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【小説】ファインダーの向こう側 ~潮風とハレーション~第六章:ガラクタたちの逆襲

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 私の監督セクションへの転向は、シネクラ内に大きな波紋を広げた。
 その波は、私に三つのものをもたらした。

 一つ目は、「試練」だった。
 当然ながら、監督希望の新入生に、潤沢な予算や最新機材が回ってくるはずもなかった。
 私が割り当てられたのは、部の片隅で埃をかぶっていた旧式の8ミリカメラと、数本だけ残っていた期限切れのフィルム。
 そして、部のヒエラルキーの頂点に立つエース監督の神崎先輩は、あからさまな妨害をして来た。
「新人の女に監督が務まるか」と公言してはばからず、優秀なスタッフが私のチームに参加しないよう、圧力をかけているらしかった。
 彼の撮る映画のヒロインになった絵里香もまた、ことあるごとに私に絡んできた。
「ヒロインから逃げた負け犬」というのが、彼女の私に対する評価、というか、難癖だった。

 二つ目は、「仲間」だった。
 神崎先輩の独裁的なやり方や、部の体育会的なノリについていけずに、隅の方で小さくなっていた一部の部員が、私の元に自然と集まってきたのだ。
 人見知りで、面白いアイデアをたくさん持っているのに発表できない脚本家志望の沙織さおり
 彼女は「茅乃かやのさんが撮りたいと言っているものは、私がずっと書きたかった物語と同じ匂いがする」と、震える声で脚本を差し出してくれた。
 機材の知識は誰よりも豊富なのに、コミュニケーションが苦手で孤立していた照明係の健太けんた
 彼は「神崎先輩は機材をスペックでしか見ない。でも、茅乃かやのさんはこの古いカメラのレンズの“味”を分かってくれる」と、目を輝かせた。
 彼ら彼女らは、部の主流からはじき出されていた、いわば「ガラクタ」の集まりだった。
 だけど、私の「誰にも文句を言わせない一本を撮る」という無謀な挑戦に、彼ら彼女らは静かな情熱を燃やしてくれた。
 私たちは、部室の隅の、誰も使わない机をアジトにして、夜遅くまで映画談義に明け暮れた。
 それは、生まれて初めて経験する、本当の意味での「仲間」との時間だった。

 そして三つ目が、明確な「敵対者」の存在だった。
 私にとっての敵は、もはや絵里香個人ではなかった。
 彼女を「完璧な美しさ」という檻に閉じ込めてミューズとして消費する神崎先輩と、彼が作り出す「才能とセンスがなければ人にあらず」という、このシネクラ全体を支配する空気そのものが、私の戦うべき相手だった。
 神崎先輩の映画は技術的には完璧で、光も構図も非の打ち所がない。
 だが、そこには、私が撮りたいと願う、人間の不器用さや、ままならなさ、その奥にある小さな輝きが、決定的に欠けていた。

 期限切れのフィルム、寄せ集めのスタッフ、そして部内の権力者からの圧力。
 数々の試練の中、私たちは、ガラクタにしか撮れない映画作りを始めた。
 それは、私の冒険が、孤独な戦いから、チームでの逆襲へと姿を変えた瞬間だった。

(第七章に続く)