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63歳の知性が最新詐欺を完全論破する【小説】『パンドラ・ファイル』(その4)虚構の箱舟(アーク) ~楽園を売る詐欺師たち~第4章(最終章):賢者の休息

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 会場は混乱の極みにあったが、天城は詐欺容疑で連行されていった。
 彼のウォレットにあった数十億円の資金は、Bitの手によって凍結され、持ち逃げは阻止された。

 騒動が落ち着いたホテルのロビーで、田畑は呆然とソファに座り込んでいた。

「……僕は、なんて馬鹿なことを。SEシステムエンジニアとして三十年やってきたのに、あんな単純なコードの罠も見抜けないなんて」
 田畑の声は震えていた。
 退職金の前借りは、ギリギリで送金を止めることができた。金銭的な被害は最小限で済んだが、彼のプライドはズタズタだった。

「専門家だからこそ、騙されることもある」

 剣崎は、自販機の缶コーヒーを田畑に手渡した。
「君は『技術』を信じたかったんじゃない。『夢』を信じたかったんだ。……老後の不安という闇が、あの詐欺師の安っぽいメッキを、黄金に見せてしまったんだよ」

 田畑は涙を拭い、コーヒーを一口飲んだ。
「……目が覚めました。一発逆転なんてない。地道にコツコツやるのが、一番の近道なんですね」

 数日後。
 剣崎は自宅の書斎で、モニター越しの仲間たちと祝杯を上げていた。

Bit:
『天城の逮捕状、余罪がボロボロ出てきたね。これでしばらくは塀の中だ』

Abacus:
『だが、金は戻っても、失われた時間は戻らない。……高い勉強代になったな』

 剣崎はグラスを傾けた。

 画面の向こうの彼ら彼女らも、そして自分も、決して正義のヒーローやヒロインではない。
 ただ、理不尽なロジックが許せないだけの、偏屈な人間たちだ。

「さて、次の仕事バグまで、少し休むとしようか」

 剣崎はモニターを落とした。

 窓の外には、欲望と不安が渦巻く東京の夜景が広がっている。
 この街には、まだ無数の「偽の箱舟」が浮かんでいるだろう。
 だからこそ、剣崎宗一郎は今日も、論理という名の灯台を守り続けるのだ。

(完)