に相殺してしまっています。
3. 「足を引っ張る山がない」という草津・守山・明石の強さ
この構造を逆から見ると、草津市、守山市、明石市がなぜ人口増加率で高い数字を維持できるのかの理由がハッキリします。
これらの街には、統計上の足を引っ張るような「広大な山間部」がそもそも存在しないのです。
市域のほぼ全域が「駅からアクセスしやすい平地」で構成されているため、どこかのエリアが足を引っ張って相殺するということがありません。駅周辺や平野部での開発による人口増加が、そのままストレートに「市全体の人口増加」としてデータに反映されます。
まとめ:人口増加=「市政が優秀」と安易に考えてはいけない
これらを踏まえると、私たちは一つの視点を持つことができます。それは、「人口が増加しているからといって、その自治体の政策や手腕が他より圧倒的に優れていると安易に評価してはいけない」 ということです。
ここまで見てきた通り、人口増加の大部分は「新快速が停まる」「市域にフラットな平地が広がっている」という、過去のインフラや天然の地形的条件に大きく依存しているのが実態です。
逆に、神戸市や姫路市のように、過疎化や高齢化が進む広大な山間部・中山間地域を抱えながら、地域を維持し、駅前再開発を進めている自治体は、構造上「市全体の平均値(人口減少)」としてはどうしても数字が悪く見えてしまいます。しかしそれは、決して「市政が慢心や怠慢だから」ではありません。簡単には解決できない「地理的二極化」という構造を背負いながら戦っている結果なのです。
自治体の人口データを見るときは、表面的な「増えた・減った」の数字に一喜一憂するべきではありません。
その数字の背景にある「地形の有利・不利」を差し引いて見なければ、本当に評価されるべき自治体の努力や、現実に起きている地域格差の本質を見誤ることになります。
