できる料理人は、お残しから学ぶ
先日、ある地方都市のホテルで
宴会料理についてご相談をいただきました。
国際会議やガラディナーなど
訪日客を迎える機会も多いホテルです。
「宴会での料理が結構残ってしまうんです。」
私はそれを聞いて一つ質問しました。
「どのメニューがどれくらい残っていますか?」
少し間があって返ってきた答えは、
「実は、そこまでは見ていません。」
こうしたやり取りは実は珍しいことではありません。
料理人は、料理をつくることに真剣です。
食材を吟味し、味を整え、美しく盛り付ける。
その一皿に、技術と経験、そして想いを込めます。
しかし、「どう食べられたか」まで見に行く料理人は
実はそれほど多くないというのが私の印象です。
一方、海外では少し事情が違います。
学校給食や病院、ホテルなどでは
「Plate Waste Analysis(食べ残し分析)」が普及しています。
どの料理が残ったのか。
なぜ残ったのか。
その事実を分析し、次の献立や調理方法の改善につなげていく手法です。
つまり、お残しは「失敗」ではなく、「改善のためのデータ」として扱われているのです。
もちろん、お残しの理由は一つではありません。
味付けかもしれません。
料理の量かもしれません。
提供する順番かもしれません。
あるいは、宗教や食習慣への配慮が十分ではなかったのかもしれません。
例えば、ヴィーガンやムスリムのお客様が参加する宴会で
お残しが多かったとします。
そこで、「料理がおいしくなかった」と結論づけるのは早すぎます。
安心して食べられるか分からなかっただけかもしれません。
表示が分かりにくかっただけかもしれません。
料理人が見るべきなのは、「残った」という結果ではなく、その背景です。
私は、お残しは料理人にとって最高の教材だと思います。
お客様は必ずしも感想を口にしてくださるわけではありません。
アンケートを書いてくださる方も一部です。
でも、お皿は嘘をつきません。
どの料理が食べられ、どの料理が残ったのか。
そこには、お客様の率直な反応があります。
できる料理人は、包丁を握る時間だけで成長するわけではありません。
お客様を観察し、結果を受け止め、次の一皿に生かす。
その積み重ねが、料理の価値を高め、お客様の満足度を高め、食品ロスも減らしていきます。
フードダイバーシティへの対応も同じです。
「対応しました」で終わるのではなく、本当に召し上がっていただけたのか。安心して食事を楽しんでいただけたのか。
そこまで見届けてこそ、本当の意味での「対応」です。
料理人の仕事は、料理を完成させることではありません。
お客様に喜んでいただくことです。
だから、できる料理人は今日も、お残しから学び続けています。
そして私は、そんな文化が日本の飲食業界にも広がっていくことを期待しています。
