「国家公認」も「伝説」も全部嘘。63歳の知性が暴く仮想通貨詐欺の虚構!【小説】『パンドラ・ファイル』(その4)虚構の箱舟(アーク)~楽園を売る詐欺師たち~(全4章)第1章:賢者たちの憂鬱
「100倍になる」
そのコインは、あなたを救う箱舟か?それとも泥船か?
不安につけ込む「劇場型・仮想通貨詐欺」に、元SEの部下が騙された。
敵は「超人」を自称するカリスマ詐欺師。
63歳の知性派シニア・剣崎が、華麗な演出の裏にある“技術的な嘘”を完全論破するシリーズ、その4。
東京の湾岸エリアを見下ろす高層マンションの一室。
深夜二時。都市の灯りが眼下に広がる書斎で、剣崎宗一郎は、香り高いコーヒーを淹れていた。
六十三歳。白髪交じりの髪を整え、背筋はピンと伸びている。かつては大手IT企業のシステムエンジニアとして、その後は企業再建を担う経営コンサルタントとして、修羅場をくぐり抜けてきた男だ。
だが、今の彼にはもう一つの顔がある。
デスク上の三枚のモニターが青く輝き、そこに暗号化されたチャットルームが浮かび上がる。
国際高知能連盟『ノウス(NOUS)』。
全人口の上位2%のIQを持つ者だけが入会できるこの組織の中に、さらに極秘で招待制のクローズド・フォーラム『パンドラ』が存在する。そこは、警察の手が届かない「社会の悪意」を、論理と技術でデバッグすることを愉しみとする、変わり者たちの秘密基地だ。
剣崎はこの「パンドラ」のリーダー、Axiom(公理)である。
Bit(ビット):
『やあ、Axiom。今日は珍しく早いね』
生意気な口調の主は、世界最高峰のホワイトハッカー。二十代半ばと若いが、その指先一つで企業のサーバーを沈黙させる技術を持つ。
Madame_Rose(マダム・ローズ):
『最近、街の空気が悪いのよ。人々の「焦り」の匂いが充満しているわ』
元銀座の伝説的ママにして、臨床心理学の博士号を持つメンタリスト。
Abacus(アバカス):
『……円安にインフレか。金のない奴ほど、一発逆転の夢を見たがる。詐欺師にとっては書き入れ時だな』
元国税局の調査官。金の流れから犯罪の臭いを嗅ぎつける、数字の鬼。
「ああ。まさにその『一発逆転の夢』に、私の古い友人が食われかけている」
剣崎は、昼間に会ったかつての部下・田畑のことを思い出した。
真面目な技術者だった田畑が、「このコインさえ買えば、老後は安泰なんです!」と血走った目でスマホを突きつけてきた姿。
ターゲットは『天城恭弥』。アーク・コインという仮想通貨で、数百億を集めている男だ。
「Bit、被害者の属性分析を」
Bit:
『了解。……うわ、これは酷い。老若男女、バラバラだよ』
モニターに、アーク・コインの購入者リスト(ハッキング済み)の一部が表示される。
・ケースA: 20代男性、フリーター。「FIRE(早期リタイア)してタワマンに住みたい」と借金をして購入。
・ケースB: 30代・シングルマザー。「子供を私立に入れたい」という親心につけ込まれ、生活費を投入。
・ケースC: 70代夫婦、元・町工場経営。「日本円は紙くずになる」と脅され、工場の売却益を全額送金。
全員が、現状に不安を抱え、一発逆転の「箱舟」に乗ろうとしている。天城は、その切実な願いを人質に取っているのだ。
「許せん、イカサマだ。……天城恭弥の化けの皮を剥ぐぞ」

