【noteでBL】小岩井と林
▲こちらの企画に参加させてもらいました。
▲ 役場の観光課に務める小岩井と林のお話です。
ジャンル:日常ほのぼの
毎年、冬が開けて山開きが来ると町の名物である水晶の採集に出かけている、小岩井と林。採集してくれる人手はあるが現場の苦労も知っておきたいと、林が単独で許可を得て始め、それに小岩井が付き添う形で始まった二人きりの恒例行事となっていた。
・縛り・
①「家以外の、作者の大好きな場所や土地、時代を舞台にした話」にしてください。
②「食事シーン」を書く。
・お題・
『脊髄反射』
初夏迫る、湿った空気が山間の緑を深く見せている。晴天とは言い難い、薄暗い雲に空は覆われていた。
小岩井の指が、胸ポケットに入れた「入山・鉱物採取許可証」の感触を無意識に確かめた。林が起案し、手作業でラミネート加工を施したそれは、二人の町おこしへの熱意の証でもある。
眼鏡を押し上げ、小岩井は再び川底に視線を落とした。
「少し足元が緩いな。リン、気をつけろよ」
「あ、本当だ。コイもな」
林は安全な岩場へと慎重に足を移した。
川で足をとられると、大人でも流される時がある。今日の流れは緩やかではあったが、それでも慎重に歩を進めていく。
「そっちは?あった?」
声をかけられて、小岩井は屈めた腰をゆっくりと伸ばした。その指先には、川底の土にまみれた白い塊がある。それを川水で洗い、空に向けて透かせた。
「いや、ただの石英だ。でも、このあたりに脈があるかもしれないな」
「水晶のたまごか」
林は、石英を『水晶のたまご』と呼んでいる。
厳密に言えば、石英も水晶も成分は同じ二酸化ケイ素だ。石の中で結晶が大きく、無色透明に育ったものだけが水晶という特権的な名を与えられる。
「戻しておくか」

ちゃぷ、と川底へ石英を戻す。
二人は再び、探索へと没頭する。
初夏が近いとはいえ、まだ川の水は冷たい。
長靴を履き、ざぶざぶと水をかき分けて進む。川底の石には藻がまとわりついていて、気をつけて歩かないと滑りそうだ。
───不意だった。
背後から林の手が伸びてきて、小岩井は咄嗟に振り向いた。
バシャ、と水音が大きく響く。
「大丈夫か!?」
「あ、ごめん。 びっくりした?」
どうやら転んだわけではないようだ。
林が、小岩井の二の腕に両手でしがみつき、見上げている。
静まり返る二人の間をさらさらと、川は絶え間なく流れている。ぽこ、と岩に当たった水が泡になって弾けた。
「いや………。大丈夫だ」
片手で顔を覆い、小岩井は深く息を吐きながら眼鏡を押し上げた。
「それならいいんだけど。俺のこと、じっと見てくるからさ。恋でも始まってたのかと…」
「お前な………」
無邪気に笑う林に、小岩井が呆れたようにため息をついた。林は時々、こういう冗談を言う。自分の中に『恋愛感情』という回路が存在しないことを、持ちネタの1つにしていた。
「お前は一旦、転んどけ」
「ごめんて」
小岩井の眉間の皺が深くなる前に、林は素直に謝った。素っ気なく腕を振り払うが、小岩井も口元がほころんでいた。
雲の隙間から、陽の一筋が差し込む。
水面でキラキラと光が揺れ、小岩井は眩しそうに眼鏡を外した。
「石井くん達にも、お土産持ってってやりたいよな」
林はしゃがんでまた一つ、川底から石を拾い上げた。それはただの石英ではなく、結晶がわずかに成長しているようにも見える。
「あ、これ。ちょっとだけ透き通ってる」
「どれ…」
小岩井が顔を近づけた。
「まだ『たまご』かなぁ」
林がそう呟き、二人は肩を寄せ合ったまま、結晶を空に透かせて見上げた。
小岩井の視線が結晶から、それを覗き込む林の横顔へと流れる。見上げる瞳には、無垢なきらめきがあった。
────探索を切り上げて、二人は入口に止めていた車に戻っていた。
後部座席に置いていたクーラーボックスを開け、冷えた飲み物でごくごくと喉を潤す。
「しみるー!」
この瞬間がたまらない、と林は声を上げる。
「スープも飲んでおけよ」
と、小岩井はスープジャーから林の分を紙コップに注ぎ、手渡した。
中身は小岩井手製の、鶏肉と生姜の白湯スープだ。白胡麻とクコの実、小さく切られたサラダチキンと生姜のシャキシャキ感が歯ざわりを愉しませてくれる。
「うまー」
シャクシャクと、咀嚼しながら林が言う。
「思ったより冷えてるもんだな。はー……、あったかくて、沁みるぅ…」
「おかわりは?」
「欲しい」
追加でもう一杯。すす…と啜り、林は目を閉じて味わっている。
「これでラーメン食べたいな…。いや、春雨か?」
「春雨が丁度良かったな。ラーメンだと少し薄い」
「ちぢれてる細麺でさ」
「今度試してみるか」
やったー、と林が運転席のシートに身を沈める。そして、ふぁ、と大きく欠伸をした。
「なぁ、コイ。帰るの、ひと眠りしてからでもいい?」
ハンドルをゆらゆら動かして林が訊ねる。最初からそのつもりなのか、まだエンジンはかかっていない。
小岩井も助手席で大きく伸びをし、つられて欠伸をした。
「そうだな…。その間に、水晶でも磨いておくか」
「タイマーかけとくからさ、コイも休めば?」
林がスマートフォンのアプリでタイマーをセットし、ホルダーに置いた。
「お疲れさま」
眠さで半分とろんとしながら、林が掌を小岩井に向ける。
「お疲れ」
軽くタッチをし、「胡麻、ついてるぞ」と林の口に指で触れ、指摘する。
ペロッと林は舌で胡麻を巻き取り、もぐもぐと口を動かした。
鞄からアイマスクを取り出し、小岩井も座席シートにもたれかかる。
「何だ、準備万端じゃないか。おやすみ」
そう笑って林も目を閉じ、ギシ、と座席シートを沈ませた。
空の雲は散り散りになり、陽光が辺りを柔らかく包みこんでいる。存分に探索を楽しんだ二人が眠りにつくまで、そう時間はかからなかった。

あとがき:
好きな場所として今回は『川原』を選択しました。川原や海が身近にある町で育ったので、水辺が好きですね。
本編の地方移住のお話ではこの二人は脇役です。脇役の話を広げるの愉しい。
▲二人の中学時代
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
