【掌編小説】午年(#風まかせ文芸部)
ぼくは、ご機嫌だった。
るんるんと跳ねるぼくを、蜂は鬱陶しそうに眺める。
「お前、はしゃぎ過ぎ」
「だって、だってさ! 今年はぼくの年なんだもの!」
今年は午年。十二年に一度、ぼく達馬の年がやってくる。
「そんなに楽しいものか? 地上の馬はどうだか知らねぇが、天界の馬であるお前は仕事が増えるだけだろ」
訝しげに言う蜂に、ぼくはぶるるんと鼻を鳴らした。
「楽しいよ! いつもは天界で走ってるだけだけど、午年だけは地上も走り放題!」
目を輝かせて言うと、蜂は呆れたようにため息をついた。
「お前がただ走り回りたいだけだ、ってのはよくわかった」
「それだけじゃないよ! 人の世で民の願いを叶えたり、農作物の出来を見たりするのも楽しい!」
「⋯⋯まあ、お前のことだから、天馬としての役目も疎かにはしねぇんだろうが」
蜂はそっぽを向きながら、ぼくの鼻先にぶーんと降り立った。
「仕方ねぇから、俺も付き合ってやるよ。お前だけ人の世に行かせるのは不安すぎる」
「え、ほんと? 君も一緒に来てくれるの?」
嬉しさに、声の高さが跳ね上がる。にこにこしているぼくをちらっと見て、蜂はちっと舌打ちしながらまたそっぽを向いた。
「能天気なお前だけじゃ、頼りないからな」
「嬉しい! 一緒に人の世をたくさん見物しようね!」
「お前、考えなしに走り回って迷子になったりするなよ」
「わかった、気をつけるね。じゃあ、今から行こう!」
思い立ったが吉日だし、とぼくが言うと、蜂は慌てて「わかってなさそうだし、何事も準備ってものがあるだろ!」と怒鳴った。
「わかったってば。じゃあ、すぐ準備しよう!」
「はいはい。ったく⋯⋯」
人の世に行くの、楽しみだな。たくさん走って、人の世が前に進んでいくように力を授けて、今年をいい年にしよう。
決意を新たに、ぼくは蜂を鼻先に乗せたまま風のように駆け出した。
久しぶりに、風まかせ文芸部さんのお題で書かせていただきました。
テーマが「馬」ということで、昨年投稿したこちらの作品の世界観をもとに、馬くんと蜂くんのほっこり場面を書いてみました。今年一年、躍進するよい年になりますように。
画像は、みんなのフォトギャラリーよりお借りしました。
