丁寧な心理描写と愛に溢れたお話【母の家出とガールフレンドの憂鬱・創作大賞感想】
愛に溢れたお話だった。そして紹介されていたご飯がとても美味しそうで、思わず涎がじゅるりと溢れてしまいそうになる。
読み終えた後、不思議とすべてのキャラクターを愛おしくなってしまう。そんな家族の素敵なお話に触れることができ、胸がほくほくしている。
作品「母の家出とガールフレンドの憂鬱」の作者は、noteでさまざまなエッセイを執筆している青空ちくわさん。
ちくわさんはマイナビのコンテストでグランプリを受賞している実力者である。
彼女のエッセイはキャンプや家族のほっこりエピソードまで幅広く、いずれの作品も描写が丁寧で温かく、読み終えた後は心がホカホカして心地よい。
どんなに疲れた日も、彼女の作品を読むと不思議と頬がゆるりと綻ぶ。だから私は彼女の作品が好きだ。彼女の温かいオーラは文章にも滲み出ている。
話してみたい。そう思った私は昨年、オンライン交流会に声をかけた。それから長く彼女とは交流を重ねており、私は勝手に「マイハニー」と呼んでいる。もちろん本人に直接声をかけているわけではなく、心の中で「こっそり」である。
ちくわさんは、昨年度創作大賞の方ではエッセイ部門に応募している。
ちくわさんは中村倫也さんのファンであり、こちらのエッセイではその偏愛と妄想が見事作品の中に昇華されていて、とても楽しい。私も妄想するなら、ここまでやり切りたいと思ったくらいだ。こちらもぜひ読んでほしい。
今回紹介する作品は、ちくわさんにとって創作大賞で初挑戦となる小説。ストーリーは失踪した母が残した謎のメッセージ「○○○○」と共に始まる。全体的にほのぼのしたストーリー展開の中に、ひと匙のミステリー要素が含まれているので、ちょっぴり「謎解き感覚」も楽しめる。
失踪したお母さんのキャラクターも実に楽しい。なぜか失踪しているのに、息子にアレをしてしまう母。あんなシーンや、こんなシーンでのユニークな行動も面白い。(ネタバレを防ぐためにアレで表現させてください)
あえて「僕」も、失踪した母に居場所を聞いたり「いつ帰ってくるの」と聞かない距離感も良い。私なら聞いてしまう。離れていてもお互いを信頼しているのだろうか。素敵な親子だと思った。
母のひょうきんなメッセージや、セリフも面白い。友達にいたら楽しそう。けれど、もしお母さんだったら……そして自分が思春期の男子だったなら。けれど、なぜか不思議と憎めない自分がいる。
そんな母の薫さんが心配で仕方ない再婚相手の洋平さん。自由で掴みどころがない薫さんの良き理解者でもあり、優しくてとてもいい人。実際にお会いしたことがあるからかもしれないが、大きな海のように穏やかな青空ちくわさんの姿とも重なった。
ドラマ映画を最近よくみる私。僕役を北村匠海さん、薫さんが浅田美代子さん、洋平さんがリリーフランキーさんで脳内再生されていた。(北村匠海さんは少年期も違和感なく演じられる稀有な役者なのである)
母と義父と、その間で揺れる「僕」の心。本当は、母のことが大好き。けれども——。
家族。恋。進学。悩みの種に遭遇するたびに葛藤する「僕」の複雑な気持ちが丁寧に描写されているので、45歳の私も「僕」の気持ちで楽しむことができた。
