【学校が教えないお金の講座の連載小説その1】『学校をサボった僕は、秘密のお金の授業を受けることにした。』第3話:時間の切り売り、自分の仕組み
学校が終わると、僕は一目散にあの商店街へと走っていた。
カバンの中で教科書がガタガタと音を立ててたけど、もう、気には、ならなかった。
あの日以来、僕の頭の中はレンさんの言葉でいっぱいだった。
「お金は、価値と交換するチケット」。
じゃあ、そのチケットを僕たちはどうやって手に入れればいいんだろう。
カラン、コロン…
鈴の音とともに『コンパス』の扉を開けると、レンさんは温かい紅茶を淹れて待っていてくれた。
「やあ、ハルトくん。
今日はサボらないで、放課後に来てくれたんだね。
偉いじゃないか」
「レンさん、聞きたいことがあるんです」
僕はカバンを置き、ココアではなく紅茶を一口飲んでから、ずっと考えていた疑問をぶつけた。
「僕たち子どもがお金を手に入れる方法って、親からお小遣いをもらうか、大きくなってバイトするくらいしかありませんよね。
それって普通のことじゃないんですか?」
レンさんは優しく笑って、店の奥にある、ひときわ大きな古時計を指さした。
「ハルトくん。アルバイトや普通の仕事っていうのはね、『自分の時間』を切り売りして、チケットと交換するゲームなんだ。
時給1,000円なら、君の人生の『1時間』を会社に差し出して、1,000円をもらう」
チク・タク、チク・タク…と、古めかしい時計が規則正しい音を立てている。
「でもね、このゲームは、絶対に勝てないんだ。
だって、人間の時間は1日24時間しかないからなんだ。
どんなにがんばって働いても、売れる時間には限界がある。
体を壊して休んだら、チケットは1枚も手に入らなくなる」
「限界……。
確かにそうですね。
でも、みーんな、そうやって働いてますよね?」
「そう。
学校のチャイムがまさにその訓練だったろう?
『時間通りに席について、言われた通りに作業をこなす』。
・・・そうやって時間を売るロボットになるための、訓練なんだ。
でも、世の中の本当の自由人、つまり、お金持ちの人たちは、時間を売ったりはしない。彼らは『仕組み(・・・つまり、システムとも呼ばれているもののこと)』を売ってるんだ」

「仕組み……ですか?」
「例えばね、君が『本が大好きだけど、どの本を読めばいいか分からない人』のために、面白い本を代わりに選んで紹介する仕組み、例えばネットのブログとか、あと、工夫次第できっと色々あるんだろうけど、そんなのを作ったとする。
君が寝ている間も、その仕組みが誰かの悩みを解決して、感謝される。
そこには『24時間の限界』なんて、全然ないんだよ。
自分の時間を売ってお金に換えるんじゃなくって、誰かの役に立つ価値を生み出して行くんだ」
レンさんの言葉は、僕の頭の中にあった、いつの間にか凝り固まっていた常識を、またしてもガラガラと崩していった。
時間を売るんじゃなくて、価値、つまり、仕組みを作る。
「よし、じゃあハルトくんに、初めての『クエスト(任務)』を出そう」
レンさんはそう言って、その辺の散らかり放題になったままの本棚をぐるりと見渡した。
「このお店は本が多すぎて、お客さんがどこに何の本があるのかさっぱり分からないんだ。
だから、みんな、本を買わずに帰ってしまう。
この『困りごと』を、君のアイデアで解決してごらん。
時間をかけて棚を雑に片付ける(時間を売る)だけじゃダメだよ。僕が寝ている間でも、お客さんが自分で面白い本を見つけられるような『価値のある仕組み』を作ってほしい。
大成功したら、僕から本物のチケットを支払おう」
クエスト。
ゲームの冒険者になったみたいで、僕の胸は、なんだか、ドキドキと高鳴り始めた。
僕は散らかった本棚の前に立って、とりあえず、腕を組んでみだ。
ただの片付けじゃダメだ。
僕がここを去った後も、ずっと役に立ち続ける仕組み。
山積みの古い本もあるし、手書きの地図だって。他にもいっぱい・・・
それらを眺めているうちに、僕の頭の中に、キラリと光る「あるアイデア」がひらめいた。

「レンさん。僕、やってみます!」
僕はカバンからノートとペンを取り出して、床に座り込んで、夢中でペンを走らせ始めた。
(第4話へ続く)
